価格転嫁の仕組みを活用した栃木県企業の実践術と交渉ポイント解説
2026/07/28
原材料費や労務費が上昇しても、「取引先に断られそう」「値上げ幅の計算方法が分からない」と価格改定を先送りしていませんか。価格転嫁が遅れると、利益だけでなく、賃上げや設備投資に使う資金も失われます。本記事では、栃木県の中小企業向けに、原価上昇額の算定、根拠資料の作成、取引先への伝え方、合意の記録までを順番に解説します。2026年施行の取適法と県内の無料相談先も確認できます。
目次
価格転嫁とは何か|仕組みと対象コスト
価格転嫁とは何か|仕組みと対象コスト
価格転嫁とは、原材料費、労務費、エネルギー費、物流費などの上昇分を、商品・サービスの販売価格や取引条件へ反映することです。
単に価格を引き上げることではありません。どのコストが、いつから、どの程度上昇し、商品や取引ごとの利益へどのような影響を与えているかを確認したうえで、取引先や顧客へ合理的な根拠を示す必要があります。
価格転嫁を行わずに従来の価格を維持すると、売上が変わらなくても利益と資金が減少します。その結果、賃上げ、設備更新、人材採用、品質維持などに必要な原資を確保できなくなる可能性があります。
一方、仕入価格の上昇分を一律に上乗せすればよいわけでもありません。
商品・サービスによって、使用する材料、作業時間、物流条件、取引量は異なります。取引先との契約内容や市場価格も確認し、商品別・取引先別に転嫁の必要額を計算することが重要です。
価格転嫁と関連する取り組みは、次のように整理できます。
取り組み 主な内容
原価把握 商品・サービスを提供するために必要な費用を確認する
価格転嫁 上昇したコストを販売価格や取引条件へ反映する
価格改定 販売価格そのものを見直す
取引条件の変更 最低発注量、送料、納期、支払条件等を見直す
原価低減 工程、仕入れ、在庫、外注等を改善して費用を削減する
付加価値向上 品質、機能、対応力等を高め、価格へ反映する
価格転嫁は、原価低減と対立する取り組みではありません。自社で改善できる無駄を削減したうえで、自社だけでは吸収できないコスト上昇分について価格改定を求めます。
また、価格転嫁は製造業だけの課題ではありません。
建設業、運送業、卸売業、小売業、飲食業、介護・福祉、IT、専門サービスなどでも、人件費、燃料費、仕入価格、外注費等が上昇すれば、価格や契約条件を見直す必要があります。
価格転嫁の仕組みと利益への影響
価格転嫁の仕組みと利益への影響
価格転嫁を検討するには、最初に販売価格がどのような費用と利益で構成されているかを確認します。
基本的な考え方は次のとおりです。
販売価格=直接費+間接費+利益
直接費とは、特定の商品やサービスへ直接対応させやすい費用です。材料費、製造にかかる人件費、外注加工費、個別配送費などが該当します。
間接費とは、複数の商品や事業に共通して発生する費用です。管理部門の人件費、家賃、システム利用料、減価償却費、保険料などが含まれます。
区分 主な費用
直接材料費 原材料、部品、商品、包装材等
直接労務費 製造、施工、運送、接客等に直接従事する人件費
直接経費 外注加工、個別配送、現場経費、試験費等
間接製造費 工場の電気代、修繕費、設備の減価償却費等
販売費 営業人件費、広告費、販売手数料等
一般管理費 管理人件費、家賃、通信費、システム費等
利益 将来の投資、返済、納税、内部留保等の原資
販売価格を決める際に、材料費や外注費だけを見ていると、実際には利益が残っていない可能性があります。
特に中小企業では、経営者や家族従業員の作業時間、設備の減価償却費、見積もりや顧客対応にかかる時間などが原価へ十分に反映されていない場合があります。
コスト上昇は売上ではなく利益を直接減らす
例えば、ある製品の販売価格と原価が次の状態だったとします。
項目 コスト上昇前 コスト上昇後
販売価格 10,000円 10,000円
1個当たり原価 8,500円 9,100円
1個当たり利益 1,500円 900円
売上高利益率 15% 9%
原価が600円増えた場合、販売価格を据え置くと、1個当たりの利益は1,500円から900円へ減少します。
原価の上昇率は約7.1%ですが、利益は40%減少しています。
このように、原価の上昇率が小さく見えても、利益に与える影響は大きくなる場合があります。
コスト上昇前の利益額を維持する場合、必要な販売価格は次のように計算できます。
◆9,100円+1,500円=10,600円
一方、売上高利益率15%を維持する場合は、次の計算になります。
◆9,100円÷(1-15%)=約10,706円
「従来の利益額を維持するのか」「従来の利益率を維持するのか」によって、必要な価格は異なります。
実際の改定価格は、原価、受注量、競合価格、顧客との取引条件、今後の投資などを踏まえて決定します。詳しい計算方法は第3章で解説します。
売上が増えても利益が減る場合がある
売上が増えても利益が減る場合がある
十分に価格転嫁できていない状態で受注量を増やすと、売上は増えても資金繰りが悪化する場合があります。
例えば、次のような状態です。
・原材料の購入量が増える
・外注費や残業代が増える
・在庫や売掛金が増える
・利益が少ないため手元資金が残らない
・設備の修繕や更新資金を確保できない
・借入金の返済負担が相対的に重くなる
受注量を増やす前に、商品・サービスごとの限界利益や採算を確認する必要があります。
販売価格から変動費を差し引いた金額がマイナスであれば、受注量を増やすほど損失が拡大します。
◆限界利益=販売価格-販売量に応じて増減する変動費
固定費を含めた最終的な利益だけでなく、追加受注によってどれだけ利益が増えるかも確認しましょう。
価格転嫁率だけで成否を判断しない
価格転嫁率だけで成否を判断しない
価格転嫁の状況を確認するときは、転嫁を要請した金額のうち、実際に価格へ反映できた割合を把握します。
◆価格転嫁率=価格へ反映できたコスト上昇額÷転嫁を必要とするコスト上昇額×100
例えば、1個当たり600円のコスト上昇に対し、販売価格を300円引き上げられた場合、価格転嫁率は50%です。
ただし、価格転嫁率が100%であっても、もともとの価格が適正原価を下回っていれば、十分な利益は残りません。
反対に、販売価格を変更しなくても、最低発注数量、送料、特急対応料、仕様などを見直すことで採算が改善する場合があります。
価格転嫁の結果は、次の項目を組み合わせて確認します。
確認項目 主な内容
転嫁率 コスト上昇分をどの程度反映できたか
粗利益 材料費や外注費等を差し引いて利益が残るか
営業利益 人件費や管理費を含めて採算が取れているか
限界利益 追加受注によって利益が増えるか
資金繰り 仕入れや外注費の支払いを維持できるか
取引量 価格改定後も必要な受注量を確保できるか
顧客維持 主要顧客との取引を継続できているか
投資余力 賃上げ、設備更新、人材育成等を行えるか
単価以外の取引条件も見直す
価格転嫁は、製品やサービスの単価を引き上げる方法だけではありません。
取引内容によっては、次の条件を見直すことで採算を改善できます。
・送料を別途請求する
・少量注文に小口料金を設定する
・特急・短納期対応に追加料金を設定する
・無償で行っていた設計や見積もりを有料化する
・金型、治具、検査、梱包等の費用を分ける
・最低発注数量を設定する
・頻繁な仕様変更に追加費用を設定する
・長期間据え置いていた保守料金を改定する
・支払サイトを短縮する
・原材料価格に応じた価格調整条項を設ける
例えば、同じ製品でも、月1,000個をまとめて納品する取引と、10個ずつ短納期で繰り返し納品する取引では、受発注、段取り、検査、梱包、配送にかかる費用が異なります。
単価だけでなく、取引条件を含めた総採算を確認することが重要です。
価格転嫁で対象となる原材料費・労務費・経費
価格転嫁で対象となる原材料費・労務費・経費
価格転嫁で対象となる原材料費・労務費・経費
価格転嫁の対象は、原材料費だけではありません。
人件費、電気・ガス等のエネルギー費、運送費、外注費、設備維持費など、商品・サービスの提供に必要な費用が上昇している場合は、価格への反映を検討します。
主な対象コストは次のとおりです。
コスト区分 主な内容 根拠となる資料の例
原材料費 鋼材、樹脂、木材、食品原料、部品、商品等 請求書、見積書、仕入台帳、価格指数
労務費 給与、賞与、手当、法定福利費等 賃金台帳、給与規程、最低賃金、賃金統計
エネルギー費 電気、ガス、燃料、水道等 請求書、使用量、料金単価
物流費 運賃、保管、荷役、梱包、宅配便等 運送会社の見積書、請求書
外注費 加工、設計、施工、保守、システム等 外注先の見積書、契約書、請求書
設備関連費 減価償却、修繕、保守、リース等 固定資産台帳、保守契約、修繕記録
間接経費 家賃、通信、保険、システム、消耗品等 契約書、請求書、経費台帳
法令・品質対応費 検査、認証、安全対策、環境対応等 見積書、認証費用、検査記録
すべての経費を一律に転嫁対象とするのではなく、対象となる商品・サービスとの関係を確認します。
原材料費は購入単価だけで判断しない
原材料費の上昇を計算する際は、仕入単価だけでなく、使用量や歩留まりも確認します。
1個当たり材料費=材料の購入単価×使用量÷歩留まり
例えば、材料価格が上昇していなくても、不良や端材が増えて歩留まりが悪化している場合、1個当たりの材料費は上昇します。
ただし、自社の工程管理不足による廃棄増加まで、すべて取引先へ転嫁できるとは限りません。市場価格の上昇と自社の改善課題を分けて確認する必要があります。
原材料費では、次の項目を確認しましょう。
・仕入単価
・購入数量
・送料・輸入費用
・為替の影響
・使用量
・歩留まり
・端材・廃棄
・代替材料の有無
・値上がりが一時的か継続的か
・既に販売価格へ反映した金額
仕入先から届いた値上げ通知だけでなく、過去の請求書や仕入台帳を使って実際の上昇額を確認します。
労務費は作業時間と時間単価に分ける
労務費は、給与の支給額だけではありません。
会社が負担する社会保険料、賞与、手当、退職給付、福利厚生費などを含めて把握する必要があります。
◆1時間当たり労務費=年間の総人件費÷実労働時間
◆1個当たり労務費=1時間当たり労務費×標準作業時間
総人件費へ含める項目は、会社の計算目的によって異なりますが、一般的には次の費用を確認します。
・基本給
・賞与
・時間外手当
・通勤手当等の各種手当
・会社負担の社会保険料
・退職金や退職給付
・福利厚生費
・採用費
・教育・研修費
ただし、採用費や教育費などを直接労務費へ含めるか、間接費として配賦するかは、社内で計算基準を統一する必要があります。
また、従業員の作業時間を把握していなければ、商品別の労務費を正確に計算できません。
製造時間だけでなく、段取り、検査、清掃、記録、移動、顧客対応などの付随作業も確認します。
公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」では、最低賃金の上昇率や公表された賃金統計などを、労務費上昇の根拠として活用する考え方が示されています。
出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」
自社の給与明細や従業員別賃金を取引先へそのまま提出するのではなく、公表資料と自社の作業時間・人員構成を組み合わせ、必要な範囲で説明しましょう。
エネルギー費は使用量と料金単価を分ける
電気、ガス、燃料等の費用は、使用量と料金単価に分けて確認します。
◆エネルギー費=使用量×料金単価+基本料金等
料金単価の上昇による影響と、生産量や設備稼働時間の増加による影響を分けることが重要です。
例えば、電気料金の総額が20%増加していても、生産量が30%増加している場合は、製品1個当たりの電気代が下がっている可能性があります。
商品別に電気使用量を直接測定できない場合は、次の基準で配賦します。
・機械の稼働時間
・設備の消費電力
・製造数量
・作業時間
・使用面積
・売上高
・標準原価
売上高だけで配賦すると、電力を多く使う製品の原価を過小評価する場合があります。費用の発生原因に近い基準を選びましょう。
物流費は契約条件まで確認する
物流費には、運賃だけでなく、梱包、保管、荷役、再配達、待機時間などの費用も含まれます。
確認する主な項目は次のとおりです。
・商品の重量と容積
・配送距離
・配送回数
・納品先数
・時間指定
・小口配送
・緊急配送
・梱包資材
・パレット・通い箱
・倉庫保管
・積込み・荷下ろし
・荷待ち時間
・返品・再配送
従来、商品価格に送料を含めていた場合でも、燃料費や運賃の上昇によって採算が悪化している可能性があります。
商品価格へ含めて改定する方法と、送料を別項目として請求する方法を比較しましょう。
外注費は自社工程との重複に注意する
外注費は自社工程との重複に注意する
外注加工、設計、保守、システム開発などの外注費が上昇した場合も、価格転嫁の対象となり得ます。
ただし、外注費を原価へ加えたうえで、同じ作業を自社の労務費にも含めると二重計上になります。
次の内容を整理してください。
・どの工程を外注しているか
・外注単価がいつから上昇したか
・発注数量は変わっているか
・送料や材料費をどちらが負担するか
・自社で追加作業が発生するか
・内製した場合の費用はいくらか
・代替する外注先があるか
外注先からの値上げ要請についても、一方的に拒否するのではなく、原価や労務費の上昇について協議する必要があります。
間接費は合理的な基準で配賦する
家賃、管理部門の人件費、システム利用料、保険料などは、特定の商品へ直接対応させにくい費用です。
そのため、次のような基準を使って商品・サービスへ配賦します。
配賦基準 適している費用の例
売上高 営業費、販売管理費
製造数量 共通設備の費用、工場経費
作業時間 管理・監督費、共通作業費
人員数 福利厚生費、事務所費
使用面積 家賃、光熱費
機械稼働時間 減価償却費、修繕費
受注・請求件数 受発注、請求、事務処理費
配賦基準は、価格改定のたびに都合よく変えてはいけません。
同じ基準を継続して使用し、変更する場合は理由を記録します。
基準時点と比較時点をそろえる
コスト上昇額を計算するときは、比較する期間と計算方法を統一します。
◆単位当たりコスト上昇額=現在の単位当たりコスト-基準時点の単位当たりコスト
例えば、前年平均と当月だけを比較すると、季節変動や一時的な大量購入の影響を受ける場合があります。
次の点をそろえましょう。
・比較する期間
・税込み・税抜き
・購入数量
・生産数量
・材料の規格
・輸送条件
・為替換算方法
・配賦基準
・既に反映した値上げ分
・一時的な費用の取扱い
月ごとの変動が大きい費用は、3か月平均や6か月平均を使う方法もあります。
商品別・取引先別に未転嫁額を把握する
全社の原価が上昇していることだけを説明しても、個別取引の価格改定根拠としては不十分です。
商品・サービス別にコスト上昇額を把握し、さらに取引先ごとの販売価格や取引条件へ照らして確認します。
◆未転嫁額=コスト上昇額-既に価格へ反映できた金額
次の表を作成すると、転嫁が必要な取引を把握しやすくなります。
商品・取引先 現行価格 基準原価 現在原価 コスト上昇額 反映済み額 未転嫁額
製品A・取引先甲 10,000円 8,500円 9,100円 600円 300円 300円
製品A・取引先乙 10,200円 8,500円 9,100円 600円 0円 600円
製品B・取引先甲 15,000円 12,000円 12,400円 400円 500円 0円
取引量、今後の受注見込み、改定時期なども加えると、交渉の優先順位を決めやすくなります。
価格転嫁の根拠資料を整理する
価格転嫁の検討では、次の資料を準備します。
・仕入先からの値上げ通知
・過去と現在の見積書・請求書
・仕入台帳
・賃金台帳
・電気・ガス・燃料等の請求書
・運送会社・外注先の料金表
・商品別原価表
・作業時間の記録
・製造数量・販売数量
・公的機関が公表する価格指数
・最低賃金や賃金統計
・業界団体が公表する資料
中小企業庁は、価格交渉に利用できるハンドブック、原材料費やエネルギー費等の推移を確認できる資料、価格転嫁の支援ツールを公開しています。
出典:中小企業庁「価格交渉・転嫁の支援ツール」
ただし、公表された価格指数が上昇しているだけでは、自社のコスト上昇額を証明できない場合があります。
公表資料は市場全体の動向を示す補足資料として利用し、自社の請求書、原価表、作業時間等と組み合わせましょう。
価格転嫁前の原価確認手順をまとめる
価格転嫁の準備は、次の順番で進めます。
①価格を見直す商品・サービスを選ぶ
②基準とする時点・期間を決める
③原材料費、労務費、経費を分類する
④現在の購入価格と使用量を確認する
⑤商品・サービス単位へ原価を換算する
⑥間接費を合理的な基準で配賦する
⑦基準時点と現在の原価を比較する
⑧既に転嫁できた金額を確認する
⑨商品別・取引先別の未転嫁額を計算する
⑩請求書、公表統計等の根拠資料を整理する
価格転嫁は、値上げを依頼する場面から始まるものではありません。
自社の原価構造を把握し、どの費用が、なぜ、いくら増えているのかを説明できる状態にすることが出発点です。
次章では、価格転嫁が栃木県の中小企業に必要な理由と、価格交渉で確認すべき取引上のルールについて解説します。
価格転嫁が栃木県の中小企業に必要な理由と法的ルール
価格転嫁が栃木県の中小企業に必要な理由と法的ルール
価格転嫁は、単に利益を増やすための値上げではありません。
原材料費、労務費、エネルギー費、物流費などが上昇するなかで、雇用、品質、供給体制を維持し、事業を継続するために必要な取り組みです。
コスト上昇を自社だけで吸収し続けると、売上が維持されていても利益と現預金が減少します。その結果、賃上げ、設備更新、人材育成、借入金返済などに必要な資金を確保できなくなる可能性があります。
一方、取引先へ一方的に値上げを通知すればよいわけでもありません。
価格改定では、コスト上昇の内容、改定額の計算根拠、適用時期、対象となる商品・サービスなどを整理し、取引先と協議する必要があります。
また、中小企業は受注者であると同時に、外注先や仕入先へ発注する立場でもあります。
自社が販売価格への転嫁を求めながら、外注先からの価格協議には応じないという対応では、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を実現できません。
価格転嫁を考える際は、次の2つの立場を分けて確認しましょう。
自社の立場 主な対応
受注者・販売者 原価を把握し、必要な価格改定を取引先へ申し入れる
発注者・購入者 仕入先や外注先からの協議要請に応じ、根拠を確認する
両方に該当する場合 販売先への転嫁と仕入先への対応を一体で管理する
価格転嫁が必要な理由と先送りするリスク
価格転嫁を先送りしても、原材料費や人件費の上昇が止まるとは限りません。
むしろ、価格を据え置く期間が長くなるほど未転嫁額が積み上がり、一度に大幅な価格改定が必要になる可能性があります。
例えば、年間売上高1億円、売上原価と販売管理費の合計が9,500万円、営業利益が500万円の会社を考えます。
項目 コスト上昇前 コスト上昇後
売上高 1億円 1億円
売上原価・販売管理費 9,500万円 9,800万円
営業利益 500万円 200万円
営業利益率 5% 2%
コストが300万円増加すると、売上高が変わらなくても営業利益は60%減少します。
この状態で設備修繕、賞与、借入金返済などの支出が重なると、損益計算書では黒字でも現預金が不足する可能性があります。
価格転嫁は賃上げ原資の確保に必要になる
人材を採用・定着させるためには、最低賃金の上昇への対応だけでなく、既存従業員の昇給、賞与、福利厚生、人材育成なども必要です。
しかし、人件費が上昇しても販売価格を据え置けば、増加分を利益から負担することになります。
労務費上昇への対応 主な影響
価格へ転嫁する 利益と賃上げ原資を確保しやすくなる
生産性を高めて吸収する 改善余地がある場合は有効だが、投資や時間が必要になる
利益から負担する 利益と現預金が減少する
採用・昇給を抑える 人材不足や退職につながる可能性がある
残業や少人数運営で対応する 従業員の負担や品質リスクが高まる可能性がある
生産性向上は重要ですが、設備導入や業務改善だけですべての労務費上昇を吸収できるとは限りません。
生産性向上によって自社で吸収する部分と、取引価格へ反映する部分を分けて検討しましょう。
価格転嫁は品質と供給体制の維持にも関係する
価格を据え置くために、必要な検査、設備保全、人材教育などを削減すると、短期的には費用を抑えられても、品質や供給体制へ悪影響を与える可能性があります。
価格転嫁が不十分な場合に起こり得る問題は次のとおりです。
・老朽設備を更新できない
・修繕や点検を先送りする
・必要な人材を採用できない
・熟練従業員の待遇を改善できない
・教育・研修を実施できない
・品質検査の人員や時間を確保できない
・原材料や外注先を価格だけで選ばざるを得ない
・短納期や小口注文へ対応できない
・災害や設備故障に備えた在庫を持てない
・情報セキュリティ等への投資を行えない
取引先にとっても、仕入先の経営が悪化して供給停止や品質低下が起これば、自社の事業へ影響します。
価格交渉では、自社の利益だけでなく、品質、納期、供給継続を維持するために必要な改定であることを説明しましょう。
価格転嫁の先送りは資金繰りを悪化させる
原材料費や外注費は、売上代金を回収する前に支払うことが一般的です。
仕入価格が上昇すると、同じ数量を販売する場合でも先に必要となる運転資金が増加します。
例えば、材料費の支払いから売上代金の回収まで3か月かかる会社で、月間材料費が1,000万円から1,200万円へ増加した場合、単純計算では3か月分で600万円の追加運転資金が必要になります。
◆追加運転資金の目安=月間コスト増加額×支払いから回収までの月数
価格転嫁が遅れると、利益が減るだけでなく、増加した仕入資金を借入金や預金で補う状態になりやすくなります。
次のような兆候がある場合は、商品別・取引先別の採算を確認してください。
・売上が増えているのに預金が減少している
・仕入代金の支払いが負担になっている
・短期借入金が増えている
・税金や社会保険料の支払いが厳しい
・設備修繕や賞与を先送りしている
・役員個人から会社へ資金を入れている
・売掛金や在庫が増加している
・融資金で日常的な赤字を補っている
資金不足を借入れだけで補うと、借入残高と毎月の返済額が増加します。
価格、原価、売掛金、在庫を同時に見直すことが重要です。
価格転嫁を遅らせるほど交渉が難しくなる
「取引先に迷惑をかけたくない」「次回の契約更新まで待ちたい」と考え、価格交渉を先送りする場合があります。
しかし、複数年分のコスト上昇を一度に反映しようとすると、改定率が大きくなり、取引先が受け入れにくくなる可能性があります。
例えば、毎年3%ずつコストが上昇しているにもかかわらず、3年間価格を据え置けば、単純な合計ではなく複利で約9.3%上昇します。
◆3年間の累積上昇率=1.03×1.03×1.03-1=約9.3%
価格を長期間固定するのではなく、半年または1年ごとに原価を確認し、必要に応じて協議する仕組みを設けましょう。
契約書に、原材料価格や最低賃金などの変動に応じて価格を協議する条項を設ける方法もあります。
一律値上げでは不採算取引を解消できない場合がある
全商品を一律5%値上げしても、商品や取引先ごとのコスト上昇が異なれば、不採算取引が残る可能性があります。
例えば、次のような取引は、標準商品よりも費用が多く発生します。
・小ロットで発注される
・発注回数や納品回数が多い
・短納期対応が求められる
・個別設計や仕様変更が多い
・検査や提出書類が多い
・専用の梱包・物流が必要になる
・支払サイトが長い
・無償の保守・問合せ対応が多い
・見積提出後の失注が多い
・受注量の変動が大きい
価格転嫁では、材料費や人件費の上昇だけでなく、取引条件によって発生する費用も確認します。
取引先別に次の項目を整理しましょう。
確認項目 主な内容
売上高 年間・月間の取引額
粗利益 材料費・外注費等を差し引いた利益
作業時間 製造、設計、営業、事務等に必要な時間
注文条件 数量、頻度、納期、仕様変更
物流条件 納品回数、距離、梱包、荷役
回収条件 締日、支払日、振込手数料
無償対応 見積もり、試作、保守、返品等
将来性 継続受注、成長性、ほかの商品への展開
重要な取引先だから赤字でも継続する、という判断を行う場合もあります。
その場合でも、赤字額と継続理由を把握し、いつまで許容するかを決める必要があります。
価格改定後の数量減少も試算する
価格を引き上げると、受注量や顧客数が減少する可能性があります。
そのため、価格改定前に複数のケースを試算します。
ケース 改定率 数量の変化 確認する内容
基本ケース 予定どおり 小幅減少 利益と資金繰りを維持できるか
慎重ケース 予定どおり 大幅減少 固定費と返済を賄えるか
部分転嫁 希望額未満 数量維持 未転嫁額をどのように改善するか
取引終了 改定不成立 受注なし 代替顧客や固定費削減が必要か
価格改定によって売上高が減少しても、赤字受注が減れば利益と資金繰りが改善する場合があります。
売上高だけで判断せず、粗利益、限界利益、営業利益、現預金への影響を確認しましょう。
価格転嫁しない理由を曖昧にしない
価格転嫁を行わない場合も、経営判断として理由を明確にします。
価格を据え置く理由 確認すべき内容
長期契約がある 価格改定・再協議条項がないか
競合価格が低い 品質や条件が本当に同じか
重要顧客である 赤字額と将来の利益を把握しているか
一時的なコスト上昇である いつまで続くか、累積負担はいくらか
自社で改善できる 改善額、期限、担当者が明確か
取引減少が心配である 数量減少時の利益を試算したか
交渉経験がない 支援機関や専門家を活用できないか
「言い出しにくい」「昔から同じ価格だから」という理由だけで据え置くと、経営課題が見えなくなります。
据え置く取引、値上げする取引、条件を変更する取引を分けて判断しましょう。
価格転嫁に関係する取適法・労務費転嫁指針
価格転嫁に関係する取適法・労務費転嫁指針
価格交渉では、取引先との関係だけでなく、取引適正化に関する法令や指針を理解する必要があります。
2026年1月1日、従来の下請法は、改正により「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」へ名称が変わりました。
略称は「中小受託取引適正化法」、通称は「取適法」です。
用語も次のように変更されています。
改正前の用語 改正後の用語
親事業者 委託事業者
下請事業者 中小受託事業者
下請代金 製造委託等代金
下請法 取適法
取適法では、価格協議への対応、支払方法、適用基準、対象取引などが見直されています。
出典:公正取引委員会「取適法・振興法」
取適法はすべての企業間取引へ一律に適用されるわけではない
取適法の適用は、発注者と受注者の資本金・従業員数、委託する業務の内容などによって判断されます。
主な対象には、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託などがあります。
2026年の改正では、資本金基準に加えて従業員数の基準が設けられました。
公正取引委員会は、製造委託等では従業員数300人、役務提供委託等では従業員数100人を基準として案内しています。
ただし、発注者と受注者の規模の組合せや取引内容によって適用の可否は異なります。
「自社は中小企業だから必ず保護される」「取引先が大企業だから必ず適用される」と判断してはいけません。
次の内容を整理して、公正取引委員会や専門家へ確認しましょう。
・発注者と受注者の資本金
・常時使用する従業員数
・委託する業務の内容
・自社が顧客へ提供している商品・サービス
・発注書や契約書の内容
・発注日
・納品・役務提供日
・支払条件
取適法の対象外であっても、取引上の地位を利用して不当に不利益を与える行為は、独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題になる可能性があります。
価格協議へ応じない一方的な代金決定は禁止される
取適法では、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、委託事業者が協議に応じない、必要な説明を行わないなど、一方的に代金を決定する行為が禁止されます。
例えば、次のような対応には注意が必要です。
・値上げの申入れを無視する
・担当者が回答せず長期間放置する
・協議日程を繰り返し先延ばしにする
・根拠を確認せず従来価格に据え置く
・値上げできない理由を説明しない
・受注者の提示資料を検討せず拒否する
・「全社方針だから」という理由だけで価格を固定する
・価格を一方的に通知し、協議の機会を設けない
ただし、受注者が希望した価格を、発注者が必ず受け入れなければならないという意味ではありません。
双方が根拠を示して協議し、合意できない場合は、発注量、仕様、納期、物流、代替案などを含めて条件を検討します。
受注者側も、口頭で値上げを伝えるだけでなく、次の事項を書面やメールで明確にしましょう。
・協議を申し入れた日
・対象となる商品・サービス
・コストが上昇した項目
・希望する改定額・改定率
・希望する適用開始日
・根拠となる資料
・面談や回答を希望する期限
・担当者・連絡先
協議の申入れと回答は、後から確認できる形で保存することが重要です。
買いたたきや代金減額にも注意する
取適法では、協議へ適切に応じない一方的な代金決定のほか、買いたたき、代金の減額、支払遅延なども禁止されています。
価格転嫁に関係する主な行為は次のとおりです。
注意すべき行為 主な内容
買いたたき 通常支払われる対価と比べて著しく低い代金を不当に定める
一方的な代金決定 協議要請へ応じず、必要な説明もなく代金を決める
代金の減額 発注後、受注者の責任がないのに合意額から差し引く
支払遅延 定められた期日までに代金を支払わない
購入・利用強制 指定する商品やサービスを不当に購入・利用させる
経済上の利益の提供要請 協賛金、人員、作業等を不当に負担させる
報復措置 申告等を理由に取引数量を減らす、取引を停止する
実際に違法となるかは、取引内容、当事者の関係、協議経過、価格水準などによって判断されます。
値下げの要請や協賛金の依頼がすべて禁止されるわけではありませんが、受注者の利益を不当に害していないかを確認する必要があります。
発注後の一方的な価格変更を避ける
取引開始前に価格が決まっていない、または発注後に価格を変更する場合は、特に注意が必要です。
次のような進め方は避けましょう。
・単価を決めずに作業を開始させる
・納品後に発注者が単価を決める
・見積額を確認せず発注する
・仕様追加後も価格を据え置く
・原材料を変更させながら追加費用を認めない
・発注数量を減らしても従来の単価を求める
・検査や書類作成等の追加作業を無償で求める
・合意した価格から「値引き」等を差し引く
発注時には、代金、支払期日、給付内容、納期などの取引条件を明確にします。
仕様や数量が変更された場合は、作業を進める前に費用と納期への影響を確認し、変更内容を書面や電子データで残しましょう。
手形払いや振込手数料の負担にもルールがある
2026年1月1日以降に発注される取適法対象取引では、手形による支払いが禁止されています。
電子記録債権やファクタリング等についても、支払期日までに手数料等を含む代金相当額の満額を得ることが困難な支払方法は禁止されます。
また、振込手数料を中小受託事業者へ負担させることも禁止されています。
価格が改定されても、回収までの期間が長い、手数料を差し引かれるといった条件が残れば、受注者の資金繰りは改善しません。
価格だけでなく、次の支払条件も確認しましょう。
・支払期日
・現金・振込等の支払方法
・振込手数料の負担者
・検収日の取扱い
・請求締日
・相殺の有無
・値引き・リベート
・ファクタリング等の手数料
・支払条件変更の通知方法
労務費転嫁指針は発注者と受注者双方の行動を示している
内閣官房と公正取引委員会は、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表しています。
この指針は2026年1月1日付けで改正され、発注者、受注者、双方が取るべき12の行動が整理されています。
出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」
主な内容は次のとおりです。
立場 求められる主な行動
発注者 経営トップが方針を決定し、社内外へ示す
発注者 受注者からの要請がなくても定期的に協議する
発注者 説明資料を求める場合は公表資料を基本とする
発注者 サプライチェーン全体で適切な転嫁を進める
発注者 受注者から要請があれば協議の場を設ける
発注者 必要に応じて価格計算の考え方を提案する
受注者 価格転嫁サポート窓口等を活用する
受注者 最低賃金や賃金統計等の公表資料を活用する
受注者 定期的な価格改定時期等を活用して要請する
受注者 発注者の提示を待たず、希望額を自ら提示する
双方 日頃から定期的にコミュニケーションを行う
双方 交渉記録を作成し、双方で保管する
労務費は、原材料価格のように請求書だけで上昇額を説明しにくい費用です。
そのため、次の公表資料を組み合わせて根拠を示します。
・地域別最低賃金
・公共工事設計労務単価
・ハローワークの求人賃金
・厚生労働省の賃金統計
・日本銀行の企業向けサービス価格指数
・業界団体が公表する人件費・運賃等の資料
・春季労使交渉の賃上げ率
・官公庁等が公表する労務単価
自社の従業員別給与や個人情報をすべて開示する必要があるとは限りません。
公表資料によって外部環境を説明し、自社の商品やサービスに必要な作業時間を組み合わせて、労務費上昇の影響を示しましょう。
発注者は受注者からの要請を待たない
労務費転嫁指針では、発注者側から定期的に協議の場を設けることが求められています。
特に次の取引は、発注者から状況を確認することが重要です。
・長期間価格が据え置かれている
・人手に依存する工程が多い
・最低賃金上昇の影響が大きい
・短納期・小口対応が多い
・無償の付帯作業がある
・受注者の代替先が少ない
・受注者が価格交渉を申し出にくい
・多段階の委託構造になっている
「受注者から値上げ要請がなかったため価格を据え置いた」という理由だけでは、適切な対応とはいえない場合があります。
少なくとも年1回または半年に1回など、業種や取引実態に応じて定期的な協議時期を決めましょう。
受注者は希望額と適用時期を自ら提示する
受注者側も、「価格を検討してほしい」とだけ伝えるのではなく、具体的な希望条件を示す必要があります。
価格協議の申入れでは、次の内容を整理します。
項目 記載する内容
対象 商品名、品番、サービス、契約等
現行価格 現在の単価・契約額
希望価格 改定後の単価・契約額
改定額 金額または改定率
適用時期 いつの発注分・納品分から適用するか
主な理由 原材料費、労務費、物流費等の上昇
根拠 請求書、公表統計、原価計算等
代替案 数量、仕様、納期、配送等の見直し
回答期限 いつまでに回答・協議を希望するか
発注者から価格を提示されるのを待つと、自社に必要な価格と異なる金額で交渉が進む可能性があります。
第1章で把握した未転嫁額を基に、希望額を自社で計算しましょう。
交渉記録は双方で保管する
価格交渉では、合意した金額だけでなく、協議の経過を残します。
記録する主な事項は次のとおりです。
・協議を申し入れた日
・参加者
・対象商品・サービス
・提示した改定額
・提出した資料
・発注者からの質問
・双方の回答
・合意した価格
・適用開始日
・合意できなかった事項
・次回の協議予定
・仕様・数量・納期等の変更
・契約書・発注書の修正内容
口頭で合意した場合も、面談後に議事録や確認メールを送り、認識の違いがないか確認します。
記録を残しておけば、担当者の交代、次回の価格改定、取引上の問題が発生した場合に経緯を確認できます。
価格交渉を理由とする不利益な取扱いに注意する
価格協議を申し入れたことだけを理由に、取引数量を不当に減らす、取引を停止するなどの対応は、取適法や独占禁止法上の問題となる可能性があります。
受注者側は、次のような事実があった場合、記録を残してください。
・価格協議の直後に発注量が大幅に減少した
・見積参加から外された
・担当者から交渉を取り下げるよう求められた
・協議要請を理由に契約更新を拒否された
・不要な商品・サービスの購入を求められた
・協賛金や追加作業を求められた
・相談機関への申告を止めるよう求められた
ただし、受注量の減少や取引終了には、需要減少、品質、納期、経営方針の変更など別の理由がある場合もあります。
事実関係を整理し、公正取引委員会、下請かけこみ寺、よろず支援拠点、弁護士等へ相談しましょう。
パートナーシップ構築宣言を実務へ反映する
パートナーシップ構築宣言は、企業がサプライチェーン全体の共存共栄と、取引適正化に取り組むことを宣言する制度です。
栃木県では、経済団体、労働団体、行政機関が連携し、パートナーシップ構築宣言と適切な価格転嫁を推進しています。
出典:栃木県「パートナーシップ構築宣言について」
宣言を登録するだけで価格転嫁が実現するわけではありません。
次のような社内運用へ反映する必要があります。
・発注方針を経営者が決定する
・購買担当者へ方針を周知する
・価格協議の受付窓口を決める
・定期的な協議時期を設定する
・労務費上昇を価格へ反映する
・発注書や契約書を整備する
・支払条件を確認する
・交渉記録を保存する
・外注先への無償作業を見直す
・取組状況を経営会議等で確認する
受注者として価格転嫁を求めるだけでなく、発注者として適切に協議へ対応する体制を整えましょう。
価格転嫁に関する法令・指針の確認手順をまとめる
価格交渉を始める前に、次の順番で確認します。
①対象となる商品・サービスと契約を確認する
②自社が発注者・受注者のどちらに当たるか整理する
③発注者と受注者の資本金・従業員数を確認する
④委託内容が取適法の対象取引に該当するか確認する
⑤契約書・発注書・支払条件を確認する
⑥コスト上昇額と希望価格を計算する
⑦書面またはメールで価格協議を申し入れる
⑧双方が根拠を示して協議する
⑨合意内容を書面へ反映する
⑩協議記録と根拠資料を保管する
⑪不利益な取扱い等があれば事実を記録する
⑫判断が難しい場合は公的窓口や専門家へ相談する
取適法や労務費転嫁指針は、希望した値上げを自動的に認める制度ではありません。
しかし、発注者が協議へ応じず、一方的に価格を決定することを防ぎ、双方が根拠を示して価格を話し合うための重要なルールです。
栃木県は、県内企業向けに価格交渉の準備、事例、ガイドライン、相談窓口等を案内しています。
出典:栃木県「適切な価格転嫁の実現に向けた支援情報等」
次章では、商品・サービスごとの価格転嫁額を計算する方法と、取引先へ提示する交渉資料の作り方を解説します。
価格転嫁の計算方法と交渉資料の作り方
価格転嫁の計算方法と交渉資料の作り方
価格転嫁を取引先へ申し入れるには、「コストが上がったので値上げしたい」という説明だけでは不十分です。
対象となる商品・サービスについて、基準時点と現在の原価を比較し、コスト上昇額、希望する改定価格、適用時期を具体的に示す必要があります。
ただし、会社全体の経費上昇率を、そのまますべての商品へ一律に適用してはいけません。
商品ごとに使用する材料、作業時間、設備、物流条件は異なります。取引先によって発注数量、納品回数、検査、支払条件なども異なるため、商品別・取引先別に計算することが重要です。
価格転嫁の計算は、次の流れで進めます。
①対象となる商品・サービスを決める
②現行価格と現在の取引条件を確認する
③比較する基準時点を決める
④基準時点と現在の原価を計算する
⑤コスト上昇額と未転嫁額を確認する
⑥維持したい利益額・利益率を決める
⑦希望する改定価格を計算する
⑧数量減少等を含む複数ケースを試算する
⑨根拠資料を整理する
⑩取引先別に交渉の優先順位を決める
価格転嫁の計算で重要なのは、計算式を複雑にすることではありません。
どの数字を、どの資料から使用し、どのような基準で商品へ配賦したのかを説明できるようにすることです。
価格転嫁率・改定単価を原価から計算する方法
価格転嫁額を計算する際は、最初に現行価格、基準原価、現在原価、現在の利益を整理します。
基本的な計算式は次のとおりです。
◆単位当たりコスト上昇額=現在の単位当たり原価-基準時点の単位当たり原価
◆単位当たり未転嫁額=単位当たりコスト上昇額-既に価格へ反映した金額
◆希望改定価格=現行価格+単位当たり未転嫁額
この計算は、コスト上昇前の利益額を維持する場合の基本的な考え方です。
ただし、もともとの価格が不採算であった場合や、将来の設備投資・賃上げに必要な利益を確保できていない場合は、コスト上昇額だけを上乗せしても適正な価格にはなりません。
商品別に基準原価と現在原価を比較する
例えば、販売価格1万円の製品について、基準時点と現在の原価が次の状態だったとします。
原価項目 基準時点 現在 上昇額
原材料費 3,500円 3,850円 350円
労務費 2,500円 2,650円 150円
エネルギー費 500円 550円 50円
物流費 400円 450円 50円
外注費 600円 600円 0円
間接費 1,000円 1,000円 0円
原価合計 8,500円 9,100円 600円
販売価格 10,000円 10,000円 0円
利益 1,500円 900円 ▲600円
コスト上昇前の1個当たり利益1,500円を維持する場合、必要な価格は次のとおりです。
◆希望改定価格=現在原価9,100円+従来利益1,500円=10,600円
◆希望改定率=(10,600円-10,000円)÷10,000円×100=6%
この場合、原価は約7.1%上昇していますが、必要な価格改定率は6%です。
原価上昇率と価格改定率は、分母が異なるため一致するとは限りません。
利益額を維持する場合と利益率を維持する場合を分ける
価格改定では、従来の利益額を維持するのか、従来の利益率を維持するのかを決めます。
前述の例では、コスト上昇前の利益率は15%です。
◆コスト上昇前の利益率=1,500円÷10,000円×100=15%
現在原価9,100円に対して利益率15%を維持する場合、必要な価格は次のようになります。
◆希望改定価格=現在原価÷(1-目標利益率)
◆9,100円÷(1-15%)=約10,706円
価格設定の考え方 改定後価格 1個当たり利益 利益率
現行価格を維持する 10,000円 900円 9.0%
従来の利益額を維持する 10,600円 1,500円 約14.2%
従来の利益率15%を維持する 約10,706円 約1,606円 15.0%
将来の設備更新や人材採用に必要な利益が不足している場合は、単なるコスト上昇分の転嫁ではなく、価格設定そのものを見直す必要があります。
ただし、「利益を増やしたい」という説明だけでは、取引先の理解を得にくい場合があります。
コスト上昇への対応と、品質向上、供給維持、新たなサービス等に必要な価格改定を分けて説明しましょう。
利益率と原価への上乗せ率を混同しない
利益率を計算するときは、売上高を分母とする方法と、原価を分母とする方法があります。
◆売上高利益率=利益÷販売価格×100
◆原価への上乗せ率=利益÷原価×100
例えば、原価8,000円へ25%を上乗せすると、販売価格は1万円、利益は2,000円です。
◆8,000円×1.25=10,000円
この場合、原価への上乗せ率は25%ですが、売上高利益率は20%です。
◆2,000円÷10,000円×100=20%
目標利益率20%を確保するために、原価へ単純に20%を上乗せすると、必要な利益率を確保できません。
◆8,000円×1.20=9,600円
◆(9,600円-8,000円)÷9,600円×100=約16.7%
目標とする売上高利益率から販売価格を計算する場合は、次の式を使用します。
◆販売価格=原価÷(1-目標利益率)
原材料費は構成比と上昇率を掛けて影響を計算する
原材料価格が10%上昇したからといって、販売価格も一律10%引き上げる必要があるとは限りません。
販売価格に占める原材料費の割合を確認します。
例えば、販売価格1万円に対し、原材料費が3,500円であれば、原材料費の構成比は35%です。
原材料価格が10%上昇した場合、販売価格に与える影響は次のように計算できます。
原材料費の上昇額=3,500円×10%=350円
販売価格への影響率=35%×10%=3.5%
ほかの費用が変わらない場合、原材料費上昇分を反映するために必要な改定率は3.5%が目安です。
複数の費用が上昇している場合は、項目ごとに計算します。
原価項目 販売価格に占める割合 上昇率 販売価格への影響
原材料費 35% 10% 3.50%
労務費 25% 6% 1.50%
エネルギー費 5% 10% 0.50%
物流費 4% 12.5% 0.50%
合計 - - 6.00%
◆販売価格への影響率=各原価の構成比×各原価の上昇率の合計
この方法は概算に適しています。
ただし、実際の使用量や作業時間が変化している場合は、構成比と指数だけでなく、実際の原価額から計算しましょう。
原材料費は使用量・歩留まりまで反映する
1個当たりの材料費は、材料単価だけでなく、使用量と歩留まりによって変わります。
◆1個当たり材料費=材料単価×投入量÷歩留まり
例えば、材料単価が1キログラム当たり500円、製品1個の投入量が2キログラム、歩留まりが90%の場合、1個当たり材料費は次のとおりです。
・500円×2キログラム÷90%=約1,111円
材料単価が550円へ上昇した場合は、次のようになります。
・550円×2キログラム÷90%=約1,222円
・1個当たり上昇額=約1,222円-約1,111円=約111円
歩留まりが自社の工程改善によって向上した場合は、値上がりの一部を吸収できる可能性があります。
反対に、自社の管理不足で歩留まりが悪化した分を、そのまま取引先へ転嫁することは適切でない場合があります。
外部要因による上昇分と、自社で改善すべき費用を分けて計算しましょう。
労務費は時間単価と作業時間から計算する
労務費の上昇額は、商品・サービスに必要な作業時間と、1時間当たり労務費から計算します。
1個当たり労務費=1時間当たり労務費×標準作業時間
例えば、1時間当たり労務費が2,500円から2,650円へ上昇し、製品1個に2時間必要な場合、労務費の上昇額は次のとおりです。
・基準時点の労務費=2,500円×2時間=5,000円
・現在の労務費=2,650円×2時間=5,300円
・1個当たり労務費上昇額=300円
作業時間には、直接作業だけでなく、取引条件に応じて次の時間を含めます。
・段取り
・加工・施工
・検査
・梱包
・清掃
・記録作成
・顧客との打合せ
・移動・出張
・納品
・問合せ・保守対応
ただし、商品へ直接対応させた労務費と、間接費へ配賦した人件費を重複して計上しないように注意してください。
労務費の上昇率を説明する際は、最低賃金、春季労使交渉の妥結率、賃金統計等の公表資料も活用できます。
出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」
間接費は費用の発生原因に近い基準で配賦する
家賃、管理人件費、設備の減価償却費などの間接費は、合理的な基準で商品・サービスへ配賦します。
1個当たり間接費=対象となる間接費÷基準となる数量・時間等
例えば、年間の設備関連費が600万円、年間の機械稼働時間が3,000時間の場合、1時間当たりの設備関連費は2,000円です。
◆600万円÷3,000時間=2,000円/時間
製品1個の製造に0.5時間使用する場合、1個当たりの設備関連費は1,000円です。
◆2,000円×0.5時間=1,000円
主な配賦方法は次のとおりです。
費用 主な配賦基準
工場家賃 使用面積、作業場所
設備減価償却費 機械稼働時間
設備修繕費 使用設備、稼働時間
管理人件費 作業時間、売上高、受注件数
電気料金 消費電力、機械稼働時間
営業費 売上高、商談件数、担当時間
受発注事務費 注文件数、請求件数
システム費 利用者数、処理件数
一時的に生産量が大きく落ち込んだ月だけを使って間接費を計算すると、1個当たりの配賦額が過大になる場合があります。
年間の標準生産量、正常な稼働時間など、継続して説明できる基準を設定しましょう。
サービス業は時間単価と必要工数から計算する
サービス業では、材料費よりも人件費の割合が高い場合があります。
料金は、作業時間だけでなく、事前準備、管理、移動なども含めて計算します。
◆必要売上高=直接労務費+外注費+経費配賦額+必要利益
例えば、年間の人件費・法定福利費等が600万円、年間の請求可能時間が1,200時間の場合、直接労務費だけでも1時間当たり5,000円です。
◆600万円÷1,200時間=5,000円/時間
これに、事務所費、システム費、営業費等の間接費が1時間当たり2,000円、目標利益率が20%必要な場合、価格は次のように計算します。
◆原価=5,000円+2,000円=7,000円
◆必要価格=7,000円÷(1-20%)=8,750円/時間
勤務時間のすべてを顧客へ請求できるわけではありません。
営業、会議、教育、移動、事務作業などの非請求時間も考慮して時間単価を計算しましょう。
運送・訪問サービスは距離や回数を分けて計算する
運送業、建設業、保守業、訪問サービスなどでは、距離、拘束時間、積卸し、待機時間などによって原価が変わります。
例えば、次の項目を分けて計算します。
・基本料金
・距離料金
・時間料金
・燃料費
・高速道路料金
・駐車料金
・荷役・積卸し料金
・待機料金
・深夜・休日料金
・緊急対応料金
・宿泊・出張費
・再訪問料金
単価だけを一律に引き上げるのではなく、取引条件に応じて料金項目を分けると、費用の発生理由を説明しやすくなります。
年間の未転嫁額を計算する
単位当たりの未転嫁額が小さくても、年間数量が多ければ利益への影響は大きくなります。
年間未転嫁額=単位当たり未転嫁額×年間取引数量
例えば、1個当たり未転嫁額が300円、年間取引数量が1万個の場合、年間未転嫁額は300万円です。
◆300円×1万個=300万円
取引先別に年間未転嫁額を把握すると、優先して交渉すべき取引を判断しやすくなります。
取引先 単位当たり未転嫁額 年間数量 年間未転嫁額
取引先甲 300円 10,000個 300万円
取引先乙 600円 2,000個 120万円
取引先丙 150円 20,000個 300万円
単価の未転嫁額だけを見れば取引先乙が最大ですが、年間の利益影響では取引先甲と丙が大きくなります。
部分転嫁となった場合の転嫁率を計算する
希望額の全額が認められず、部分的な価格改定となる場合もあります。
価格転嫁率=実際に価格へ反映できた金額÷転嫁を必要とする金額×100
例えば、必要な転嫁額が600円、実際の改定額が400円の場合、転嫁率は約66.7%です。
◆400円÷600円×100=約66.7%
残る200円を自社で吸収する場合は、年間の影響を確認します。
年間数量が1万個であれば、年間未転嫁額は200万円です。
◆200円×1万個=200万円
部分転嫁で合意する場合は、次回の協議時期も決めましょう。
・残る未転嫁額
・自社で吸収する期間
・次回の価格協議日
・再協議の基準となる価格指数
・原材料費等がさらに上昇した場合の対応
・コストが低下した場合の対応
価格改定後の利益を複数ケースで試算する
希望価格を計算した後は、価格改定率と販売数量を変えて、売上・利益を試算します。
例えば、現在価格1万円、現在原価9,100円、年間数量1万個の場合を考えます。
ケース 販売価格 年間数量 年間売上高 年間利益
現状維持 10,000円 10,000個 1億円 900万円
600円転嫁・数量維持 10,600円 10,000個 1億600万円 1,500万円
600円転嫁・数量5%減 10,600円 9,500個 1億70万円 1,425万円
400円転嫁・数量維持 10,400円 10,000個 1億400万円 1,300万円
改定なし・数量10%増 10,000円 11,000個 1億1,000万円 990万円
この例では、価格を据え置いて販売数量を10%増やしても、年間利益は990万円にとどまります。
一方、600円転嫁して数量が5%減少しても、年間利益は1,425万円です。
実際には、固定費、追加人件費、販売促進費、製造能力なども反映して試算してください。
価格転嫁の根拠となる資料と取引先別の優先順位
価格改定依頼書の基本項目を整理する
価格転嫁の交渉資料は、分厚ければよいわけではありません。
取引先が短時間で次の事項を理解できるように整理します。
何の価格を改定したいのか
なぜ改定が必要なのか
どの費用が上昇したのか
いくら改定したいのか
いつから適用したいのか
どの資料を根拠にしているのか
代替案はあるのか
最初に1~2枚程度の概要資料を提示し、詳細な原価表や請求書、公表資料は添付資料として準備する方法が有効です。
価格改定依頼書には、次の項目を記載します。
項目 主な内容
宛先 取引先名、部署、担当者
差出人 自社名、部署、担当者、連絡先
依頼日 価格協議を申し入れる日
対象 商品名、品番、サービス、契約名
現行価格 現在の単価・契約額
希望価格 改定後の単価・契約額
改定額・率 増額する金額と割合
適用時期 何月何日の発注・納品分から適用するか
改定理由 原材料費、労務費、物流費等の上昇
根拠 原価比較、公表指数、見積書等
自社の対応 原価低減や生産性向上の取り組み
協議事項 面談希望日、回答期限、代替案
添付資料 原価表、価格推移、請求書等
「諸般の事情により値上げします」という表現だけでは、取引先が改定の妥当性を判断できません。
改定理由と金額の関係を具体的に示しましょう。
交渉資料は結論から示す
価格改定資料は、次の順番で構成すると理解されやすくなります。
①価格改定の依頼内容
②対象商品・サービス
③現行価格と希望価格
④適用希望日
⑤コスト上昇の概要
⑥改定額の計算
⑦自社で行った原価低減策
⑧供給・品質を維持するための必要性
⑨代替案
⑩添付する根拠資料
最初に経済環境や物価上昇について長く説明すると、取引先が依頼内容を理解しにくくなります。
冒頭で「何を、いくら、いつから改定したいのか」を明確にしましょう。
原価比較表は上昇額が分かる形にする
交渉資料では、すべての原価を細かく開示する必要があるとは限りません。
まずは、価格改定に関係する項目を整理します。
原価項目 基準時点 現在 上昇額 使用した根拠
原材料費 3,500円 3,850円 350円 仕入先請求書
労務費 2,500円 2,650円 150円 最低賃金・賃金統計
エネルギー費 500円 550円 50円 電気料金明細
物流費 400円 450円 50円 運送会社見積書
合計 6,900円 7,500円 600円 -
営業秘密や個人情報を含む資料は、開示範囲を慎重に判断します。
従業員別の給与、仕入先との秘密保持義務がある単価、ほかの顧客の取引条件などを、そのまま提出してはいけません。
必要に応じて、社名や個人名を伏せる、集計値へ置き換える、閲覧のみとする、秘密保持契約を締結するなどの対応を検討します。
社内資料と公表資料を組み合わせる
価格転嫁の根拠資料は、社内の実績資料と、公的機関等の公表資料に分けられます。
資料区分 主な資料 主な役割
社内実績資料 仕入台帳、請求書、原価表 自社で実際に発生した上昇額を示す
取引先資料 値上げ通知、見積書、料金表 仕入先・外注先の価格改定を示す
公表統計物 価指数、賃金統計、最低賃金 市場全体の上昇傾向を示す
業界資料 業界団体の価格・原価資料 業界特有の状況を示す
契約資料 契約書、発注書、仕様書 現在の取引条件を示す
業務記録 作業時間、配送回数、検査記録 商品・取引ごとの負担を示す
公表資料だけでは、自社のコストが実際に上昇した金額を説明できない場合があります。
反対に、自社の請求書だけでは、市場全体の価格動向や今後の継続可能性を説明しにくい場合があります。
両方を組み合わせて提示しましょう。
中小企業庁は、価格交渉ハンドブック、業種別の価格交渉資料、原材料費・労務費・エネルギーコストの根拠となる公表資料などを公開しています。
出典:中小企業庁「価格交渉・転嫁の支援ツール」
出典:中小企業庁「原材料費、エネルギーコスト上昇の根拠となる公表資料」
公表資料は自社の取引に合うものを選ぶ
価格指数を使用する場合は、対象となる材料、地域、期間、取引条件に近い資料を選びます。
確認する主な項目は次のとおりです。
・調査・公表している機関
・対象となる商品・サービス
・国内価格・輸入価格の別
・全国・地域別の別
・指数の基準年
・月次・四半期・年次の別
・比較する期間
・税込み・税抜き
・公表資料の更新日
・自社の仕入条件との違い
例えば、鋼材を使用しているという理由だけで、自社が購入している規格と異なる鋼材価格を根拠にすると、取引先から妥当性を疑われる可能性があります。
公表指数と自社の実際の仕入価格が異なる場合は、その理由を説明できるようにしましょう。
自社で行った原価低減策も示す
取引先は、「自社努力で吸収できないのか」と考える場合があります。
そのため、これまでに実施した改善策と効果を整理します。
改善策 実施内容 年間効果
仕入先の見直し 複数社から見積もりを取得 50万円
歩留まり改善 加工条件を見直した 80万円
段取り短縮 作業手順を標準化した 60万円
省エネ 空調・設備の運用を変更した 30万円
配送効率化 納品回数を集約した 40万円
合計 - 260万円
ただし、過度な原価低減によって品質や供給体制を損なってはいけません。
「合計860万円のコスト上昇に対して260万円を自社努力で吸収し、残る600万円の転嫁をお願いする」など、関係を数値で示すと説明しやすくなります。
代替案を準備する
希望価格を取引先が受け入れられない場合に備え、単価以外の条件変更案を準備します。
代替案 主な効果
発注数量を増やす 段取り・受発注費を削減できる
発注回数を減らす 事務・配送費を削減できる
納期を延ばす 残業・特急対応を減らせる
仕様を標準化する 設計・加工・検査費を削減できる
梱包を簡素化する 資材・作業費を削減できる
配送費を別請求にする 距離・回数に応じた負担にできる
最低発注数量を設ける 小口取引の赤字を防げる
支払サイトを短縮する 運転資金負担を軽減できる
段階的に改定する 取引先の急激な負担を抑えられる
定期見直し条項を設ける 将来の価格変動へ対応しやすくなる
代替案を受け入れた場合に、自社の原価が実際にどの程度下がるかも計算しましょう。
根拠なく値上げ幅を小さくすると、赤字取引が残ります。
取引先別に年間未転嫁額を一覧化する
すべての取引先へ同時に交渉できない場合は、年間未転嫁額を基に優先順位を決めます。
取引先 年間売上高 年間未転嫁額 利益率 価格据置期間 次回更新時期
取引先甲 3,000万円 300万円 2% 3年 2か月後
取引先乙 1,500万円 120万円 5% 1年 6か月後
取引先丙 4,000万円 300万円 ▲1% 4年 随時
取引先丁 800万円 40万円 8% 1年 3か月後
売上高が大きい取引先だけを優先すると、交渉が難しい取引先を避け、不採算が放置される可能性があります。
売上高だけでなく、未転嫁額、利益率、価格据置期間、交渉時期を確認しましょう。
交渉の優先順位を複数の基準で評価する
優先順位は、次のような基準で評価できます。
評価基準 優先度が高くなる状態
年間未転嫁額 利益への影響額が大きい
採算性 赤字または利益率が著しく低い
価格据置期間 長期間改定していない
契約更新時期 更新・見積時期が近い
根拠資料 上昇額を明確に説明できる
交渉可能性 担当者や決裁者へ相談できる
取引継続性 今後も一定の受注を見込める
代替可能性 仕様・数量等の変更余地がある
資金繰り 未転嫁による資金負担が大きい
供給リスク 現行価格では供給継続が難しい
例えば、各項目を1~5点で評価し、総合点を参考にする方法があります。
ただし、点数だけで機械的に決める必要はありません。取引先との関係、契約上の制約、自社の供給責任などを含めて経営者が判断します。
取引先の決裁時期から逆算する
大企業や行政機関等では、担当者が価格改定を了承しても、予算や社内決裁の都合ですぐに反映できない場合があります。
次の時期を確認しましょう。
・年度予算の作成時期
・半期・四半期の見直し時期
・契約更新時期
・年間見積もりの提出時期
・新製品・新年度価格の決定時期
・購買部門の査定時期
・取締役会等の決裁時期
・顧客が販売価格を変更できる時期
適用希望日の直前に申し入れるのではなく、取引先が検討できる期間を確保します。
一方、回答期限を設けずに依頼すると、協議が進まない場合があります。希望する面談日や回答期限を具体的に示しましょう。
想定質問への回答を準備する
価格交渉前に、取引先から想定される質問と回答を整理します。
想定質問 準備する回答・資料
なぜ今、値上げするのか コスト推移、価格据置期間
なぜこの改定率なのか 商品別原価表、計算式
どの費用が上昇したのか 原価比較表
自社努力で吸収できないか 改善策と吸収額
他社価格はいくらか 市場価格、品質・条件の違い
数量を増やせば下げられるか 数量別原価・価格表
仕様を変更すれば下げられるか 代替仕様と削減額
いつから適用するのか 適用日と対象発注分
コストが下がれば戻すのか 再協議条件、価格調整条項
段階的な改定は可能か 部分転嫁時の採算と期間
値上げを認めなければ供給できないのか 供給維持に必要な条件
回答できない質問は、その場で推測して答えず、確認後に回答する期限を伝えます。
提出資料の数字を一致させる
価格改定依頼書、原価表、見積書、契約書の数字が一致していないと、資料の信頼性が低下します。
特に次の数字を確認してください。
・現行価格
・希望価格
・改定額
・改定率
・原価上昇額
・未転嫁額
・年間取引数量
・年間影響額
・適用開始日
・消費税
・送料・付帯費用
・端数処理
単位が円、千円、万円のどれになっているかも確認します。
社内で計算した改定価格と、営業担当者が提示する価格が異ならないように、承認手続きを決めましょう。
資料の版と提出履歴を管理する
交渉中に改定額や適用時期を変更する場合は、資料の版を管理します。
・資料名
・作成日
・更新日
・版番号
・作成者
・承認者
・提出先
・提出日
・変更内容
・相手からの回答
・次回対応日
古い資料を誤って提出すると、交渉条件が分からなくなる可能性があります。
メール、議事録、提出資料、取引先からの回答を取引先別に保存しましょう。
価格転嫁の計算・資料作成手順をまとめる
価格転嫁額の計算と資料作成は、次の順番で進めます。
①現行価格と取引条件を確認する
②基準時点と現在の原価を比較する
③原材料費、労務費、経費の上昇額を計算する
④既に転嫁した金額を差し引く
⑤維持すべき利益額・利益率を決める
⑥希望する改定価格と改定率を計算する
⑦年間取引数量から年間影響額を計算する
⑧部分転嫁や数量減少の場合も試算する
⑨取引先へ提出する概要資料を作成する
⑩請求書・公表統計等の根拠資料を整理する
⑪原価低減策と代替案を準備する
⑫年間未転嫁額等から交渉の優先順位を決める
⑬想定質問への回答を準備する
⑭資料間の数字を確認する
⑮資料の版と提出履歴を管理する
価格転嫁の交渉資料は、取引先を説得するために数字を大きく見せるものではありません。
自社の原価上昇と必要な改定額を正確に示し、双方が価格や取引条件を検討するための共通資料です。
栃木県は、県内企業の価格交渉に活用できる事例集、準備方法、相談窓口等を案内しています。
出典:栃木県「適切な価格転嫁の実現に向けた支援情報等」
次章では、作成した原価表と交渉資料を使い、取引先へ価格改定を申し入れる手順、伝え方、拒否された場合の対応を解説します。
価格転嫁交渉の進め方と取引先への伝え方
価格転嫁交渉の進め方と取引先への伝え方
価格転嫁は、値上げ通知を一方的に送れば完了するものではありません。
自社の原価上昇、取引条件、供給継続への影響を具体的に示し、取引先と協議したうえで、改定価格や適用時期について合意する必要があります。
一方、取引先との関係悪化を恐れて根拠を曖昧にすると、「なぜこの金額なのか」「なぜ今なのか」が伝わらず、価格改定を受け入れてもらえない可能性があります。
価格転嫁交渉では、次の5つの手順で進めます。
手順 主な取り組み 成果物
1 交渉方針と社内権限を決める 希望価格、最低条件、交渉担当者
2 取引先へ価格協議を申し入れる 依頼文、面談日、説明資料
3 原価上昇と改定理由を説明する 見積書、原価比較、根拠資料
4 価格と取引条件を交渉する 代替案、段階的な改定案
5 合意内容を書面へ反映する 覚書、見積書、契約書、議事録
重要なのは、希望額を伝えることだけではありません。
「どの費用が、いつから、どれだけ上昇したのか」「自社でどのような改善を行ったのか」「価格を据え置いた場合に供給へどのような影響があるのか」を、取引先が社内で説明できる形にする必要があります。
交渉が一度でまとまらないこともあります。拒否された場合に備え、価格以外の条件変更、再交渉の時期、公的機関への相談なども事前に検討しておきましょう。
価格転嫁交渉を成功させる5つの手順
価格転嫁交渉を成功させるには、取引先との面談だけでなく、交渉前の社内準備と合意後の書面化が重要です。
営業担当者へ「できるだけ値上げしてきてほしい」と依頼するだけでは、交渉の基準が曖昧になります。
営業担当者がその場で過度な譲歩をしたり、取引先ごとに異なる説明をしたりしないように、交渉方針と決裁権限を明確にしましょう。
◆手順1 価格転嫁の交渉方針を社内で決める
最初に、何をどこまで交渉するのかを決めます。
少なくとも次の項目を整理してください。
・対象となる商品・サービス
・現在の単価
・希望する改定単価
・改定率
・改定が必要な金額
・最低限確保したい単価・利益
・改定希望日
・原材料費・労務費・エネルギー費等の上昇額
・自社で実施したコスト削減
・取引先別の売上・利益・取引年数
・受注量が減少した場合の影響
・交渉が不成立となった場合の対応
・営業担当者が判断できる範囲
・経営者の承認が必要な条件
交渉価格は一つだけでなく、次の3段階で考えると判断しやすくなります。
条件 主な意味
希望条件 原価上昇分と必要利益を反映した本来求める条件
目標条件 交渉によって現実的に合意を目指す条件
最低条件 これを下回ると取引継続の見直しが必要になる条件
最低条件は、営業担当者の感覚ではなく、限界利益、固定費、供給に必要な人員や設備などを基に決めます。
ただし、最低条件を最初から取引先へ伝えると、それが交渉の上限として扱われる可能性があります。社内の判断基準として管理し、開示する情報は分けましょう。
価格転嫁できない場合の選択肢も準備する
希望する価格改定が認められなかった場合に、すぐ従来価格へ戻る必要はありません。
次のような代替案を検討できます。
・改定率を分けて段階的に引き上げる
・原材料費の上昇分を先に反映する
・労務費の上昇分を次回協議する
・一定期間だけ燃料費・材料費等のサーチャージを設ける
・運賃や梱包費を商品価格から分ける
・最低発注数量を設定する
・小口注文に追加料金を設ける
・緊急対応・短納期対応を有料化する
・納品回数を減らす
・支払条件を見直す
・過剰な検査・報告・梱包等の仕様を変更する
・定期的な価格見直し条項を設ける
価格以外の条件を変更する場合でも、利益改善額を計算する必要があります。
例えば、納品回数を減らして物流費を年間30万円削減できても、必要な価格改定額が年間200万円であれば、残り170万円の不足は解消されません。
代替案を提示するときは、取引先の負担軽減だけでなく、自社の採算が改善するかを確認しましょう。
価格転嫁交渉の担当者と権限を決める
価格交渉では、営業、製造、購買、経理、経営者が異なる情報を持っています。
役割を事前に決めておきましょう。
担当者 主な役割
経営者 交渉方針、最低条件、取引継続の判断
営業担当者 取引先への申入れ、面談、関係維持
製造担当者 工数、歩留まり、設備、品質条件の説明
購買担当者 材料・外注費の上昇資料を準備
経理担当者 原価、利益、資金繰りへの影響を計算
法務・管理担当者 契約変更、記録、法的な問題を確認
取引先からその場で代替案を求められても、権限を超える条件は即答しないようにします。
「社内で採算を確認し、〇日までに回答します」と伝え、持ち帰って検討する方が安全です。
重要な取引先との交渉では、営業担当者だけに任せず、必要に応じて経営者や製造責任者が同席します。経営者が説明することで、価格改定が営業担当者個人の要望ではなく、会社として必要な判断であることを伝えやすくなります。
手順2 価格転嫁の協議を早めに申し入れる
価格改定の実施直前に申し入れると、取引先が予算や販売価格を見直す時間を確保できません。
次の時期を確認し、余裕を持って協議を申し入れます。
・取引先の予算編成時期
・年度・半期・四半期の切替時期
・契約更新時期
・見積書の有効期限
・次回発注の予定
・新商品・新年度モデルの切替時期
・取引先が販売先と価格交渉を行う時期
・原材料価格や最低賃金等の改定時期
初回の連絡では、一方的な「値上げ通知」ではなく、「取引価格の協議をお願いしたい」と伝えます。
協議の申入れには、次の内容を記載しましょう。
・協議したい商品・サービス
・主な価格改定理由
・希望する面談時期
・改定希望日
・説明資料を準備していること
・社内の決裁者に参加してほしい場合はその旨
・連絡先と回答期限
取引先の担当者に価格決定権限がない場合は、購買責任者や経営者など、判断できる人への説明機会を求めます。
担当者へ資料を渡すだけでは、社内で十分に検討されないことがあります。「誰が判断するのか」「社内承認にどの程度かかるのか」を確認しましょう。
価格改定の実施日を一方的に決めない
見積書や通知書へ改定日を記載しても、取引先と合意していなければ、その日から当然に新単価を適用できるとは限りません。
取引条件や契約内容に応じて、次の点を確認します。
・いつまでに協議を始めるか
・いつまでに回答を求めるか
・どの注文から新単価を適用するか
・注文日・製造日・納品日のどれを基準にするか
・既に受注済みの案件をどう扱うか
・長期契約や年間契約をどう見直すか
・在庫品や仕掛品をどう扱うか
契約書に価格改定の手続きが定められている場合は、その内容に従います。
契約上の手続きが分からない場合や、一方的な変更が問題となる可能性がある場合は、弁護士等へ確認してください。
手順3 価格転嫁の必要性を数字で説明する
面談では、結論を先に伝えます。
説明の基本的な順序は次のとおりです。
①価格協議の目的を伝える
②希望する改定単価と改定日を示す
③原価上昇の内容を説明する
④自社で行った改善・削減努力を説明する
⑤現行価格を維持した場合の影響を説明する
⑥供給継続に向けた提案を行う
⑦取引先の質問や条件を確認する
⑧次回回答日を決める
例えば、次のように説明します。
原材料費、外注費、労務費の上昇により、対象製品の1個当たり原価が従来より120円増加しています。工程改善によって40円を吸収しましたが、残る80円を自社だけで負担すると安定供給に必要な人員と設備を維持できません。そのため、現在1,000円の単価を、次回発注分から1,080円へ改定する協議をお願いしたいと考えています。
「さまざまな経費が上がっている」「経営が厳しい」といった説明だけでは、取引先は改定金額の妥当性を判断できません。
具体的な費目、上昇時期、上昇額、自社負担額、改定希望額を示しましょう。
価格転嫁を供給継続と取引維持の提案として伝える
価格改定の説明では、「赤字だから助けてほしい」という自社都合だけで終わらせないことが重要です。
取引先にとっての意味も説明します。
・安定した生産・供給を維持できる
・品質管理に必要な人員を確保できる
・設備の保守・更新を継続できる
・納期遅延や供給停止のリスクを減らせる
・技術者の採用・育成を継続できる
・緊急時の対応力を維持できる
・不良や手直しの防止につながる
・新しい提案や改善活動を継続できる
ただし、「値上げを認めなければ納品を止める」など、取引先を威圧する表現は避けます。
供給継続上のリスクを説明する場合は、感情的に伝えるのではなく、採算、設備、人員、調達状況などの事実を示しましょう。
価格転嫁交渉では質問によって判断条件を確認する
取引先から否定的な反応があっても、すぐに改定額を引き下げる必要はありません。
まず、受け入れが難しい理由を確認します。
・金額の根拠が不足しているのか
・社内の予算が決まっているのか
・担当者に決裁権限がないのか
・販売先との価格交渉が必要なのか
・他社との価格差を懸念しているのか
・改定時期が問題なのか
・一度に改定する幅が大きいのか
・対象商品の範囲が広すぎるのか
・品質・納期等への不満があるのか
・追加資料があれば再検討できるのか
理由によって対応は異なります。
取引先の反応 主な対応
根拠が分からない 費目別の上昇額や指数を追加する
予算がない 適用時期や段階的な改定を検討する
決裁権限がない 決裁者への説明機会を求める
他社より高い 仕様、品質、ロット、納期等の条件を比較する
販売価格へ転嫁できない 取引先が販売先へ説明できる資料を提供する
改定幅が大きい 一部改定と再協議時期を組み合わせる
品質に不満がある 価格問題と品質問題を分けて確認する
「難しい」と言われただけで値上げ幅を半分にすると、取引先は当初の希望額に十分な根拠がなかったと受け取る可能性があります。
何が障害になっているのかを確認し、その障害に対応する提案を行いましょう。
手順4 価格と取引条件を組み合わせて交渉する
取引先が希望額をすべて受け入れられない場合は、価格以外の条件を含めて協議します。
例えば、次のような組み合わせがあります。
交渉案 主な内容
段階改定 4月に5%、10月に追加3%改定する
費目別改定 原材料費を先に反映し、労務費は次回協議する
変動制 指標に応じて材料費部分を定期的に見直す
数量条件 発注数量に応じて単価を設定する
物流条件 納品回数を減らし、運賃を別途設定する
仕様変更 過剰な検査・梱包・報告を見直す
納期条件 短納期・緊急対応に追加料金を設定する
支払条件 支払サイトを短縮し、資金負担を減らす
再協議 一部改定後、3か月または6か月後に再協議する
段階的な価格改定へ合意した場合は、次回の協議日まで決めます。
「状況を見て再検討する」という表現だけでは、協議が先送りされる可能性があります。「〇月時点の材料価格と労務費を確認し、〇月中に再協議する」など、時期と確認項目を明確にしましょう。
価格転嫁の譲歩条件を計算する
取引先から一部改定の提案があった場合は、残る負担額を計算します。
例えば、必要な改定額が1個当たり100円で、取引先から50円の改定を提案された場合、残り50円を誰が負担するのかを確認します。
年間取引数量が2万個であれば、未転嫁額は次のとおりです。
◆未転嫁額=(必要改定額-合意改定額)×年間取引数量
=(100円-50円)×2万個
=100万円
50円の改定を受け入れる場合でも、年間100万円の負担が残ります。
この負担を工程改善で吸収できるのか、次回交渉が必要なのか、取引量や仕様を見直すのかを決めましょう。
手順5 価格転嫁の合意内容を書面へ反映する
口頭で「値上げを了承する」と言われても、発注書や支払単価が変更されなければ、実際の請求へ反映できない可能性があります。
合意後は、次の事項を文書で確認します。
・対象商品・サービス
・商品コードや品番
・現行価格
・改定後の価格
・消費税の取扱い
・運賃・梱包費等の取扱い
・適用開始日
・注文日・納品日等の適用基準
・受注済み案件の取扱い
・改定期間
・次回の価格見直し時期
・数量・仕様等の前提条件
・覚書や契約書を作成するか
・双方の担当者・承認者
書面には、契約変更書、覚書、改定見積書、発注書、電子メールなどを利用できます。
どの書面が必要かは、既存契約や取引方法によって異なります。正式な契約変更が必要な場合は、取引先と確認してください。
価格転嫁交渉の記録を残す
交渉結果だけでなく、協議の過程も記録します。
記録項目 主な内容
申入れ 日付、方法、送付先、回答期限
面談 日時、参加者、説明した内容
提出資料 見積書、原価比較、統計、通知書
質問 取引先から求められた説明・資料
回答 自社が行った説明、追加資料
提案 双方が提示した価格・条件
未決事項 社内確認、追加交渉が必要な事項
合意事項 改定単価、開始日、対象範囲
次回対応 回答日、再協議日、担当者
面談後は、議事内容を電子メールで送る方法も有効です。
本日の協議では、製品Aの単価について、当社から1,080円への改定をお願いし、貴社にて〇月〇日までにご検討いただくこととなりました。認識に相違がある場合はお知らせください。
記録があれば、担当者の交代や認識の違いが起きた場合にも確認できます。
また、取適法の適用対象となる取引では、発注者が価格協議へ応じず、一方的に代金を決定する行為が問題となる可能性があります。協議の申入れ、回答、説明内容を記録しておくことは、取引経緯を確認するうえでも重要です。
出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法」
価格転嫁交渉で避けたい進め方を確認する
次のような進め方は、交渉の失敗や取引先との関係悪化につながる可能性があります。
・改定日の直前に通知する
・値上げ率だけを伝え、根拠を示さない
・取引先ごとに説明内容が変わる
・営業担当者の個人判断へ任せる
・最初から大幅な値引きを前提にする
・根拠のない数字や事実と異なる資料を使う
・他社も上げている」だけで説明する
・取引停止をほのめかして威圧する
・口頭合意だけで請求価格を変更する
・合意した適用日や対象商品を確認しない
・追加資料を求められるたびに無制限に提出する
・明確な期限を決めず回答を待ち続ける
・一部改定で残った未転嫁額を確認しない
・合意後の利益改善を検証しない
価格転嫁交渉の目的は、取引先に勝つことではありません。
適正な価格と取引条件を協議し、自社と取引先の双方が継続的に事業を行える状態をつくることが重要です。
価格転嫁の依頼文・説明例と拒否された場合の対応
価格転嫁の協議を申し入れる依頼文例
件名:取引価格改定に関するご協議のお願い
株式会社〇〇
購買部 〇〇様
平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
現在お取引いただいている製品Aにつきまして、原材料費、外注加工費および労務費の上昇が続いております。弊社では、工程改善、仕入先の見直し、作業時間の短縮等によりコスト上昇の吸収に努めてまいりましたが、現行価格での安定供給を継続することが難しい状況となっています。
つきましては、製品Aの取引価格について、下記のとおりご協議をお願いしたく存じます。
・対象製品:製品A(品番0001)
・現行単価:1,000円
・改定希望単価:1,080円
・改定希望時期:20XX年〇月〇日以降のご注文分
・主な改定理由:原材料費、外注加工費および労務費の上昇
原価上昇の内訳および弊社の改善状況については、別紙資料を準備しております。安定供給と品質維持を継続するため、面談の機会をいただけますと幸いです。
誠に恐れ入りますが、〇月〇日までにご都合のよい日時をお知らせくださいますようお願いいたします。
何卒ご理解とご協議を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
依頼文にすべての原価情報を記載する必要はありません。
詳細な原価、仕入先名、製造方法などの秘密情報は、取引先が本当に必要とする範囲を確認してから開示します。
労務費の価格転嫁を申し入れる文例
件名:労務費上昇に伴う取引価格のご協議について
弊社では、人材の確保・定着と安定供給の維持に向け、賃金改善および教育を進めております。これに伴い、対象業務に係る労務費が従来と比較して上昇しています。
生産性向上や工程改善による吸収を進めてまいりましたが、上昇分のすべてを自社だけで負担することが困難なため、取引価格についてご協議をお願いしたく存じます。
労務費の上昇状況、対象業務への影響および改定希望額について資料を準備しておりますので、〇月中に面談の機会をいただけますと幸いです。
労務費については、従業員個人の給与額を開示する必要があるとは限りません。
最低賃金、賃金に関する公的統計、業界の人件費指数、社会保険料の変化、自社の総労務費や対象業務の工数など、説明目的に合う資料を使用します。
公正取引委員会は、労務費の価格転嫁に関する指針や、価格交渉の申込様式例を公表しています。
出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」
価格転嫁交渉の面談で使える説明例
面談では、文章を読み上げるのではなく、結論と数字を簡潔に伝えます。
本日は、製品Aの価格改定についてご相談するために伺いました。
現在の単価は1,000円ですが、材料費、外注費、労務費の上昇により、1個当たりの原価が120円増加しています。工程改善によって40円は吸収しましたが、残る80円については自社だけでの負担が難しい状況です。
品質と供給体制を維持するため、〇月以降のご注文分から、単価を1,080円へ改定する協議をお願いしたいと考えています。上昇額の内訳と改善内容はこちらの資料にまとめています。
貴社内で検討するために必要な資料や条件があればお聞かせください。
一方的に説明を続けず、取引先の判断条件を確認します。
・どの資料があれば社内検討できるか
・誰の承認が必要か
・いつ頃までに回答できるか
・改定額と改定時期のどちらが問題か
・取引先の販売先への説明資料が必要か
・段階的な改定であれば検討できるか
面談の最後には、結論が出ていなくても次の行動を決めます。
追加資料を〇月〇日までに提出し、貴社では〇月〇日までにご検討いただくことでよろしいでしょうか。回答後、必要に応じて再度協議をお願いいたします。
価格転嫁を拒否された理由別に対応する
取引先から断られた場合は、拒否の理由を分けて考えます。
「認めてもらえなかった」という結果だけで終わらせると、次の交渉へつながりません。
「値上げの根拠が不足している」と言われた場合
何が不足しているのかを確認します。
・原材料価格の上昇資料
・労務費の上昇資料
・商品別の原価計算
・自社努力の内容
・改定率の計算過程
・取引先の商品に関係する費用の範囲
・将来の供給への影響
取引先が必要とする資料が合理的な範囲であれば、追加提出を検討します。
ただし、協議を行う前提として、仕入先との個別契約、全従業員の賃金、全商品の詳細原価など、過度に詳細な情報を繰り返し求められる場合は、必要性と利用目的を確認しましょう。
「本社や上司の承認が得られない」と言われた場合
担当者に決裁権限がない場合は、決裁者が判断するために必要な条件を確認します。
・決裁者は誰か
・どの資料が必要か
・次回の決裁日はいつか
・自社から直接説明できるか
・担当者が社内説明しやすい資料は何か
・回答期限はいつか
担当者を責めても交渉は進みません。
担当者が社内で価格改定の必要性を説明できるように、1枚程度の要約資料を準備する方法もあります。
「自社でも販売価格へ転嫁できない」と言われた場合
「自社でも販売価格へ転嫁できない」と言われた場合
取引先も価格転嫁に困っている可能性があります。
その場合は、取引先がさらに先の販売先へ説明できる資料を提供します。
・原材料価格等の公的な指数
・労務費上昇の資料
・サプライチェーン全体への影響
・改定理由の要約
・改定前後の比較
・供給継続上の必要性
ただし、取引先が販売価格へ転嫁できないことだけを理由に、自社がすべての負担を受け入れる必要があるとは限りません。
双方が負担を抱え続けないように、価格、仕様、数量、物流などを含めて協議します。
「改定率を下げてほしい」と言われた場合
すぐに減額するのではなく、取引先が受け入れられる金額とその根拠を確認します。
例えば、10%の改定要求に対して3%の回答があった場合は、次の内容を確認します。
・3%とした計算根拠
・予算上の上限なのか
・競合価格を基準にしているのか
・対象費目の一部だけを認めているのか
・次回の見直しが可能か
・数量や仕様を変えれば追加改定できるか
一部改定を受け入れる場合は、未転嫁額を明確にし、次回の交渉時期を設定します。
価格転嫁の回答がない場合は書面で再確認する
面談や依頼文を送っても回答がない場合は、放置せず、電子メール等で確認します。
件名:取引価格のご協議に関するご確認
〇月〇日にお願いしました製品Aの取引価格の協議につきまして、その後のご検討状況を確認したくご連絡いたしました。
弊社では〇月〇日以降の受注計画および原材料の調達計画を決定する必要があるため、恐れ入りますが〇月〇日までに、協議可能な日程またはご検討状況をご回答いただけますと幸いです。
追加資料が必要な場合はお知らせください。引き続き、安定供給に向けて協議をお願い申し上げます。
回答期限は、自社都合だけで極端に短く設定しないようにします。
取引先の決裁手続き、発注予定、契約条件などを踏まえた合理的な期限を設定しましょう。
期限までに回答がない場合は、担当者だけでなく、必要に応じて購買責任者や経営者へ正式な協議を申し入れます。
価格転嫁を全面的に拒否された場合の対応手順
価格改定を拒否された場合は、次の順序で対応します。
①拒否理由を確認する
②取引先の決裁者と判断基準を確認する
③不足資料を追加する
④価格以外の代替条件を提案する
⑤再協議の日時を決める
⑥面談内容と回答を書面で残す
⑦取引継続時の利益・資金繰りを再計算する
⑧必要に応じて公的機関や専門家へ相談する
⑨受注量・仕様・取引継続の見直しを検討する
取引を縮小・終了する場合は、既存契約、予告期間、発注残、金型・材料、損害賠償等の問題が生じる可能性があります。
採算が合わないからといって、直ちに納品を停止してよいとは限りません。重要な判断は、契約内容を確認し、必要に応じて弁護士へ相談してください。
価格転嫁交渉で法的な問題が疑われる場合
取適法の対象取引では、発注者が受注者から価格協議を求められたにもかかわらず、協議へ応じない、必要な説明を行わない、具体的な理由を示さず価格を据え置くなど、一方的に代金を決定する行為が問題となる可能性があります。
ただし、受注者が求めた値上げ額を全額認めなかったことだけで、直ちに違法になるとは限りません。
協議の有無、双方が提示した資料、回答理由、取引条件、交渉経緯などを含めて判断されます。
次のような状況がある場合は、記録を整理したうえで公的な相談窓口や専門家へ相談しましょう。
・価格協議の申入れを繰り返し無視される
・協議の日程を合理的な理由なく先延ばしされる
・説明を求めても具体的な回答がない
・一方的に従来価格を指定される
・著しく低い価格を押し付けられる
・価格協議を理由に発注停止等を示唆される
・不要な情報を過度に要求される
・合意していない減額を行われる
・支払代金から一方的に費用を差し引かれる
・取引条件を書面で示してもらえない
法律違反だと断定して取引先を非難する前に、対象取引、契約、交渉記録を確認することが重要です。
価格転嫁の合意を確認するメール例
件名:製品Aの価格改定に関する合意内容の確認
本日は、製品Aの価格改定についてご協議いただき、ありがとうございました。
本日の協議内容を次のとおり確認いたします。
・対象製品:製品A(品番0001)
・現行単価:1,000円
・改定後単価:1,060円
・適用開始:20XX年〇月〇日以降のご注文分
・対象外:同日以前に発注済みの製品
・次回協議:20XX年〇月に、原材料費および労務費の状況を確認する
上記内容に相違がございましたら、〇月〇日までにお知らせください。
弊社においても、引き続き品質の維持と安定供給に努めてまいります。今後ともよろしくお願い申し上げます。
電子メールだけで契約変更が完了するかは、既存契約や双方の運用によって異なります。
必要に応じて、改定見積書、覚書、契約変更書、新しい発注書等を作成しましょう。
価格転嫁交渉前の最終チェックリスト
交渉を始める前に、次の項目を確認します。
・対象商品・サービスを特定したか
・現行価格と改定希望価格を決めたか
・原価上昇額を費目別に計算したか
・自社で吸収した金額を整理したか
・希望条件・目標条件・最低条件を決めたか
・取引先別の採算を確認したか
・価格以外の代替案を準備したか
・改定希望日を決めたか
・取引先の予算・契約更新時期を確認したか
・決裁者へ説明できる機会を確保したか
・説明資料を簡潔にまとめたか
・営業担当者の交渉権限を決めたか
・その場で回答できない事項を整理したか
・面談記録を残す方法を決めたか
・合意後に変更する書類を確認したか
・拒否された場合の再交渉手順を決めたか
価格転嫁交渉では、強い言葉を使うことよりも、数字、事実、期限、代替案を明確にすることが重要です。
根拠資料を準備し、取引先が判断できる形で説明したうえで、価格だけでなく、数量、仕様、物流、支払条件、再協議時期を含めて合意を目指しましょう。
次章では、価格転嫁後に契約書や発注単価へ正しく反映されたかを確認する方法、利益や賃上げへの効果を検証する方法、栃木県内で利用できる相談先について解説します。
価格転嫁後の管理と栃木県の相談先
価格転嫁後の管理と栃木県の相談先
価格転嫁後の管理と栃木県の相談先
価格転嫁は、取引先から値上げの了承を得た時点で終わるものではありません。
合意した価格が見積書、契約書、発注書、請求書等へ正しく反映されているかを確認し、価格改定後に利益や資金繰りが改善したかを継続的に検証する必要があります。
改定単価が受注管理システムへ登録されていない、旧価格の発注書をそのまま処理している、営業担当者ごとに適用時期の認識が異なるといった状態では、交渉に成功しても価格転嫁の効果を得られません。
また、価格を引き上げても、受注量の減少、追加値引き、原材料費や労務費の再上昇によって、想定した利益が残らない場合があります。
価格転嫁後に管理すべき主な項目は次のとおりです。
管理分野 主な確認事項
契約 改定単価、対象商品、適用日が書面化されているか
受注 発注書や注文データが改定後の条件になっているか
請求 請求書へ正しい単価、送料、追加料金を反映したか
原価 材料費、労務費、物流費等が再上昇していないか
利益 商品別・取引先別の粗利益や営業利益が改善したか
受注量 価格改定後に数量や売上が減少していないか
資金繰り 入金額や支払条件が改善し、現金が増えているか
未転嫁額 コスト上昇分のうち未転嫁の金額はいくらか
賃上げ 価格改定で確保した利益を人件費へ充てられるか
投資 設備更新、人材採用、教育等の原資を確保できるか
再交渉 次回の価格確認時期や再交渉条件を決めているか
取引先 取引先との関係やクレームに変化がないか
価格転嫁後の効果を確認するときは、売上高だけを見てはいけません。
単価が上昇して売上高が増えても、数量が減少したり、原価が再上昇したりすれば、利益と資金繰りが改善していない可能性があります。
商品別・取引先別に、改定前の計画、改定後の計画、実績を比較しましょう。
価格転嫁後の契約変更・利益・賃上げ効果の確認
価格転嫁後は、最初に合意内容が社内の受注・請求業務へ正しく反映されているかを確認します。
営業担当者と取引先の担当者が合意していても、経理、製造、受注担当者へ情報が共有されていなければ、旧単価で請求してしまう可能性があります。
特に、商品数や取引先数が多い会社では、改定漏れ、適用日の間違い、二重請求等を防ぐ管理表が必要です。
価格転嫁の合意内容を書面で確認する
価格改定について合意したら、少なくとも次の内容を書面で確認します。
対象となる商品・サービス
・商品コード・品番
・現行価格
・改定後の価格
・改定率
・消費税の取扱い
・送料・梱包費・手数料等の取扱い
・適用開始日
・注文日・納品日・検収日のどれを基準にするか
・改定日前に受注した案件の取扱い
・在庫品・仕掛品の取扱い
・発注数量による価格条件
・短納期・特急対応等の追加料金
・次回の価格見直し時期
・原材料価格等が変動した場合の取扱い
・双方の担当者・承認者
既存の基本契約書に価格改定の方法が定められている場合は、その手続きに従います。
契約変更書や覚書を作成する場合は、元の契約書との関係、変更する条項、適用期間等を明確にしましょう。
電子メールや改定見積書だけで足りるかは、契約内容や取引方法によって異なります。重要な取引や金額が大きい取引については、必要に応じて弁護士等へ確認してください。
価格転嫁の適用基準を社内で統一する
価格改定の適用日について、「4月1日から」とだけ記録すると、どの取引へ新価格を適用するのか判断できない場合があります。
例えば、次の基準が考えられます。
適用基準 主な考え方
注文日基準 改定日以降に受けた注文へ新価格を適用する
出荷日基準 改定日以降に出荷する商品へ新価格を適用する
納品日基準 改定日以降に納品する商品へ新価格を適用する
検収日基準 改定日以降に検収された取引へ新価格を適用する
契約更新日基準 契約更新後の業務へ新価格を適用する
取引先と自社で適用基準の認識が異なると、請求後に訂正や返金が必要になる可能性があります。
長期間かかる工事、受注生産、継続的な業務委託等では、改定日前に受注し、改定日後に納品・完了する案件をどの価格で扱うかも確認しましょう。
価格転嫁の改定情報を受注・請求システムへ登録する
合意後は、社内の価格情報を更新します。
・商品マスター
・取引先別単価表
・見積書のひな型
・受注管理システム
・販売管理システム
・請求システム
・POSレジ
・ECサイト
・営業担当者の価格表
・契約書管理台帳
・原価計算表
・予算・売上計画
取引先ごとに単価や適用時期が異なる場合は、一律に商品マスターを変更すると誤請求が起きる可能性があります。
次のような改定管理表を作成すると確認しやすくなります。
取引先 商品 旧単価 新単価 適用基準 適用日 更新担当 確認状況
取引先甲 製品A 1,000円 1,080円 注文日 4月1日 営業A 完了
取引先乙 製品A 1,020円 1,070円 納品日 5月1日 営業B 未確認
取引先甲 製品B 2,000円 2,100円 注文日 4月1日 営業A 完了
更新担当者と確認担当者を分け、初回請求時に新単価が正しく反映されているか確認しましょう。
価格転嫁後の発注書と請求書を照合する
取引先から届く発注書が旧単価のままになっている場合があります。
そのまま納品すると、取引先から「発注書の価格で合意した」と主張される可能性があります。
発注書と合意内容が異なる場合は、受注処理を進める前に確認します。
・発注単価
・発注数量
・商品・品番
・納期
・送料・追加料金
・支払条件
・検収条件
・値引き・控除
・消費税
・適用する見積書の番号・日付
請求時にも、発注書、納品書、請求書の単価が一致しているかを確認します。
取引先のシステム変更が間に合わず、旧単価の発注書が発行される場合は、どの書面によって改定後の価格を確認するのかを決めておきましょう。
価格転嫁後の値引き・相殺を確認する
価格を引き上げても、別の名目で値引きや費用負担が増えれば、実質的な転嫁効果が失われます。
次のような項目を確認してください。
・販売奨励金
・協賛金
・リベート
・物流負担金
・システム利用料
・検査費
・金型・治具費
・返品・廃棄費用
・振込手数料
・センターフィー
・広告・販促費
・無償作業
・従来になかった値引き
・支払時の一方的な控除
例えば、単価を5%引き上げても、売上高の3%に相当する新たな協賛金を求められれば、実質的な改善は2%程度にとどまります。
実質価格改定効果=価格改定による増収額-追加値引き-追加費用負担
価格だけでなく、取引全体で利益が改善したかを確認しましょう。
価格転嫁後の利益を商品別・取引先別に確認する
価格改定後は、商品・サービス別、取引先別の採算を再計算します。
確認項目 主な内容
売上高 改定単価×販売数量
変動費 材料費、外注費、運賃等
限界利益 売上高-変動費
粗利益 売上高-売上原価
営業利益 粗利益-販売費・一般管理費
未転嫁額 コスト上昇額-価格反映額
販売数量 改定前後の数量変化
顧客維持 継続・縮小・終了した取引
入金 入金額、入金日、支払条件
改定前後を比較する場合は、販売数量の影響を分けます。
例えば、単価を5%引き上げても、販売数量が20%減少すれば、売上高や利益が減少する可能性があります。
改定後売上高=改定後単価×改定後販売数量
改定後限界利益=(改定後単価-改定後変動費)×改定後販売数量
値上げ率だけで成功を判断せず、単価、数量、原価を組み合わせて確認しましょう。
価格転嫁率と未転嫁額を再計算する
価格交渉で一部しか転嫁できなかった場合は、残る未転嫁額を管理します。
◆価格転嫁率=価格へ反映できたコスト上昇額÷転嫁が必要なコスト上昇額×100
◆未転嫁額=転嫁が必要なコスト上昇額-価格へ反映できた金額
例えば、1個当たりのコストが120円上昇し、価格へ80円を反映できた場合は、次のとおりです。
◆価格転嫁率=80円÷120円×100=約66.7%
◆未転嫁額=120円-80円=40円
年間販売数量が3万個であれば、年間の未転嫁額は次のようになります。
◆40円×3万個=120万円
一部転嫁に成功しても、年間120万円の負担が残ります。
この金額を工程改善で吸収するのか、次回交渉で追加転嫁するのか、取引条件を変更するのかを決める必要があります。
価格転嫁後も原価を毎月確認する
価格改定後に原材料費、労務費、エネルギー費等が再上昇することがあります。
次の項目を定期的に確認しましょう。
・主要材料の仕入単価
・外注加工単価
・時間当たり労務費
・最低賃金・賃金相場
・会社負担の社会保険料
・電気・ガス・燃料単価
・運賃・梱包費
・為替
・生産数量
・歩留まり
・作業時間
・設備稼働率
毎月の変動が大きい費用については、3か月平均や6か月平均で確認する方法もあります。
一時的な値上がりと継続的な上昇を分け、短期間の変動だけで頻繁に価格を変更しないようにしましょう。
価格転嫁後の再交渉基準を決める
次回の交渉を「コストが上がったら行う」とだけ決めると、判断が遅れる可能性があります。
再交渉を始める条件を具体的に設定します。
・主要材料の価格が基準から5%以上変動した
・1個当たり原価が一定額以上上昇した
・最低賃金が改定された
・外注費・物流費が改定された
・粗利益率が目標を下回った
・未転嫁額が年間一定額を超えた
・契約更新時期を迎えた
・半年または1年が経過した
・仕様・数量・納期条件が変更された
・為替が一定範囲を超えて変動した
基準を超えたら自動的に値上げするという意味ではありません。
原価への影響を計算し、取引先との協議が必要かを判断するための社内基準として使用します。
価格転嫁後の価格調整条項を検討する
原材料価格や燃料価格の変動が大きい取引では、契約更新のたびに一から交渉するのではなく、価格調整条項を設ける方法があります。
主に決める事項は次のとおりです。
・対象となる費用
・基準となる価格・指数
・基準時点
・見直し頻度
・価格変更を行う変動幅
・計算式
・上昇時と下落時の取扱い
・上限・下限
・通知時期
・適用開始日
・使用する公表資料が終了した場合の対応
例えば、次のような考え方があります。
改定後材料費部分=基準時の材料費部分×現在指数÷基準指数
ただし、公表指数と自社が実際に購入する材料価格が同じように動くとは限りません。
使用する指数、計算方法、見直し時期について、取引先と事前に合意する必要があります。
価格転嫁後の資金繰り効果を確認する
利益が改善しても、入金までの期間が長い場合は、資金繰りの改善が遅れることがあります。
例えば、月末締め翌々月末払いであれば、価格改定の実施から実際の入金まで2か月以上かかる場合があります。
次の内容を確認してください。
・新価格による初回請求月
・初回入金日
・売掛金の増加額
・支払サイト
・手形・電子記録債権等の決済条件
・原材料費等の支払日
・価格改定までの自社負担額
・改定後に必要な運転資金
価格転嫁によって売上が増えると、売掛金も増加します。
仕入代金を先に支払い、売上代金を後から回収する取引では、価格改定後も運転資金が必要です。損益だけでなく、資金繰り表で入出金を確認しましょう。
価格転嫁による賃上げ効果を確認する
労務費の上昇を理由に価格転嫁を行った場合は、改定によって得た利益を人材の確保・定着へつなげることが重要です。
ただし、価格改定による増収額のすべてを賃上げへ使えるとは限りません。
原材料費、外注費、エネルギー費等の上昇分を差し引いたうえで、継続的に負担できる人件費を確認します。
賃上げに活用できる原資=価格改定による増加粗利益-追加固定費-追加運営費-必要な投資・返済等
賃上げを検討する場合は、次の費用も含めて計算します。
・基本給
・賞与
・時間外手当
・会社負担の社会保険料
・退職金・退職給付
・採用費
・教育研修費
・福利厚生費
基本給を引き上げると、毎年継続して人件費が発生します。
一時的な価格改定や受注増加だけを根拠に恒久的な賃上げを行うと、その後の利益が不足する可能性があります。
今後の売上、利益、資金繰りを試算し、継続可能な金額を決めましょう。
価格転嫁後の利益を成長投資へ配分する
価格転嫁によって確保した利益は、賃上げだけでなく、事業継続に必要な投資へ配分します。
・老朽設備の更新
・生産性向上設備の導入
・品質管理
・人材採用
・教育・技能承継
・システム・DX
・販路開拓
・新商品・新事業
・借入金返済
・納税
・災害・事故への備え
・運転資金
・内部留保
価格転嫁の目的は、短期的に利益率を引き上げることだけではありません。
人材、設備、品質、開発へ投資し、取引先へ安定して商品・サービスを供給できる経営基盤をつくることが重要です。
価格転嫁後の取引先への説明を継続する
価格改定後も、品質、納期、供給状況等について取引先と情報共有を行います。
価格を引き上げた直後に品質低下や納期遅延が続くと、取引先は改定への不満を持つ可能性があります。
次のような内容を必要に応じて共有しましょう。
・品質改善
・納期遵守
・設備更新
・人材確保・育成
・生産能力
・在庫・供給体制
・コスト低減活動
・新たな提案
・市場・原材料価格の変化
価格改定で得た原資をどのように供給継続や品質維持へ活用しているかを伝えれば、次回の価格協議に向けた信頼関係を築きやすくなります。
価格転嫁を受ける発注者側の対応も確認する
自社が受注者として価格転嫁を求める一方で、外注先や仕入先から値上げを求められる立場でもあります。
発注者として、次の対応を確認しましょう。
・定期的に価格協議の機会を設ける
・受注者からの協議申入れへ対応する
・原材料費・労務費等の変化を確認する
・一方的に従来価格を据え置かない
・回答理由を具体的に説明する
・必要以上に詳細な原価資料を求めない
・協議の記録を残す
・合意した価格を書面へ反映する
・価格協議を理由に不利益な取扱いをしない
・自社の販売先への価格転嫁も進める
自社の取引先だけでなく、仕入先や外注先も継続して事業を行えなければ、安定供給を維持できません。
サプライチェーン全体で適正な価格と取引条件を協議することが重要です。
価格転嫁後の月次管理表を作成する
価格改定の効果は、月次で確認します。
確認項目 改定前 計画 実績 差異 対応策
平均販売単価
販売数量
売上高
材料費
外注費
労務費
物流費
粗利益
粗利益率
未転嫁額
売掛金
入金額
計画と実績に差がある場合は、単価、数量、原価、取引条件のどこに原因があるかを確認します。
例えば、売上が計画未達でも、販売数量の減少が原因なのか、改定漏れが原因なのかによって対応は異なります。
価格転嫁後に避けたい管理方法を確認する
次のような状態では、価格転嫁の効果を正しく把握できません。
・営業担当者だけが合意内容を把握している
・契約書や見積書を変更していない
・発注書が旧単価でもそのまま受注する
・初回請求を確認しない
・商品別・取引先別の利益を確認しない
・売上高だけで効果を判断する
・受注量の減少を確認しない
・新たな値引きや費用負担を見落とす
・未転嫁額を把握しない
・原価を改定時点のまま更新しない
・次回交渉の時期を決めない
・価格改定による増収をすべて利益と考える
・一時的な増収だけで恒久的な支出を増やす
・仕入先からの価格協議を一方的に拒否する
価格転嫁は一度実施して終わる取り組みではありません。
原価、価格、数量、利益、資金繰りを継続的に確認し、必要に応じて再交渉や取引条件の見直しを行いましょう。
価格転嫁を相談できる栃木県の公的支援機関
価格転嫁を相談できる栃木県の公的支援機関
価格転嫁について相談する際は、困っている内容に合う窓口を選びます。
原価計算や交渉資料を作りたい場合と、一方的な価格決定や代金減額等の取引トラブルを相談したい場合では、適切な相談先が異なります。
相談したい内容 主な相談先
原価計算を行いたい 栃木県よろず支援拠点、商工団体、専門家
価格交渉資料を作りたい 栃木県よろず支援拠点、中小企業診断士等
商品別の利益を確認したい よろず支援拠点、税理士、中小企業診断士
交渉方法を相談したい よろず支援拠点、商工会・商工会議所
取引先が協議に応じない 取引かけこみ寺、関東経済産業局
一方的な減額等を受けた 取引かけこみ寺、公正取引委員会、弁護士
取適法の適用を確認したい 取引かけこみ寺、関東経済産業局、公正取引委員会
契約変更を確認したい 弁護士
資金繰りも改善したい よろず支援拠点、金融機関、商工団体
栃木県の支援情報を知りたい 栃木県、栃木県産業振興センター
相談先が問題を自動的に解決してくれるわけではありません。
自社の取引内容、原価、契約、交渉経緯を整理し、何について助言を受けたいのかを明確にしましょう。
価格転嫁は栃木県よろず支援拠点へ相談する
栃木県よろず支援拠点には、価格転嫁サポート窓口が設置されています。
価格交渉に関する基礎知識や原価計算の方法などについて、専門家へ相談できます。
主な相談内容として、次のようなものが考えられます。
・何から価格転嫁を始めればよいか
・商品・サービス別の原価を計算したい
・値上げが必要な金額を確認したい
・取引先別の採算を確認したい
・価格交渉資料を作成したい
・取引先への説明方法を考えたい
・値上げと取引条件の変更を比較したい
・値上げ後の売上・利益を試算したい
・価格転嫁後の経営改善を進めたい
・公的な統計や支援ツールを活用したい
栃木県よろず支援拠点は、中小企業・小規模事業者等を対象とする公的な経営相談窓口です。
相談は無料で、オンライン相談にも対応しています。
出典:栃木県「適切な価格転嫁の実現に向けた支援情報等について」
相談を申し込む際は、「価格転嫁について相談したい」だけでなく、次のように具体的に伝えるとよいでしょう。
主要取引先へ価格改定を申し入れたいと考えています。商品別の原価と必要改定額を計算し、交渉資料を作成したいため、原価計算と交渉方法について相談したいです。
相談時点で原価計算が完成していなくても問題ありません。
決算書、仕入資料、売上データ等を用意し、どのような資料が不足しているかを確認しましょう。
価格転嫁の取引トラブルは取引かけこみ寺へ相談する
取引かけこみ寺は、中小企業庁の委託事業として設置されている、企業間取引に関する相談窓口です。
企業間取引や取適法等に詳しい相談員や弁護士へ、無料で相談できます。
相談内容と、相談したこと自体について秘密が守られ、弁護士相談を除いて匿名で相談することも可能と案内されています。
出典:全国中小企業振興機関協会「取引かけこみ寺」
主な相談内容として、次のようなものがあります。
・価格協議へ応じてもらえない
・原材料費や労務費の上昇を認めてもらえない
・一方的に価格を決められた
・代金を減額された
・支払いが遅れている
・発注後に取引を取り消された
・無償の作業ややり直しを求められた
・金型・治具・在庫等の負担を求められた
・協賛金や手数料を一方的に差し引かれた
・価格交渉を理由に取引停止を示唆された
・契約書の内容に不安がある
・取適法の適用関係を確認したい
全国共通のフリーダイヤルは、0120-418-618です。
栃木県内では、公益財団法人栃木県産業振興センターに窓口が設置されています。電話、オンライン、対面での相談が案内されています。
出典:全国中小企業振興機関協会「取引かけこみ寺一覧」
相談員が取引相手へ無断で連絡するものではありません。
相談後、必要に応じて弁護士相談、裁判外紛争解決手続、適切な機関の紹介等が行われる場合があります。
価格転嫁と取適法は関東経済産業局へ相談する
栃木県を管轄する関東経済産業局では、取適法上の買いたたきの考え方や受託取引等について相談できます。
栃木県の価格転嫁支援ページでは、関東経済産業局適正取引推進課が相談先として案内されています。
主に次のような相談が考えられます。
・自社の取引が取適法の対象となるか
・取引先の価格決定方法に問題がないか
・代金減額や支払遅延について確認したい
・発注内容が書面で示されない
・買いたたきに該当する可能性がある
・価格協議へ応じてもらえない
・どの資料を準備して相談すればよいか
出典:栃木県「適切な価格転嫁の実現に向けた支援情報等について」
相談しただけで、直ちに法律違反と認定されるわけではありません。
取引の内容、当事者の規模、発注方法、協議経緯等によって判断が異なるため、契約書、発注書、請求書、交渉記録等を準備しましょう。
価格転嫁と優越的地位の濫用は公正取引委員会へ相談する
公正取引委員会では、取適法や独占禁止法上の優越的地位の濫用等について相談できます。
例えば、次のような場合です。
・取引上の立場を利用して著しく低い価格を求められる
・合意していない費用負担を求められる
・取引先の都合による返品ややり直しを無償で求められる
・価格交渉を理由に不利益な取扱いを受ける
・一方的に代金を減額される
・価格決定の方法に問題があると考えられる
栃木県の価格転嫁支援ページでは、公正取引委員会の相談窓口も案内されています。
出典:栃木県「適切な価格転嫁の実現に向けた支援情報等について」
法律上の問題が疑われる場合でも、取引先を直ちに違法と断定してはいけません。
相談時には、事実、契約、金額、時系列、相手の説明を分けて伝えましょう。
価格転嫁の支援情報は栃木県のWebサイトで確認する
栃木県は、価格転嫁や価格交渉に関する支援情報をまとめて公開しています。
掲載されている主な情報は次のとおりです。
・栃木県内企業の価格転嫁好事例集
・取適法等の改正情報
・適正取引や価格交渉のガイドライン
・価格交渉の進め方
・価格交渉の申込様式例
・原材料価格等を確認する支援ツール
・相談窓口
・価格交渉促進月間
・パートナーシップ構築宣言
出典:栃木県「適切な価格転嫁の実現に向けた支援情報等について」
栃木県は、県内企業が価格転嫁や価格交渉に成功した取り組みをまとめた事例集も公開しています。
自社と業種や取引形態が近い事例を確認し、資料の作り方、交渉の進め方、価格改定後の効果などを参考にできます。
出典:栃木県「栃木県価格転嫁好事例集について」
ただし、成功事例と同じ値上げ率や説明方法を使えば、必ず成功するわけではありません。
自社の原価、商品、顧客、契約、競合環境に合わせて交渉内容を設計する必要があります。
価格転嫁は商工会・商工会議所へ相談する
所在地を管轄する商工会・商工会議所でも、価格転嫁、原価管理、資金繰り、経営計画等について相談できる場合があります。
主な相談内容として、次のようなものが考えられます。
・売上・原価・利益の確認
・価格改定の必要性
・経営計画
・資金繰り
・専門家派遣
・国・県等の支援制度
・取引かけこみ寺等の紹介
・補助金・融資
・事業承継
商工会・商工会議所によって、相談会、専門家派遣、会員向け支援等の内容が異なります。
価格転嫁の法的な判断や取引紛争へ直接対応するとは限らないため、相談できる範囲を確認しましょう。
価格転嫁は課題に応じて専門家へ相談する
価格転嫁では、経営、会計、契約、労務など、複数の専門知識が必要になる場合があります。
専門家 主な相談内容
中小企業診断士 原価・採算分析、価格戦略、交渉資料、経営計画
税理士・公認会計士 会計データ、商品別利益、税務、資金繰り
弁護士 契約変更、取適法、取引トラブル、損害賠償
社会保険労務士 賃金、社会保険料、賃上げ、人事制度
IT・業務専門家 原価管理、受注・請求システム、データ集計
顧問税理士が会社の会計を理解していても、商品別原価や価格交渉を日常的に支援しているとは限りません。
また、中小企業診断士が契約や法律違反を最終判断できるわけではありません。
相談内容に応じて役割を分け、必要な場合は複数の専門家と連携しましょう。
価格転嫁の相談前に資料を準備する
相談時には、すべての資料が完成していなくても構いません。
ただし、次の資料があると、具体的な助言を受けやすくなります。
・会社概要
・商品・サービスの内容
・主要取引先
・直近の決算書
・最新の試算表
・商品別・取引先別の売上
・仕入台帳
・仕入先からの値上げ通知
・給与・労務費に関する資料
・電気・ガス・燃料等の請求書
・外注費・運送費の資料
・原価計算表
・現在の価格表
・見積書
・契約書
・発注書
・請求書
・取引先とのメール
・面談記録
・希望する改定額・改定日
・取引先からの回答
・相談したい内容
相談資料へ顧客名、従業員情報、製造方法、原価等の秘密情報が含まれる場合は、相談先の守秘義務や情報管理方法を確認してください。
必要に応じて、企業名や個人情報を伏せた資料を用意しましょう。
価格転嫁の交渉記録を時系列で整理する
取引上の問題を相談する場合は、感情的な説明だけでは事実関係を把握しにくくなります。
次のような時系列表を作成します。
日付 相手 方法 主な内容 提出・受領資料 次の対応
4月1日 購買担当A メール 価格協議を申入れ 改定依頼書 面談日調整
4月10日 購買担当A 面談 原価上昇を説明 原価比較表 社内検討
4月20日 購買担当A メール追加資料を提出 価格指数 4月末回答
5月1日 購買担当A 電話改定不可との回答 なし 理由を書面で確認
相談先には、事実と自社の評価を分けて伝えます。
例えば、「不当に拒否された」とだけ説明するのではなく、「〇月〇日に協議を申し入れ、〇月〇日に資料を提出したが、理由の説明がないまま現行価格を指定された」と整理します。
価格転嫁は問題が大きくなる前に相談する
次のような段階で相談を検討しましょう。
・原価計算の方法が分からない
・値上げが必要な金額を計算できない
・交渉資料を作成できない
・取引先への伝え方が分からない
・価格協議に応じてもらえない
・回答を長期間先延ばしされている
・一部転嫁では赤字が解消しない
・追加資料を繰り返し要求される
・値上げ交渉後に発注量が減少した
・合意していない値引きや減額を受けた
・取引停止を示唆された
・契約内容に不安がある
・資金繰りが悪化している
取引が終了してから相談するよりも、交渉前や問題が発生した直後に相談した方が、選択肢を検討しやすくなります。
相談したからといって、取引先へ通報しなければならないとは限りません。匿名相談が可能な窓口もあるため、まずは状況を整理する目的で利用できます。
価格転嫁後の管理と相談手順をまとめる
栃木県の中小企業が価格転嫁後の管理を行う手順は、次のように整理できます。
①改定単価と適用条件を書面で確認する
②商品・取引先別の価格マスターを更新する
③発注書、納品書、請求書の単価を照合する
④初回請求と入金を確認する
⑤値引き・相殺・追加負担を確認する
⑥商品別・取引先別の利益を再計算する
⑦価格転嫁率と未転嫁額を確認する
⑧販売数量と顧客維持への影響を確認する
⑨原材料費・労務費等を定期的に更新する
⑩資金繰りへの効果を確認する
⑪賃上げや設備投資へ配分できる原資を確認する
⑫次回の価格見直し基準と時期を決める
⑭取引先への説明と関係維持を続ける
⑮仕入先・外注先からの価格協議にも対応する
困った場合は公的支援機関や専門家へ早めに相談する
価格転嫁は、値上げを認めてもらうこと自体が目的ではありません。
価格改定によって適正な利益と資金を確保し、賃上げ、設備更新、人材育成、品質維持へつなげ、継続して商品・サービスを提供できる経営体制をつくることが目的です。
Komaki Business Partnersでは、栃木県内の中小企業を対象に、商品別・取引先別の原価計算、価格改定額の試算、価格交渉資料の作成、取引先別の交渉方針、価格転嫁後の利益・資金繰り確認、賃上げ原資の試算などを支援しています。
「値上げしたが利益が増えていない」「どの取引先から再交渉すべきか分からない」「価格改定後の未転嫁額を確認したい」「取引先へ提出する資料を作成できない」といった場合は、次回の交渉を始める前にご相談ください。
なお、価格変更、契約、取適法、独占禁止法等の取扱いは、取引内容や当事者の関係によって異なります。実際に対応する際は、取引かけこみ寺、公正取引委員会、関東経済産業局、弁護士等へ確認してください。
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