賃上げ取組が栃木県中小企業の経営効率化と助成金活用に与える影響を徹底解説
2026/08/27
栃木県で賃上げを検討しているものの、「どの支援制度が使えるのか」「設備投資にも活用できるのか」「申請前に何を準備すべきか」と迷っていませんか。制度ごとに賃上げ率、対象経費、申請期限が異なるため、名称だけで選ぶと対象外になるおそれがあります。本記事では、県内中小企業向けの賃上げ加速・定着支援金、賃上げ環境整備促進補助金、業務改善助成金を比較し、自社に合う制度の選び方と申請手順、注意点を分かりやすく解説します。
目次
栃木県の賃上げ補助金・支援金とは
栃木県の賃上げ補助金・支援金とは
栃木県内の中小企業が賃上げに取り組む際は、国や県の支援制度を利用できる場合があります。ただし、「賃上げを実施すれば一律に補助される」わけではありません。
制度によって、現金を支給するもの、生産性向上につながる設備投資を補助するもの、事業場内最低賃金の引上げを条件とするものなど、目的と要件が異なります。名称も「支援金」「補助金」「助成金」に分かれているため、内容を確認せずに申請すると、対象外になるおそれがあります。
まずは、栃木県内の中小企業が検討しやすい3つの賃上げ支援制度について、基本的な違いを確認しましょう。
※本章は2026年8月31日時点の公表情報をもとに作成しています。受付状況や要件が変更される場合があるため、申請時には必ず公式サイトで最新情報を確認してください。
栃木県の賃上げ支援3制度の違い
栃木県内の中小企業が賃上げに関連して利用を検討できる主な制度は、次の3つです。
◆とちぎ賃上げ加速・定着支援金
◆とちぎ賃上げ環境整備促進補助金
◆業務改善助成金
いずれも賃上げに関係する制度ですが、支給対象や使い道は同じではありません。最初に全体像を比較すると、次のように整理できます。
制度名 実施主体 主な目的 主な賃上げ要件 支援内容
とちぎ賃上げ加速・定着支援金 栃木県 高水準の賃上げと企業内男女間格差の是正 対象従業員の賃金を5%以上引き上げる 従業員1人当たり5万5,000円、1企業最大110万円
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金 栃木県 生産性向上や労働環境改善による持続的な賃上げ 事業場内最低賃金を50円以上引き上げる 対象経費の2分の1、最大200万円
業務改善助成金 厚生労働省 最低賃金の引上げと生産性向上 事業場内最低賃金を50円以上引き上げる 設備投資等の一部を助成。最大600万円
「賃上げに使える制度」という点は共通していますが、支援の仕組みには大きな違いがあります。
とちぎ賃上げ加速・定着支援金
「とちぎ賃上げ加速・定着支援金」は、栃木県内の中小企業者等が5%以上の賃上げと、企業内における男女間格差の是正に取り組んだ場合に支給される制度です。
2026年4月1日以降に、対象従業員1人につき、2026年3月31日までの直近支給額と比較して5%以上賃金を引き上げる必要があります。さらに、引上げ後の賃金について1か月以上の支給実績があり、その水準を1年間継続する見込みがあることも要件です。
対象となる従業員は、栃木県内の事業所で週の所定労働時間が20時間以上の人です。正規・非正規の雇用形態は問われませんが、原則として雇用保険の被保険者である必要があります。
賃上げだけでなく、次のいずれかの取組も行わなければなりません。
・女性管理職比率の改善
・女性非正規労働者の正規化
・法令を上回る短時間勤務制度の導入・拡充
・女性活躍推進法に基づく情報公表
支給額は対象従業員1人当たり5万5,000円で、1企業当たり最大110万円です。設備の購入を前提としないため、一定水準以上の賃上げを実施し、男女間格差の是正にも取り組む企業が検討しやすい制度といえます。
申請受付期間は2026年5月12日から2027年1月20日までですが、先着順であり、予算額に達した場合は期間中でも受付が終了します。
出典:令和8年度とちぎ賃上げ加速・定着支援金公式サイト
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金
「とちぎ賃上げ環境整備促進補助金」は、設備投資や労働環境の改善と賃上げを同時に行う栃木県内の中小企業者等を支援する制度です。
主な要件は、2025年10月1日以降に、事業場内最低賃金を50円以上引き上げていることです。ただし、引上げ前の事業場内最低賃金についても、地域別最低賃金より51円以上高く、かつ1,500円以下という条件があります。
対象となる経費には、次のようなものがあります。
・POSレジシステムの導入
・リフト付き特殊車両の導入
・国家資格者による業務フローの見直し
・キッズルームの設置
・事業所内の段差のスロープ化
・床の防滑加工
補助率は対象経費の2分の1で、補助限度額は最大200万円です。
この制度は、賃上げした金額そのものを補填するものではありません。設備投資や職場環境の改善によって生産性を高め、将来にわたって賃上げを継続できる経営体制を整えるための制度です。
申請受付期間は2026年5月18日から12月21日までで、申請前の事前相談が原則となっています。また、交付決定前に設備の正式契約、納品、支払いを行った場合は補助対象外となるため、先に設備を購入しないよう注意が必要です。
出典:栃木県「とちぎ賃上げ環境整備促進補助金」
業務改善助成金
「業務改善助成金」は、事業場内最低賃金を引き上げるとともに、生産性向上につながる設備投資等を行う中小企業・小規模事業者を支援する国の制度です。
2026年度は、事業場内最低賃金を50円以上引き上げ、生産性向上につながる設備投資等を行うことが基本要件です。助成対象となる事業場や助成上限額は、引き上げる金額、対象となる労働者数、企業規模などによって変わります。
対象経費としては、一般的に次のような設備やサービスが想定されています。
・生産設備や加工機械
・POSレジや自動釣銭機
・業務用車両や運搬設備
・在庫・販売管理システム
・業務改善を目的としたコンサルティング
・人材育成や教育訓練
助成上限額は最大600万円ですが、すべての企業が600万円を受給できるわけではありません。賃上げ額、賃上げする従業員数、助成率、対象経費によって実際の助成額が決まります。
2026年度分は2026年9月1日から申請受付が開始される予定です。交付決定前に設備の発注や契約をすると対象外になるため、設備事業者との商談を進める場合も、正式な発注時期には注意しなければなりません。
出典:厚生労働省「令和8年度業務改善助成金」
3制度の違いを、企業の目的から整理すると次のとおりです。
企業の状況・目的 最初に確認する制度
5%以上の賃上げを実施し、設備投資を予定していない とちぎ賃上げ加速・定着支援金
賃上げと同時に設備や職場環境を改善したい とちぎ賃上げ環境整備促進補助金
事業場内最低賃金を引き上げ、生産性向上設備を導入したい 業務改善助成金
女性管理職の登用や非正規から正規への転換も進めたい とちぎ賃上げ加速・定着支援金
POSレジ、運搬設備、業務システムなどを導入したい 県補助金と業務改善助成金を比較
制度名だけで判断するのではなく、「誰の賃金を、いつ、いくら引き上げたか」「何に費用を使うか」を整理してから、自社に合う制度を選ぶことが重要です。
なお、複数制度の要件を満たす場合でも、同じ設備や経費について重複して補助を受けられるとは限りません。併用を検討する場合は、申請前にそれぞれの事務局へ確認してください。
栃木県の最低賃金と賃上げ要件
栃木県の最低賃金と賃上げ要件
賃上げ支援制度を検討するうえで、最初に確認すべき数字が「地域別最低賃金」と「事業場内最低賃金」です。
地域別最低賃金は、都道府県ごとに定められている賃金の最低額です。原則として、正社員、パート、アルバイト、契約社員などの雇用形態にかかわらず適用されます。
一方、事業場内最低賃金は、その会社全体の平均賃金ではありません。工場、店舗、営業所などの事業場ごとに、そこで働く従業員へ支払っている最も低い時間当たりの賃金を指します。
例えば、本社と工場が別の事業場として管理されている場合、本社と工場でそれぞれ事業場内最低賃金を確認する必要があります。
2026年9月30日までの栃木県最低賃金は1,068円
2025年10月1日から適用されている栃木県の地域別最低賃金は、時間額1,068円です。2026年8月31日時点では、この金額が現行の最低賃金となっています。
栃木地方最低賃金審議会は、2026年度の栃木県最低賃金について、57円引き上げて時間額1,125円とする答申を行っています。栃木県の公表資料では、2026年10月1日から1,125円に改定・発効される見込みとされています。
適用時期栃木県の地域別最低賃金
2025年10月1日~2026年9月30日 1,068円
2026年10月1日以降 1,125円となる見込み
引上げ額57円
出典:栃木労働局「令和8年度の最低賃金の改定を答申」
最低賃金の改定が正式に発効した場合、現在の時間給が1,068円以上1,124円以下の従業員については、少なくとも1,125円以上への引上げが必要になります。
ただし、単に最低賃金へ対応しただけでは、すべての賃上げ支援制度の要件を満たすとは限りません。制度ごとに、最低賃金を上回る引上げ額や引上げ率が定められているためです。
最低賃金の計算に含まれない賃金がある
月給の総支給額を労働時間で割るだけでは、最低賃金を正しく確認できない場合があります。
最低賃金の計算では、毎月支払われる基本的な賃金を使用します。次の賃金は原則として計算から除外します。
・賞与
・結婚手当など臨時に支払われる賃金
・時間外労働の割増賃金
・休日労働の割増賃金
・深夜労働の割増部分
・精皆勤手当
・通勤手当
・家族手当
月給制の場合は、最低賃金の対象となる月給額を1か月平均所定労働時間で割り、時間額へ換算します。
最低賃金の対象となる月給額÷1か月平均所定労働時間=時間当たりの賃金額
基本給が最低賃金を下回っていても手当を含めれば問題ないと考えるのは危険です。手当の種類によって、最低賃金の計算に含められるものと含められないものがあるため、賃金台帳と雇用契約書の両方を確認する必要があります。
出典:厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」
制度によって賃上げの判定方法が異なる
同じ「賃上げ支援制度」でも、賃上げ要件の判定方法は異なります。
制度名 賃上げの主な判定方法
とちぎ賃上げ加速・定着支援金 従業員ごとに直近支給額と比較し、5%以上引き上げる
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金 事業場内で最も低い賃金を50円以上引き上げる
業務改善助成金 事業場内最低賃金を50円以上引き上げる
例えば、時給1,200円の従業員について「とちぎ賃上げ加速・定着支援金」の5%要件を満たすには、原則として次の計算になります。
1,200円×1.05=1,260円
50円引き上げて1,250円にしても、5%の要件は満たしません。一方、事業場内最低賃金を基準とする制度では、すべての従業員を一律に50円引き上げる必要があるとは限らず、事業場内で最も低い賃金と対象労働者を確認して判断します。
最低賃金の改定によって補助対象範囲も変わる
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金では、賃上げを実施した時点の地域別最低賃金を基準に、引上げ前の事業場内最低賃金を判定します。
2026年度の対象範囲は、次のとおりです。
賃上げの実施日 基準となる最低賃金 引上げ前の事業場内最低賃金の対象範囲
2026年9月30日まで 1,068円 1,119円以上1,500円以下
2026年10月1日以降 1,125円となる見込み 1,176円以上1,500円以下
つまり、最低賃金の改定前と改定後では、同じ賃金額でも補助対象になるかどうかが変わる可能性があります。
一方、業務改善助成金は、地域別最低賃金に近い賃金水準の事業場を対象とする制度です。事業場内最低賃金がどの範囲にあるかによって、県の補助金と業務改善助成金のどちらを検討すべきかが変わります。
賃上げを実施する前には、少なくとも次の項目を確認しましょう。
①事業場ごとの最低賃金はいくらか
②対象となる従業員は誰か
③現在の賃金を時間額に換算するといくらか
④最低賃金の計算から除外する手当はないか
⑤賃上げを実施する日はいつか
⑥必要な引上げ額・引上げ率を満たしているか
⑦引上げ後の賃金を継続して支払えるか
⑧賃金台帳や就業規則に変更内容を反映できるか
賃上げ支援制度を利用するためだけに一時的な賃上げを行うのではなく、社会保険料を含む年間人件費の増加額を試算し、補助終了後も賃金を維持できるかを確認することが重要です。
次章では、「とちぎ賃上げ加速・定着支援金」「とちぎ賃上げ環境整備促進補助金」「業務改善助成金」について、対象者、支給額、対象経費、申請期間などをさらに詳しく比較します。
栃木県の賃上げ補助金を比較
栃木県の賃上げ補助金を比較
第1章では、栃木県内の中小企業が検討できる3つの賃上げ支援制度について、基本的な違いを確認しました。
ここからは、それぞれの対象者、賃上げ要件、支援額、対象経費を詳しく比較します。
制度を選ぶ際は、「受け取れる金額の大きさ」だけで判断してはいけません。すでに賃上げを実施しているか、これから実施するか、設備投資を予定しているか、現在の事業場内最低賃金がいくらかによって、利用できる制度が変わります。
栃木県の賃上げ加速・定着支援金の対象・要件
「とちぎ賃上げ加速・定着支援金」は、5%以上の賃上げと企業内男女間格差の是正に取り組む、栃木県内の中小企業者等を対象とした制度です。
設備投資を前提とせず、賃上げした対象従業員数に応じて定額が支給される点が、設備経費の一部を補助するほかの2制度との大きな違いです。
支給対象となる事業者
法人の場合は、主に次の要件を満たす必要があります。
・中小企業基本法上の中小企業者に該当する
・栃木県内に本社、主たる事業所、支店または営業所等がある
・栃木県内の事業所で従業員を1人以上、6か月以上雇用している
・栃木県税に未納がない
・過去5年間に重大な法令違反等がない
・性風俗関連特殊営業を行っていない
・暴力団または暴力団関係者に該当しない
・会社更生法や民事再生法等に基づく手続きを行っていない
個人事業主も対象になりますが、栃木県内を管轄する税務署へ開業届を提出していることなどが必要です。
中小企業者の範囲は、業種ごとに資本金または従業員数で判定されます。
業種 資本金・出資額 常時使用する従業員数
製造業・建設業・運輸業・その他 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
小売業 5,000万円以下 50人以下
資本金と従業員数の両方を満たす必要はなく、原則としてどちらか一方を満たせば中小企業者の範囲に入ります。ただし、法人の種類や事業内容によって対象外となる場合があるため、最終的には申請要領で確認してください。
賃上げの要件
対象従業員について、2026年4月1日以降の時間当たり賃金を、2026年3月31日までの直近の賃金支給額と比較して5%以上引き上げる必要があります。
さらに、次の2点も満たさなければなりません。
・引上げ後の賃金について1か月以上の支給実績がある
・引上げ後の賃金を1年間継続する見込みがある
例えば、引上げ前の時間当たり賃金が1,200円の場合は、次のように計算します。
1,200円×1.05=1,260円
時間当たり60円以上引き上げ、1,260円以上にする必要があります。50円だけ引き上げて1,250円にしても、5%の要件は満たしません。
賃金の引上げは1回で行う必要はなく、複数回に分けて実施することもできます。ただし、2026年3月31日までの直近支給額と比較し、最終的に5%以上の水準へ到達している必要があります。
月給制・日給制も時間額へ換算する
本支援金では、時給制だけでなく、月給制や日給制の従業員についても時間当たりの賃金額へ換算して、5%以上の引上げを確認します。
賃金形態 主な計算方法
時給制 引上げ前後の時間給を比較する
日給制 日給÷1日の所定労働時間
月給制 月給÷1か月の所定労働時間
月ごとの所定労働時間が異なる月給制 月給÷1年間の1か月平均所定労働時間
歩合給を含む 歩合給を一定期間の総実労働時間で割り、固定給の時間額を加算する
賃上げ率の計算には、原則として最低賃金の計算対象となる賃金を使用します。次の賃金は含みません。
・賞与
・臨時に支払われる賃金
・時間外・休日・深夜労働の割増賃金
・精皆勤手当
・通勤手当
・家族手当
・これらに類する手当
基本給を変更せず、通勤手当や賞与だけを増やしても、5%の賃上げとして認められない可能性があります。賃金台帳だけでなく、雇用契約書や労働条件通知書、就業規則に定めた賃金の構成も確認しましょう。
男女間格差の是正に関する要件
5%以上の賃上げだけでは、本支援金を受給できません。次の4項目のうち、いずれか1つ以上に取り組む必要があります。
取組項目 主な要件
女性の管理職比率の改善 申請時点の女性管理職比率または女性係長級比率が、2025年4月時点より上昇している
非正規雇用からの転換 直近事業年度における女性の職種・雇用形態の転換実績が男性を上回っている
短時間勤務制度の導入・拡充 2026年4月以降に、育児・介護休業法の義務を上回る制度を導入・拡充している
女性活躍推進法に基づく情報公表 女性管理職比率、男女の賃金差異を含む4項目以上を公表している
短時間勤務制度については、会社が個別に柔軟な対応をしているだけでは不十分です。就業規則等に規定し、社内制度として利用できる状態にする必要があります。
情報公表を選ぶ場合は、女性活躍推進法に基づく算出方法に準拠し、一般の人が閲覧できる状態で公表します。厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」または自社ホームページを利用できます。
支給額
支給額は、5%以上の賃上げ要件を満たした従業員1人につき5万5,000円です。
対象従業員数 支給額
1人 5万5,000円
5人 27万5,000円
10人 55万円
20人 110万円
21人以上 上限110万円
1事業者当たりの上限は110万円で、最大20人分です。法人は原則として法人番号単位で判定されます。
複数の店舗や工場を運営していても、同じ法人番号で管理されている場合は、事業所ごとに上限110万円となるわけではありません。複数の事業所をまとめて申請します。
同じ従業員について、複数回支援金を受け取ることもできません。例えば、4月に5%賃上げして申請した従業員を、9月にさらに5%賃上げしても、同じ従業員について再度5万5,000円を申請することはできません。
必要となる主な申請書類
申請時には、主に次の書類を提出します。
支給申請書
・賃上げ実施従業員一覧
・履歴事項全部証明書
・個人事業主の場合は確定申告書または開業届の写し
・対象従業員の労働条件通知書または雇用契約書
・賃上げ前後の賃金台帳
・男女間格差是正の取組を証明する書類
・振込先口座を確認できる書類
・県税に未納がないことを確認できる書類等
選択した男女間格差是正の取組によって、提出書類は異なります。例えば、女性管理職比率の改善を選ぶ場合は、男女別の従業員数と管理職数が分かる書類が必要です。
申請期限と注意点
申請受付期間は、2026年5月12日から2027年1月20日までです。インターネットまたは郵送で申請できます。
ただし、先着順であり、予算額に達した場合は期間中でも受付が終了します。5%以上の賃上げを行っても、引上げ後の賃金を実際に1か月以上支払ってからでなければ申請できないため、賃上げの実施時期と給与支給日を確認しておきましょう。
出典:令和8年度とちぎ賃上げ加速・定着支援金公式サイト
本支援金で受け取れるのは、対象従業員1人当たり5万5,000円です。一方、5%の賃上げによる人件費増加は、その後も継続します。支援金だけを理由に賃上げを決めず、年間人件費と社会保険料の増加額を試算することが重要です。
栃木県の賃上げ環境整備促進補助金と業務改善助成金の違い
栃木県の賃上げ環境整備促進補助金と業務改善助成金の違い
設備投資を伴う賃上げ支援制度には、栃木県の「とちぎ賃上げ環境整備促進補助金」と、厚生労働省の「業務改善助成金」があります。
どちらも事業場内最低賃金を50円以上引き上げ、設備投資等を行う制度ですが、対象となる賃金水準、申請時期、補助率、対象経費が異なります。
まず、主な違いを比較すると次のようになります。
比較項目 とちぎ賃上げ環境整備促進補助金 業務改善助成金
実施主体 栃木県 厚生労働省
対象地域 栃木県内の事業所 全国
主な対象者 県内に事業所を持つ中小企業者等 中小企業・小規模事業者
賃上げ要件 事業場内最低賃金を50円以上引き上げる 事業場内最低賃金を50円・70円・90円以上引き上げる
賃上げの時期 2025年10月1日以降に実施済みであること 原則として申請・交付決定後に実施する
補助・助成率 2分の1 原則4分の3または5分の4
上限額 最大200万円 最大600万円
主な対象経費 生産性向上設備、労働環境改善設備等 生産性向上・労働能率向上に資する設備等
申請単位 事業者 事業場
申請前相談 原則必要 労働局等への相談が可能
交付決定前の契約等 対象外 対象外
対象となる事業場内最低賃金が異なる
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金では、賃上げ前の事業場内最低賃金が、賃上げ実施時点の地域別最低賃金より51円以上高く、1,500円以下であることが要件です。
賃上げ実施日 栃木県最低賃金 引上げ前の事業場内最低賃金
2026年9月30日まで 1,068円1,119円以上 1,500円以下
2026年10月1日以降 1,125円となる見込み 1,176円以上1,500円以下
一方、2026年度の業務改善助成金は、事業場内最低賃金が2026年度の地域別最低賃金未満である事業場を対象としています。
栃木県最低賃金が答申どおり1,125円となる場合、現在の事業場内最低賃金が原則として1,068円以上1,124円以下の事業場は、業務改善助成金の対象となる可能性があります。
ただし、解雇、賃金の引下げ、労働保険料の滞納などの不交付事由がある場合は申請できません。賃金額だけで対象を判断せず、交付要綱に定められた要件を確認する必要があります。
賃上げを実施する順番が異なる
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金は、2025年10月1日以降に事業場内最低賃金を50円以上引き上げていることが要件です。つまり、一定の範囲内で、すでに賃上げを実施した企業も申請できます。
ただし、設備の正式契約、納品、支払いについては、補助金の交付決定後に行わなければなりません。
一方、業務改善助成金は、賃上げ計画と設備投資計画を作成して申請し、交付決定後に計画を実行する制度です。
基本的な順番は次のとおりです。
①事業場内最低賃金の引上げ計画を作成する
②設備投資等の計画を作成する
③労働局へ交付申請する
④交付決定を受ける
⑤設備を発注・契約する
⑥賃上げを実施する
⑦設備の納品と支払いを完了する
⑧事業実績を報告する
⑨助成額の確定後に助成金を受け取る
業務改善助成金では、地域別最低賃金の改定に対応して賃上げする場合、新しい最低賃金の発効日の前日までに賃上げを完了する必要があります。
2026年度の業務改善助成金は9月1日から受付が始まります。栃木県最低賃金が2026年10月1日に1,125円へ改定される場合、原則として9月30日までに申請と賃上げを行う必要があるため、検討期間は長くありません。
出典:厚生労働省「令和8年度業務改善助成金」
補助率・助成上限額が異なる
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金の補助率は2分の1で、上限額は200万円です。
例えば、税抜き300万円の設備投資が全額補助対象として認められた場合、補助額の目安は次のようになります。
300万円×2分の1=150万円
税抜き500万円の設備投資の場合は、2分の1が250万円となりますが、上限額が200万円であるため、補助額は最大200万円です。
業務改善助成金では、設備投資等にかかった費用へ助成率を掛けた金額と、各コースの助成上限額を比較し、低い方が支給されます。
2026年度の助成率は、引上げ前の事業場内最低賃金によって次のように分かれます。
引上げ前の事業場内最低賃金 助成率
1,050円未満 5分の4
1,050円以上 4分の3
栃木県の現行最低賃金は1,068円であるため、通常の栃木県内事業場は、原則として4分の3の区分を確認することになります。
業務改善助成金のコースは、賃金の引上げ額によって分かれています。
コース 事業場内最低賃金の引上げ額 助成上限額
50円コース 50円以上 30万~130万円
70円コース 70円以上 40万~300万円
90円コース 90円以上 90万~600万円
実際の上限額は、賃上げする労働者数と事業場の規模によって変わります。最大600万円を受け取るには、90円以上の賃上げ、一定数以上の対象労働者、特例事業者に関する要件などを満たす必要があります。
「最大600万円」という金額だけを見て申請を判断せず、自社がどのコース・人数区分に該当するかを確認しましょう。
対象経費の範囲が異なる
両制度とも、生産性向上につながる設備投資等を対象としています。
対象になり得る主な経費は次のとおりです。
・POSレジや自動釣銭機
・在庫・販売・顧客管理システム
・加工・包装・検査設備
・運搬や移動の負担を減らす設備
・業務フローを改善するコンサルティング
・作業時間や手作業を削減する機械・システム
ただし、「新しい設備だから」「業務で使うから」という理由だけでは対象になりません。現在の作業時間、導入後の作業時間、削減できる人数や工程などを示し、生産性向上との関係を説明する必要があります。
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金では、生産性向上だけでなく、次のような労働環境改善に関する設備投資も対象となる場合があります。
・キッズルームの設置
・事業所内の段差のスロープ化
・床の防滑加工
・従業員の身体的負担を軽減する設備
子育て中の従業員が働きやすい環境を整えたい、転倒防止やバリアフリー化を進めたいといった企業は、県の補助金を優先して確認するとよいでしょう。
一方、業務改善助成金は、生産性向上や労働能率の増進との関係が重視されます。物価高騰等要件を満たす特例事業者については、通常は対象外となるパソコン、スマートフォン、タブレット等の新規導入が認められる場合があります。
ただし、2026年度は、従来一部で対象となっていた一般的な自動車が対象外となっています。特殊用途自動車を除き、営業車や普通乗用車を購入したいという理由だけでは申請できません。
業務改善助成金は事業場ごとに申請する
とちぎ賃上げ加速・定着支援金が法人番号単位を基本とするのに対し、業務改善助成金は工場、店舗、事務所などの事業場単位で申請します。
例えば、同じ会社が宇都宮市と那須塩原市に店舗を持ち、それぞれに従業員がいる場合は、事業場内最低賃金と設備投資の内容を店舗ごとに確認します。
業務改善助成金で対象となる賃上げ対象者は、原則として次の条件を満たす従業員です。
・雇入れから6か月を経過している
・週の所定労働時間が20時間以上である
・雇用保険の被保険者である
・事業場内最低賃金または引上げ後に賃金が追い抜かれる水準にある
・選択したコース以上の賃上げを受ける
単純に「従業員が10人いるから10人区分になる」とは限りません。申請コース以上の賃上げを行い、制度上の数え方に該当する従業員数で上限額が決まります。
どちらを選ぶべきか
2制度の選び方を整理すると、次のようになります。
自社の状況 優先して確認する制度
すでに事業場内最低賃金を50円以上引き上げている とちぎ賃上げ環境整備促進補助金
これから賃上げと設備投資を行う 業務改善助成金
現在の事業場内最低賃金が1,068~1,124円 業務改善助成金
現在の事業場内最低賃金が地域別最低賃金より51円以上高い とちぎ賃上げ環境整備促進補助金
労働環境の改善設備を導入したい とちぎ賃上げ環境整備促進補助金
70円・90円以上の賃上げを予定している 業務改善助成金
高額な生産設備を導入したい 両制度の上限額・対象経費を比較する
複数の店舗・工場で申請したい 事業場単位の業務改善助成金を確認する
一部の賃金帯では、両方の制度について対象となる可能性があります。しかし、同じ設備や経費について、県の補助金と国の助成金を重複して受け取れるとは限りません。
制度を選ぶ前に、次の順番で確認しましょう。
①現在の事業場内最低賃金を計算する
②賃上げをすでに実施したか、これから実施するか確認する
③引き上げる金額と対象従業員数を決める
④導入する設備と業務改善効果を整理する
⑤補助率と自己負担額を計算する
⑥申請期限と設備の納期を確認する
⑦交付決定前に契約・発注しない
⑧併用の可否を各事務局へ確認する
賃上げ支援制度は、申請すればすぐに資金を受け取れる制度ではありません。設備代金をいったん自社で支払い、実績報告と審査を経た後に補助金・助成金が支給される場合があります。自己負担分だけでなく、支給までの資金繰りも確認しておく必要があります。
次章では、現在の賃金水準、賃上げの実施時期、設備投資の目的などから、自社に適した賃上げ支援制度を選ぶ方法と、複数制度を検討する際の注意点を解説します。
栃木県の賃上げ補助金を選ぶ方法
栃木県の賃上げ補助金を選ぶ方法
栃木県内の中小企業が利用できる賃上げ支援制度は、支援額の大きさだけでは選べません。
現在の事業場内最低賃金、賃上げを実施する時期、設備投資の有無、導入したい設備、申請期限などによって、対象となる制度が異なるためです。
また、補助金や助成金は、申請すればすぐに受け取れるとは限りません。設備代金を先に支払い、実績報告や審査を経てから支給される制度もあります。賃上げ後の人件費と社会保険料を継続して負担できるかも確認しなければなりません。
制度を選ぶ際は、次の5項目を順番に整理しましょう。
①現在の事業場内最低賃金
②賃上げをすでに実施したか、これから実施するか
③設備投資や労働環境改善を行うか
④申請期限と設備の導入時期
⑤補助金が支給されるまでの資金繰り
現在の事業場内最低賃金を計算する
事業場内最低賃金とは、工場、店舗、事務所などの事業場で働く従業員に支払っている、最も低い時間当たり賃金です。
時給制の従業員だけでなく、月給制や日給制の従業員も時間額へ換算して比較します。
賃金形態 基本的な換算方法
時給制 時間給をそのまま確認する
日給制 日給÷1日の所定労働時間
月給制 月給÷1か月平均所定労働時間
複数の賃金形態を併用 それぞれを時間額へ換算して合算する
最低賃金の計算では、賞与、時間外割増賃金、休日割増賃金、通勤手当、家族手当、精皆勤手当などを原則として含めません。
「月給が高いから対象外」と判断するのではなく、最低賃金の計算対象となる賃金だけを使い、時間額へ換算する必要があります。
複数の店舗や工場がある場合は、全社で一つの金額を出すのではなく、事業場ごとに計算しましょう。業務改善助成金は事業場単位で申請するため、事業場によって対象になるかどうかが分かれる場合があります。
賃上げをすでに実施したか確認する
賃上げを行った時期によって、優先して確認する制度が変わります。
賃上げの状況 優先して確認する制度
2026年4月1日以降に5%以上賃上げし、引上げ後の賃金を1か月以上支払っている とちぎ賃上げ加速・定着支援金
2025年10月1日以降に事業場内最低賃金を50円以上引き上げた とちぎ賃上げ環境整備促進補助金
これから事業場内最低賃金を50円・70円・90円以上引き上げる 業務改善助成金
賃上げを行う予定がない 原則として今回比較している3制度の対象外
とちぎ賃上げ加速・定着支援金は、申請前に5%以上の賃上げを実施し、引上げ後の賃金を1か月以上支払っていることが必要です。設備投資の有無にかかわらず申請できますが、男女間格差の是正に関する取り組みも求められます。
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金では、賃上げを申請前に実施していても対象となる可能性があります。ただし、引上げ前の事業場内最低賃金が、地域別最低賃金より51円以上高く1,500円以下であることなどが必要です。
一方、業務改善助成金は、これから賃上げと設備投資を行う企業向けの制度です。原則として、賃上げ計画と設備投資計画を作成して申請し、交付決定後に実施します。
賃上げの実施日と賃金の支給日は同じとは限りません。給与の締日や支給日も確認し、制度上必要となる支給実績をいつ証明できるか整理しておきましょう。
現在の賃金水準から候補を絞る
2026年9月30日までの栃木県最低賃金は、時間額1,068円です。2026年10月1日からは1,125円への引上げが予定されています。
これを前提にすると、賃金水準による制度の選び方は、次のように整理できます。
引上げ前の事業場内最低賃金 優先して確認する制度
1,068円以上1,124円以下 業務改善助成金
1,119円以上1,500円以下で、2026年9月30日までに賃上げする とちぎ賃上げ環境整備促進補助金
1,176円以上1,500円以下で、2026年10月1日以降に賃上げする とちぎ賃上げ環境整備促進補助金
賃金水準にかかわらず、5%以上の賃上げを行う とちぎ賃上げ加速・定着支援金の要件を確認する
賃金帯によっては、複数制度の対象となる可能性があります。
例えば、事業場内最低賃金が1,120円の企業が2026年9月中に50円引き上げる場合、とちぎ賃上げ環境整備促進補助金の賃金水準に該当する可能性があります。同時に、ほかの要件を満たせば、とちぎ賃上げ加速・定着支援金も検討できます。
ただし、50円の引上げが必ず5%以上になるとは限りません。1,120円を50円引き上げた場合の賃上げ率は、次のとおりです。
◆50円÷1,120円×100=約4.46%
この場合、50円以上という県補助金の要件は満たしても、5%以上を求める支援金の要件は満たしません。
複数制度を検討する場合は、「引上げ額」と「引上げ率」の両方を計算する必要があります。
設備投資を行うか確認する
設備投資を予定していない場合は、とちぎ賃上げ加速・定着支援金を優先して確認します。
設備投資を予定している場合は、導入目的によって、とちぎ賃上げ環境整備促進補助金と業務改善助成金を比較します。
実施したい取り組み 優先して確認する制度
賃上げだけを実施する とちぎ賃上げ加速・定着支援金
POSレジや自動釣銭機を導入する 県補助金・業務改善助成金
製造・検査・包装設備を導入する 県補助金・業務改善助成金
在庫管理や顧客管理システムを導入する 県補助金・業務改善助成金
作業動線や業務フローを改善する 県補助金・業務改善助成金
キッズスペースや女性用更衣室を整備する とちぎ賃上げ環境整備促進補助金
スロープや転倒防止設備を導入する とちぎ賃上げ環境整備促進補助金
高額な省力化設備を導入する 両制度の補助率と上限額を比較する
設備が補助対象になるかどうかは、製品名だけでは決まりません。
例えば、タブレット端末は、単なる買い替えや汎用的な使用を目的とする場合、原則として補助対象外です。一方、POSレジシステムと一体的に使用し、在庫管理時間を削減できる場合は、対象となる可能性があります。
設備導入前後の作業時間や処理件数を示し、どの業務がどれだけ改善するのか説明できるようにしましょう。
確認項目 記載例
現在の作業 売上データを毎日手入力している
現在の作業時間 1日2時間、月40時間
導入する設備 POSレジ・在庫管理システム
導入後の作業時間 1日30分、月10時間
削減できる時間 月30時間
削減後の時間の使い道 接客、営業、商品開発へ振り向ける
同等性能の設備への単純な更新は、生産性向上が認められず、補助対象外となる可能性があります。老朽化した設備を更新する場合も、処理能力、作業時間、安全性などがどのように改善するかを説明する必要があります。
出典:栃木県「とちぎ賃上げ環境整備促進補助金FAQ」
申請期限と事業スケジュールを確認する
制度の要件を満たしていても、期限までに必要な手続きを完了できなければ申請できません。
制度 2026年度の主な申請期間 申請前後の注意点
とちぎ賃上げ加速・定着支援金 2026年5月12日~2027年1月20日 5%以上の賃上げ後、1か月以上の支給実績が必要
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金 2026年5月18日~12月21日 原則として申請前の事前相談が必要
業務改善助成金 2026年9月1日から受付 交付決定前に計画を実行しない
いずれも、予算へ達した場合は期限前に受付が終了する可能性があります。
特に業務改善助成金を利用し、2026年度の地域別最低賃金改定に対応して賃上げする場合は、新しい最低賃金の発効日前日までに賃上げを完了しなければなりません。
栃木県最低賃金が2026年10月1日に1,125円へ引き上げられる場合、原則として9月30日までの対応が必要です。申請開始から賃上げ期限までの期間が短いため、見積書、就業規則、賃金台帳、設備投資計画などを早めに準備しましょう。
出典:厚生労働省「令和8年度業務改善助成金」
補助額ではなく自己負担額を計算する
設備投資型の制度を比較する際は、補助上限額だけでなく、自社が負担する金額を計算します。
例えば、税抜き400万円の設備が、すべて補助対象として認められる場合を考えます。
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金は補助率2分の1であるため、補助額の目安は200万円です。
◆400万円×2分の1=200万円
業務改善助成金で助成率4分の3が適用され、助成上限額が300万円以上であれば、助成額の目安は300万円です。
◆400万円×4分の3=300万円
この例では、業務改善助成金の方が自己負担額を抑えられます。しかし、実際の助成上限額は、賃上げ額、対象労働者数、事業場規模などによって変わります。
また、補助対象外となる費用、消費税、振込手数料、撤去費などは、自社負担になる場合があります。
設備代金をいったん全額支払った後に補助金が入金される場合もあるため、次の金額を確認しましょう。
・設備代金の総額
・補助対象となる金額
・補助・助成予定額
・最終的な自己負担額
・消費税や対象外経費
・賃上げによる年間人件費の増加額
・社会保険料の増加額
・補助金が入金されるまでに必要な運転資金
支援金や補助金は一時的な収入ですが、引き上げた賃金は原則として継続的に支払います。補助額が大きいという理由だけで、継続できない賃上げを行ってはいけません。
自社の状況に近いパターンから判断する
3制度の選び方を企業の状況別にまとめると、次のようになります。
自社の状況 最初に確認する制度 確認すべきこと
5%以上の賃上げをすでに行った 賃上げ加速・定着支援金 1か月以上の支給実績、男女間格差是正の取り組み
5%以上の賃上げを予定している 賃上げ加速・定着支援金 実施日、対象従業員、年間人件費
すでに50円以上賃上げし、設備を導入したい 賃上げ環境整備促進補助金 引上げ前の賃金水準、設備の対象可否
これから賃上げと設備投資を行う 業務改善助成金 申請期限、交付決定、賃上げ額・人数
女性やシニアが働きやすい職場へ改善したい 賃上げ環境整備促進補助金 労働環境改善との関係
70円・90円以上の賃上げを予定している 業務改善助成金 コース別上上限額、対象労働者数
設備投資を行わない 賃上げ加速・定着支援金 5%要件と男女間格差是正要件
複数の店舗・工場で設備を導入したい 業務改善助成金・県補助金 申請単位、全社上限、事業場ごとの賃金
制度を一つに絞れない場合は、各事務局へ同じ情報を伝えて相談します。
現在の事業場内最低賃金、賃上げ予定日、対象従業員数、導入設備、見積金額をそろえて相談すると、対象可否を確認しやすくなります。
栃木県の賃上げ補助金の併用可否と注意点
栃木県の賃上げ補助金の併用可否と注意点
複数の賃上げ支援制度を利用できれば、賃上げと設備投資による負担をさらに抑えられる可能性があります。
ただし、「同じ企業が複数制度を利用すること」と、「同じ従業員や設備費を複数制度へ重複して申請すること」は同じではありません。
併用を検討する際は、次の3つを分けて確認します。
確認する単位 主な確認内容
企業・事業場 同じ企業や事業場が複数制度を利用できるか
従業員 同じ従業員の賃上げを複数制度の対象にできるか
対象経費 同じ設備や請求書を複数制度へ申請できるか
賃上げ加速・定着支援金と業務改善助成金は併用できる
とちぎ賃上げ加速・定着支援金の公式FAQでは、業務改善助成金を利用している場合でも、本支援金を利用できるとされています。
両制度は支援する対象が異なります。
・賃上げ加速・定着支援金:5%以上賃上げした従業員数に応じて支給
・業務改善助成金:事業場内最低賃金の引上げと生産性向上設備への投資を支援
ただし、それぞれの制度要件を個別に満たす必要があります。
業務改善助成金で50円以上の賃上げを行っても、引上げ率が5%未満であれば、賃上げ加速・定着支援金の対象にはなりません。
また、賃上げ加速・定着支援金では、男女間格差是正に関する取り組みも必要です。業務改善助成金の交付決定を受けただけで、自動的に県支援金を受け取れるわけではありません。
出典:とちぎ賃上げ加速・定着支援金「よくあるご質問」
県の2制度も要件を満たせば併用できる
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金の公式FAQでは、両制度の要件を満たす場合、とちぎ賃上げ加速・定着支援金との併給が可能とされています。
例えば、次の条件を満たす企業は、両制度を検討できます。
・対象従業員を5%以上賃上げしている
・男女間格差是正の取り組みを行っている
・事業場内最低賃金を50円以上引き上げている
・引上げ前の事業場内最低賃金が所定の範囲にある
・生産性向上または労働環境改善につながる設備投資を行う
ただし、ほかの助成金と支援目的が重複すると判断された場合は、併給調整の対象となることがあります。
併用可能と記載されていても、申請内容、対象従業員、対象設備によって取り扱いが変わる可能性があるため、事前相談の際に利用予定の制度をすべて伝えましょう。
出典:栃木県「とちぎ賃上げ環境整備促進補助金FAQ」
同じ設備費の重複申請は避ける
複数の設備投資型補助金を利用する場合、同じ設備や同じ経費を重複して申請することは避けなければなりません。
例えば、税抜き300万円の自動包装機について、次のように全額を両制度へ申請することは認められない可能性が高いと考えられます。
・とちぎ賃上げ環境整備促進補助金へ300万円を申請
・業務改善助成金へ同じ300万円を申請
同じ請求書や設備について、実際の支出額を超える補助を受けることはできません。
異なる設備や経費を制度ごとに分ける場合でも、自己判断で進めず、双方の事務局へ確認します。
例えば、次のような分け方を検討する場合です。
制度 申請を検討する経費
業務改善助成金 製造工程を自動化する加工設備
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金 従業員の身体的負担を減らす運搬設備
デジタル化・AI導入補助金 在庫・受発注管理システム
経費を分けても、設備同士が一体の事業として扱われる場合や、補助目的が重複すると判断される場合があります。
事務局へ相談する際は、口頭の回答だけでなく、メールなどで相談内容と回答を残しておくと、申請時の認識違いを防ぎやすくなります。
キャリアアップ助成金との重複に注意する
2026年度のとちぎ賃上げ加速・定着支援金では、キャリアアップ助成金「賃金規定等改定コース」の適用を受けた、または受ける見込みの従業員は、支援金の対象から除外されます。
会社がキャリアアップ助成金を利用しているだけで、必ず県支援金を申請できなくなるわけではありません。重要なのは、同じ従業員がどの制度の対象になっているかです。
例えば、次のように従業員を分けて管理します。
従業員 利用する制度 県支援金の対象
Aさん キャリアアップ助成金の対象 原則として対象外
Bさん キャリアアップ助成金を利用しない ほかの要件を満たせば対象となる可能性
Cさん 業務改善助成金による賃上げ対象 5%要件等を満たせば対象となる可能性
申請対象者を誤ると、支給後に返還を求められる可能性があります。従業員ごとに、利用した助成金、賃上げ日、引上げ前後の賃金を管理しましょう。
出典:とちぎ賃上げ加速・定着支援金「申請要領」
交付決定前の契約・納品・支払いに注意する
設備投資型の補助金では、「申請した日」と「交付決定日」は異なります。
申請書を提出しただけでは、補助金の交付は確定していません。
特に業務改善助成金では、原則として交付決定前に設備の発注、契約、納品、支払いを行うと、助成対象外になる可能性があります。
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金では、申請後であれば交付決定前の発注自体は差し支えないとFAQに記載されています。しかし、納品や正式な購入契約は交付決定後に行う必要があります。
制度によって「発注」「契約」「納品」「支払い」の扱いが異なるため、次のように分けて確認しましょう。
手続き 確認すること
見積もり 申請前に取得してよいか、相見積もりが必要か
発注 交付決定前でも認められるか
契約 契約締結が認められる時期
納品 交付決定後である必要があるか
支払い 認められる支払方法と期限
稼働開始 事業実施期間内である必要があるか
販売会社から「先に注文しないと納期に間に合わない」と言われても、事務局へ確認せず契約を進めてはいけません。
設備が対象外になれば、購入費用の全額を自社で負担することになります。
賃金規程と就業規則を改定する
事業場内最低賃金を引き上げる場合は、賃金台帳だけを変更するのではなく、就業規則や賃金規程へ反映させる必要があります。
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金では、設定した事業場内最低賃金を、その事業場で働くすべての従業員へ適用しなければなりません。
正社員用とパート用で就業規則が分かれている場合は、すべての規則を改定するか、いずれかの規則に全従業員へ適用する旨を記載します。
常時10人未満の事業場で就業規則を作成していない場合でも、賃上げ後の事業場内最低賃金、賃上げ日、作成者などを記載した書面と、労働者代表の意見書が必要になる場合があります。
規程を変更した後は、従業員への周知も行いましょう。
併用する制度と対象経費を一覧で管理する
複数制度を利用する場合は、従業員と設備の両方について管理表を作成します。
管理項目 記録する内容
対象従業員 氏名、雇用形態、勤務地、雇入れ日
賃上げ 実施日、引上げ前後の時間額、引上げ率
利用制度 支援金・補助金・助成金の名称
設備 製品名、型式、導入目的
対象経費 見積額、申請額、自己負担額
証拠書類 見積書、契約書、請求書、振込記録
スケジュール 申請日、交付決定日、納品日、支払日
相談記録 相談先、相談日、回答内容
複数の担当者が別々に申請を進めると、同じ従業員や設備を重複して申請するおそれがあります。申請窓口を社内で一本化し、利用予定の制度を一覧にすることが重要です。
制度を併用する前には、少なくとも次の項目を確認しましょう。
・同じ企業・事業場で利用できるか
・同じ従業員を対象にできるか
・同じ設備や経費を申請していないか
・補助目的が重複していないか
・交付決定前に契約や納品をしていないか
・各制度の申請書へ他制度の利用状況を記載したか
・賃上げ後の人件費を継続して負担できるか
・事務局から併用可能との確認を得ているか
補助金の併用可否は、制度名だけで一律に判断できません。対象従業員、設備、経費、事業目的を具体的に伝え、各事務局へ確認する必要があります。
次章では、賃上げ補助金の申請に必要となる書類、申請から支給までの流れ、不採択や対象外を防ぐための注意点を具体的に解説します。
栃木県の賃上げ補助金の申請手順
栃木県の賃上げ補助金の申請手順
賃上げ補助金を受け取るには、制度の要件を満たすだけでなく、決められた順番で手続きを行い、賃上げや設備投資の実績を証明する必要があります。
特に設備投資を伴う制度では、交付決定前に設備を契約、納品、支払いすると、補助対象外になる場合があります。一方、とちぎ賃上げ加速・定着支援金は、賃上げを実施し、引上げ後の賃金を支払ってから申請する制度です。
申請の順番は制度によって異なるため、まずは次の違いを理解しておきましょう。
制度 賃上げの時期 設備投資の時期 主な申請方法
とちぎ賃上げ加速・定着支援金 申請前に実施する 設備投資は不要 WEB・郵送
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金 申請前の実施も可能 原則として交付決定後に正式契約・納品・支払い 電子申請・郵送
業務改善助成金 交付申請後、期限までに実施する 交付決定後に実施する 栃木労働局へ提出
栃木県の賃上げ補助金の必要書類と申請方法
申請準備では、最初から申請書へ記入するのではなく、自社が対象となるか確認するための資料をそろえます。
主に確認する資料は次のとおりです。
・会社概要と法人番号
・履歴事項全部証明書
・就業規則と賃金規程
・労働者名簿
・雇用契約書または労働条件通知書
・賃金台帳
・出勤簿やタイムカード
・雇用保険の加入状況
・設備の見積書と仕様書
・県税や労働保険料の納付状況
・利用中または申請予定の補助金・助成金
書類によって従業員数、賃金、雇入れ日、事業場名などが異なると、確認や修正に時間がかかります。申請書を作成する前に、書類間の整合性を確認しましょう。
最初に事業場内最低賃金を計算する
賃上げ環境整備促進補助金と業務改善助成金では、事業場内最低賃金が対象可否を判断する重要な基準になります。
従業員ごとに次の内容を一覧にします。
確認項目 記載する内容
氏名 賃金台帳等と同じ表記
勤務する事業場 店舗、工場、事務所など
雇用形態 正社員、パート、契約社員等
雇入れ日 6か月以上の雇用要件を確認
週所定労働時間 雇用契約書等から確認
賃金形態 時給、日給、月給
現在の時間額 最低賃金の計算方法で換算
賃上げ後の時間額 計画する引上げ後の金額
引上げ額・引上げ率 制度要件と比較
雇用保険 被保険者番号と加入状況
月給制の場合は、基本給を単純に月の出勤日数で割るのではなく、1か月平均所定労働時間を使用します。
年間所定労働日数が240日、1日の所定労働時間が8時間の場合、1か月平均所定労働時間は次のように計算します。
◆240日×8時間÷12か月=160時間
最低賃金の計算対象となる月給が19万2,000円であれば、時間額は次のとおりです。
◆19万2,000円÷160時間=1,200円
計算に含められない通勤手当、家族手当、時間外割増賃金などを加えると、誤った時間額になります。賃金規程と賃金台帳の内訳を確認して計算しましょう。
賃上げ後の年間人件費を試算する
補助金の申請前には、賃上げによって増える年間人件費を計算します。
例えば、週40時間勤務の従業員5人について、時間額を60円引き上げる場合、単純計算による年間の賃金増加額は次のとおりです。
◆60円×週40時間×52週×5人=62万4,000円
実際には、賃金の増加に伴って次の費用も変わる可能性があります。
・時間外労働の割増賃金
・休日・深夜労働の割増賃金
・賞与
・会社負担分の社会保険料
・雇用保険料
・退職金の算定額
とちぎ賃上げ加速・定着支援金で5人分の支給を受ける場合、支援額は27万5,000円です。支援金だけで人件費の増加分をすべて賄えるわけではありません。
賃上げ後も利益と資金繰りを維持できるか、少なくとも1年間の損益計画と資金繰り表で確認しましょう。
設備導入前後の業務を数値で整理する
設備投資型の補助金では、設備を購入すること自体ではなく、設備によって生産性や労働能率がどのように向上するかが確認されます。
事業計画には、次のような内容を記載します。
項目 整理する内容
現在の課題 時間がかかる作業、身体的負担、ミス等
現在の方法 人数、手順、作業時間、処理件数
導入設備 製品名、型式、主な機能
導入後の方法 変更後の手順、必要人数、作業時間
改善効果 削減時間、生産量、処理件数、不良率
削減時間の活用 営業、接客、教育、新商品開発等
賃上げとの関係 生産性向上により賃上げを継続する方法
例えば、「POSレジを導入して業務を効率化する」だけでは、効果が分かりません。
次のように数値を含めて説明します。
◆現在は、閉店後に売上と在庫を手作業で集計しており、2人で1日合計90分を要している。POSレジと在庫管理システムの導入により、集計時間を1日30分へ短縮し、月間約40時間を削減する。削減した時間は接客と売場改善へ振り向け、売上と付加価値の向上につなげる。
設備のカタログに書かれた一般的な効果ではなく、自社の現在の作業と比較して説明することが重要です。
見積書と設備の仕様を確認する
設備投資を申請する場合は、見積書の金額だけでなく、次の内容を確認します。
・宛名が申請事業者名になっているか
・製品名と型式が記載されているか
・本体価格と付属品の金額が分かれているか
・設置費、運搬費、設定費等の内訳が分かるか
・消費税が区分されているか
・見積書の有効期限が切れていないか
・導入する事業場が分かるか
・納期が事業実施期間に間に合うか
・中古品の場合に必要な相見積もりを取得しているか
「機械一式300万円」のように内訳が分からない見積書では、どの費用が補助対象になるか判断できません。
設備本体、付属品、設置工事、既存設備の撤去・処分などに分けて記載してもらいましょう。撤去費や処分費など、制度上の対象外経費が含まれている場合は、申請額から除外します。
見積書と申請書に記載する製品名、型式、金額が一致していることも確認してください。
とちぎ賃上げ加速・定着支援金を申請する
とちぎ賃上げ加速・定着支援金は、次の順番で進めます。
①対象従業員と引上げ前の時間額を確認する
②2026年4月1日以降に5%以上賃上げする
③引上げ後の賃金を1か月以上支払う
④男女間格差是正の取り組みを実施する
⑤申請書と証明書類を準備する
⑥WEBまたは郵送で申請する
⑦事務局の審査や追加確認に対応する
⑧支給決定後、指定口座で支援金を受け取る
主な申請書類は次のとおりです。
書類 主な確認内容
支給申請書(様式1) 事業者情報、支給申請額等
賃上げ実施従業員一覧(様式2) 対象者、賃上げ前後の時間額等
履歴事項全部証明書等 事業者の所在地、法人情報
労働条件通知書・雇用契約書 雇用期間、労働時間、賃金
賃金台帳 賃上げ前後の支給実績
男女間格差是正の証明書類 選択した取り組みの実施状況
通帳の写し 振込先口座
その他事務局が求める書類 申請内容に応じて提出
男女間格差是正の証明書類は、選択した取り組みによって異なります。
・女性管理職比率:男女別の従業員数・管理職数が分かる資料
・非正規雇用からの転換:男女別の転換実績が分かる資料
・短時間勤務制度:制度を定めた就業規則
・女性活躍推進法に基づく情報公表:公表画面を印刷した資料等
短時間勤務を個別に認めているだけでは、社内制度として導入した証明にならない可能性があります。就業規則への規定と従業員への周知まで行いましょう。
WEB申請では、添付できるファイル形式や容量に制限があります。書類をスキャンする際は、文字が読めること、ページの欠落がないこと、上下が逆になっていないことを確認してください。
郵送の場合は、追跡できる簡易書留やレターパック等を使用し、提出書類一式の控えを保管します。
出典:とちぎ賃上げ加速・定着支援金「申請方法」
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金を申請する
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金は、申請前の事前相談が原則です。
基本的な手順は次のとおりです。
①事業場内最低賃金を計算する
②賃上げ額と対象従業員を決める
③導入設備と改善効果を整理する
④見積書や設備資料を取得する
⑤所定様式を使ってメールで事前相談する
⑥交付申請書類を提出する
⑦交付決定を受ける
⑧設備を正式に契約し、納品・支払いを完了する
⑨引上げ後の賃金を支払う
⑩実績報告書を提出する
⑪補助額の確定後に交付請求する
⑫補助金を受け取る
⑬所定の時期に状況報告を行う
交付申請時の主な書類は次のとおりです。
・交付申請書
・事業計画書
・収支予算書
・誓約書
・補助対象事業に関する見積書
・県税に未納がないことを証明する書類
・履歴事項全部証明書
・賃上げ対象者の賃金台帳等
・事業場内最低賃金を定めた就業規則等
電子申請の場合は、添付書類をPDF形式へ変換して提出します。郵送の場合は、当日消印有効ですが、追跡できる方法で送付する必要があります。
事業完了後の実績報告では、主に次の書類を提出します。
・実績報告書
・事業完了報告書
・収支決算書
・契約書
・納品書
・請求書
・領収書または振込記録
・導入設備の写真
・賃上げ後の賃金台帳
・改定後の就業規則等
設備の写真は、製品全体だけでなく、型式や製造番号が確認できる部分も撮影しておくと、導入した設備を証明しやすくなります。
本補助金では、現金払いの場合は領収書、振り込みの場合は申請者名義の銀行口座から支払った記録が必要です。クレジットカード、小切手、手形による支払いは認められていません。
出典:栃木県「とちぎ賃上げ環境整備促進補助金」
業務改善助成金を申請する
業務改善助成金は、賃上げと設備投資の計画を申請し、栃木労働局の交付決定を受けてから設備投資を実施します。
基本的な手順は次のとおりです。
①事業場内最低賃金を計算する
②50円・70円・90円の申請コースを選ぶ
③引上げ対象となる従業員数を確認する
④生産性向上設備と改善効果を整理する
⑤見積書等を取得する
⑥交付申請書と事業実施計画書を提出する
⑦栃木労働局の審査を受ける
⑧交付決定後に設備を発注・契約する
⑨設備の納品と支払いを完了する
⑩計画した賃上げを実施する
⑪事業実績報告書と支給申請書を提出する
⑫交付額の確定後に助成金を受け取る
⑬所定の期限までに状況報告を行う
申請時には、主に次の書類を準備します。
・交付申請書(様式第1号)
・国庫補助金所要額調書
・事業実施計画書
・設備等の見積書
・対象従業員の賃金台帳
・事業場全体の従業員と時間額が分かる資料
・就業規則または事業場内最低賃金を定める書面
・特例事業者に該当する場合の証明書類
・その他、栃木労働局が求める書類
事業実施計画では、賃上げする従業員だけでなく、事業場の従業員数や賃金額を正確に記載します。
賃上げ日と、就業規則に定めた新しい事業場内最低賃金の適用日も一致させる必要があります。
事業完了とは、次のすべてを終えた状態です。
・設備の納品
・設備代金の支払い
・事業場内最低賃金の引上げ
いずれか一つが終わっていない場合は、原則として事業完了にはなりません。
事業完了後は、完了日から1か月を経過する日または翌会計年度の4月10日のいずれか早い日までに、事業実績報告書と支給申請書を提出します。
出典:厚生労働省「業務改善助成金 交付申請書等の書き方と留意事項」
申請から入金までの進捗を管理する
補助金は、申請書を提出して終わりではありません。制度ごとに進捗管理表を作成しましょう。
管理項目 記録する内容
事前相談 相談日、相談先、回答内容
申請 提出日、提出方法、受付番号
審査 追加書類、修正内容、回答期限
交付決定 決定日、交付予定額
賃上げ 適用日、初回支給日
設備投資 契約日、納品日、支払日
実績報告 提出期限、提出日
額の確定 確定日、確定額
入金 入金予定日、入金日
状況報告 対象期間、提出期限
事務局から追加書類や修正を求められた場合は、回答期限を確認します。担当者が不在でも対応できるように、申請書類と事務局との連絡記録を社内で共有しておきましょう。
栃木県の賃上げ補助金で不交付を防ぐ注意点
交付決定前に設備を契約・納品しない
業務改善助成金では、交付決定前に設備の発注、契約、納品、支払いを行うと、原則として助成対象になりません。
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金では、申請後であれば交付決定前の発注自体は認められていますが、正式な購入契約と納品は交付決定後に行う必要があります。
制度によって扱いが異なるため、設備販売会社へは次のように伝えておきましょう。
◆補助金の交付決定後に正式契約と納品を行う予定です。交付決定前に契約が成立する書類や注文処理を行わないでください。
注文書、申込書、内金の支払いなどが契約と判断される場合もあります。交付決定前にどこまで進められるか、必ず事務局へ確認してください。
申請前に賃上げしてよい制度か確認する
賃上げを行う順番も制度によって異なります。
とちぎ賃上げ加速・定着支援金は、申請前に賃上げと1か月以上の支払いが必要です。
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金は、2025年10月1日以降の賃上げであれば、申請前に実施した賃上げも対象となる可能性があります。
業務改善助成金は、交付申請後に賃上げを実施します。地域別最低賃金の改定に対応して賃上げする場合は、新しい最低賃金の発効日前日までに賃上げを完了しなければなりません。
複数制度を検討している場合は、どの制度の基準日を満たす必要があるかを整理してから賃上げ日を決めましょう。
賃上げ額と賃上げ率を混同しない
各制度では、賃上げ要件の表し方が異なります。
制度 主な賃上げ要件
賃上げ加速・定着支援金 5%以上
賃上げ環境整備促進補助金 50円以上
業務改善助成金 50円・70円・90円以上
例えば、時間額1,300円の従業員を60円引き上げても、賃上げ率は約4.62%です。
◆60円÷1,300円×100=約4.62%
50円以上の要件は満たしても、5%以上の要件は満たしません。
複数制度を利用する場合は、対象従業員ごとに引上げ額と引上げ率の両方を計算しましょう。
事業場内最低賃金の対象者を誤らない
事業場内最低賃金は、経営者が賃上げ対象として選んだ従業員の中で最も低い賃金ではありません。原則として、その事業場で働く対象従業員の中で最も低い時間額を確認します。
次のような従業員も含めて確認が必要です。
・パートタイマー
・アルバイト
・契約社員
・試用期間中の従業員
・月給制の正社員
・賃金形態が異なる従業員
一部の従業員を計算から外した結果、実際の事業場内最低賃金が申請額より低かった場合は、制度の対象外になる可能性があります。
一方、雇入れ後の期間、週所定労働時間、雇用保険の加入状況によって、助成上限額を決める「引上げ労働者数」には含まれない人もいます。
「事業場内最低賃金を確認する対象」と「助成上限額の人数へ算入する対象」を分けて確認しましょう。
単純な設備更新として申請しない
老朽化や故障を理由に、同等性能の設備へ交換するだけでは、生産性向上のための投資と認められない可能性があります。
設備更新を申請する場合は、既存設備との違いを整理します。
・処理能力
・作業時間
・必要人数
・段取り替え時間
・不良率
・消費電力
・安全性
・身体的負担
・データ連携機能
「古くなったため交換する」ではなく、更新によって業務がどのように改善するかを説明しましょう。
申請内容を無断で変更しない
交付決定後に、次のような変更が生じる場合があります。
・導入する機種を変更する
・購入先を変更する
・金額が増減する
・設備の台数を変更する
・納品が遅れる
・賃上げ日を変更する
・設備投資の一部を中止する
軽微に見える変更でも、事前の変更承認が必要な場合があります。
交付決定を受けた機種より安い機種へ変更したから問題ないと自己判断すると、変更後の設備が補助対象として認められない可能性があります。
変更が分かった時点で、発注や契約を進める前に事務局へ連絡しましょう。
申請者以外の名義で支払わない
見積書、契約書、請求書、領収書、振込名義は、原則として申請者名義へ統一します。
法人が申請しているにもかかわらず、代表者個人のクレジットカードや個人口座で支払うと、法人が負担した経費であることを確認できない場合があります。
複数の事業を経営している場合も、申請事業者と支払者を一致させましょう。
振込手数料を取引先負担として請求額から差し引いた場合、実際の支払額と請求額が一致しなくなることもあります。振込方法についても申請前に確認が必要です。
実績報告用の証拠を導入時から保存する
実績報告の時点で初めて資料を集めると、必要な証拠が残っていない可能性があります。
設備の納品時から、次の資料を保存しましょう。
・契約書
・注文書
・納品書
・請求書
・領収書
・銀行の振込記録
・導入前の現場写真
・設備全体の写真
・型式・製造番号の写真
・設置場所が分かる写真
・稼働中の写真
・導入後の作業時間等の測定記録
・賃上げ前後の賃金台帳
・改定した就業規則
設備を梱包から出した段階や設置工事中の写真も残しておくと、導入経過を説明しやすくなります。
実績報告と状況報告の期限を忘れない
補助金・助成金は、事業を完了しただけでは支給されません。
業務改善助成金では、設備の納品、支払い、賃上げのすべてが終わった日から1か月を経過する日、または翌会計年度の4月10日のいずれか早い日までに、実績報告と支給申請を行います。
支給後にも、賃金の支払い状況や解雇等の有無を確認する状況報告が必要です。
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金でも、実績報告、交付請求、支給後の状況報告が必要になります。
社内カレンダーへ次の期限を登録しておきましょう。
・交付申請期限
・賃上げ期限
・事業完了期限
・実績報告期限
・交付請求期限
・状況報告期限
・消費税仕入控除税額の報告期限
補助金の入金を前提に設備代金を準備しない
設備投資型の制度は、設備代金を支払った後に補助金・助成金が入金される精算払いが基本です。
補助対象経費が400万円、補助予定額が200万円であっても、設備会社へは先に400万円を支払う必要があります。
また、審査の結果によっては、次の理由で交付額が減る可能性があります。
・一部の経費が対象外となった
・見積額より実際の購入額が下がった
・計画した設備の一部を導入しなかった
・消費税が補助対象から除外された
・計画変更の承認を受けていなかった
・証拠書類で支出を確認できなかった
補助金の入金が遅れても資金不足にならないように、自己資金、金融機関からの借入れ、支払条件などを事前に確認しておきましょう。
申請前の最終確認項目は次のとおりです。
・自社と事業場が対象者の要件を満たしている
・事業場内最低賃金を正しく計算している
・賃上げ額と賃上げ率を確認している
・対象従業員数の数え方を確認している
・賃上げ後の年間人件費を試算している
・設備投資の効果を数値で説明できる
・見積書と申請書の製品名・型式・金額が一致している
・交付決定前に禁止された契約や納品を行っていない
・ほかの補助金との重複を確認している
・設備代金を立て替える資金を確保している
・実績報告と状況報告の期限を確認している
・申請書類一式の控えを保管している
賃上げ補助金の申請では、書類作成の前に、賃金計算、賃上げの継続可能性、設備による改善効果を整理することが重要です。
次章では、栃木県内の中小企業が賃上げ補助金について相談できる窓口と、相談時に準備しておきたい資料を解説します。
栃木県の賃上げ補助金の相談先
栃木県の賃上げ補助金の相談先
賃上げ補助金は、制度ごとに実施主体と問い合わせ先が異なります。
とちぎ賃上げ加速・定着支援金について業務改善助成金の窓口へ相談しても、個別の対象可否までは判断してもらえません。反対に、設備投資の効果や賃上げ後の資金繰りについては、補助金事務局では十分に相談できない場合があります。
相談内容に応じて、制度の事務局、労務の専門家、経営支援機関、金融機関などを使い分けることが重要です。
相談したい内容 主な相談先
支援金の対象者・5%要件 とちぎ賃上げ加速・定着支援金事務局
県補助金の対象設備・事前相談 栃木県労働政策課
業務改善助成金の制度・申請方法 業務改善助成金コールセンター・栃木労働局
最低賃金の計算・就業規則 栃木働き方改革推進支援センター・社会保険労務士
設備投資計画・生産性向上 栃木県よろず支援拠点・中小企業診断士
賃上げ後の税務処理 税理士・税務署
設備代金の資金調達金 融機関・信用保証協会
地域での経営相談 商工会・商工会議所
とちぎ賃上げ加速・定着支援金事務局
とちぎ賃上げ加速・定着支援金については、専用事務局へ相談できます。
項目 内容
相談先 とちぎ賃上げ加速・定着支援金事務局
電話番号 028-666-7111
受付時間 平日9時~17時
主な相談内容 対象事業者、対象従業員、5%要件、必要書類、申請方法
次のような疑問がある場合に相談するとよいでしょう。
・月給制の従業員が5%以上の賃上げになるか
・複数回の賃上げを合算できるか
・雇用保険へ加入していない従業員が対象になるか
・複数の店舗で働く従業員を申請できるか
・どの男女間格差是正の取り組みを選べるか
・キャリアアップ助成金との重複に当たらないか
・賃金台帳をどの期間分提出するか
電話だけで対象になると判断せず、申請要領やFAQの該当箇所も確認してください。
対象従業員が複数いる場合は、氏名を出さなくても、雇用形態、勤務時間、雇入れ日、賃上げ前後の時間額などを一覧にしておくと、相談が具体的になります。
出典:令和8年度とちぎ賃上げ加速・定着支援金公式サイト
栃木県労働政策課
とちぎ賃上げ環境整備促進補助金については、栃木県労働政策課が問い合わせと申請前の事前相談に対応しています。
項目 内容
相談先 栃木県産業労働観光部労働政策課
電話番号 028-623-3536
メール rousei@pref.tochigi.lg.jp
受付時間 平日9時~17時
主な相談内容 賃金要件、対象設備、対象経費、併給、申請手順
本補助金では、所定の事前相談様式をメールで提出することが原則です。
事前相談では、主に次の内容を伝えます。
・会社と事業場の概要
・現在の事業場内最低賃金
・賃上げ前後の時間額
・賃上げの実施日
・賃上げ対象となる従業員数
・導入する設備の名称と金額
・現在の業務上の課題
・設備導入による改善効果
・利用中または申請予定のほかの補助金
設備の対象可否は、製品名だけでは判断できません。
例えば、「自動釣銭機は対象になりますか」と質問するだけでなく、現在の会計作業に要する時間、導入後に削減できる時間、削減した時間の活用方法まで伝えましょう。
また、事前相談の回答は、交付決定を保証するものではありません。正式な申請書と添付書類、予算の状況などを含めて最終的に判断されます。
出典:栃木県「とちぎ賃上げ環境整備促進補助金」
業務改善助成金コールセンター・栃木労働局
業務改善助成金の制度内容や申請書の作成方法については、業務改善助成金コールセンターへ相談できます。
項目 内容
相談先 業務改善助成金コールセンター
電話番号 0120-366-440
受付時間 平日9時~17時
主な相談内容 対象要件、申請コース、対象経費、申請書の記載方法
個別の申請書は、事業場の所在地を管轄する都道府県労働局へ提出します。栃木県内の事業場については、栃木労働局が申請先です。
相談時には、次の内容を事業場ごとに整理しましょう。
・現在の事業場内最低賃金
・2026年度の地域別最低賃金
・引き上げる金額
・引上げ対象となる従業員数
・各従業員の雇入れ日
・週所定労働時間
・雇用保険の加入状況
・導入予定設備
・見積金額と納期
・賃上げ予定日
・設備投資の完了予定日
複数の店舗や工場がある場合は、全社合計ではなく、申請する事業場ごとに確認します。
なお、業務改善助成金では、交付決定前に設備を発注、契約、納品すると、原則として助成対象外になります。設備会社との契約を急いでいる場合も、先にコールセンターや栃木労働局へ確認してください。
出典:厚生労働省「令和8年度業務改善助成金」
栃木働き方改革推進支援センター
賃金の時間額換算、就業規則の変更、労働条件通知書、助成金などの労務管理については、栃木働き方改革推進支援センターへ無料で相談できます。
項目 内容
相談先 栃木働き方改革推進支援センター
電話番号 0120-800-590
メール tochigi@workstylereform.net
受付時間 平日9時~17時
主な相談内容 賃金規程、就業規則、労働時間、労務管理、労働関係助成金
同センターは厚生労働省の委託事業で、社会保険労務士等の専門家による電話、メール、来所、訪問相談に対応しています。
例えば、次のような相談に適しています。
・月給を時間額へ正しく換算したい
・最低賃金の計算に含める手当を確認したい
・事業場内最低賃金を就業規則へ規定したい
・正社員用とパート用の就業規則を変更したい
・賃上げ日と給与支給日の関係を確認したい
・賃上げによる社会保険料の増加を把握したい
・キャリアアップ助成金等も比較したい
補助金の申請要件だけでなく、賃金変更に必要な労務上の手続きまで確認することが重要です。
出典:厚生労働省「栃木働き方改革推進支援センター」
栃木県よろず支援拠点
賃上げ後の利益確保、価格転嫁、生産性向上、設備投資計画、資金繰りなどは、栃木県よろず支援拠点へ相談できます。
項目 内容
相談先 栃木県よろず支援拠点
電話番号 028-670-2618
受付時間 平日9時~17時
主な相談内容 経営改善、資金繰り、価格転嫁、補助金活用、生産性向上
補助金事務局は、制度の対象可否や申請方法を確認する窓口です。一方、よろず支援拠点では、賃上げを継続するための経営面について相談できます。
例えば、次のような課題です。
・賃上げ後に利益を確保できるか分からない
・価格転嫁をどのように進めればよいか
・どの業務へ設備を導入すべきか分からない
・設備導入による削減時間を計算できない
・複数の設備から優先順位を決めたい
・補助金を受け取るまでの資金繰りが不安
・事業計画をどのようにまとめればよいか
相談を受けたからといって、補助金の採択や交付が保証されるわけではありません。また、申請書の作成代行ではなく、経営課題や事業計画の整理に関する助言が中心となります。
出典:栃木県よろず支援拠点
商工会・商工会議所
地域の商工会や商工会議所でも、経営、資金繰り、補助金、労務などに関する相談を受けられる場合があります。
自社の所在地を管轄する商工会・商工会議所へ相談すると、次のような支援につながる可能性があります。
・補助金・助成金の情報提供
・経営計画や資金繰りの相談
・専門家派遣
・設備資金に関する相談
・セミナーや個別相談会
・日本政策金融公庫などの融資制度
・地域金融機関や支援機関の紹介
ただし、すべての窓口が業務改善助成金などの労働関係助成金の申請支援に対応しているとは限りません。
相談予約の際に、制度名、申請期限、相談したい内容を伝えておきましょう。
出典:栃木県商工会連合会
社会保険労務士・税理士・中小企業診断士
専門家へ相談する場合は、相談内容に応じて選ぶ必要があります。
専門家 主な相談内容
社会保険労務士 就業規則、賃金規程、最低賃金、社会保険、労働関係助成金
税理士 賃上げ促進税制、補助金の会計処理、消費税、税額控除
中小企業診断士 経営計画、設備投資効果、生産性向上、資金繰り、補助金活用
金融機関 設備資金、運転資金、補助金入金までのつなぎ資金
補助金の申請支援を依頼する場合は、報酬だけでなく、次の内容を確認しましょう。
・その制度の支援実績があるか
・どこまで支援してもらえるか
・申請後の修正や追加資料へ対応するか
・実績報告と状況報告も支援対象か
・不交付の場合の報酬はどうなるか
・申請内容の最終確認を誰が行うか
申請書の作成を外部へ任せても、賃上げの実施、設備の選定、証拠書類の保存、報告義務を負うのは申請事業者です。制度の内容を理解せずに、申請を丸投げすることは避けましょう。
栃木県の賃上げ補助金を相談する前に準備する資料
会社と事業場の基本情報を整理する
最初に、次の情報をA4用紙1枚程度にまとめます。
・会社名または屋号
・法人番号
・本社所在地
・申請する事業場の所在地
・業種
・資本金
・全社の従業員数
・申請事業場の従業員数
・雇用保険適用事業所番号
・主な商品・サービス
・直近の売上高と営業利益
・利用予定の制度名
複数の店舗や工場がある場合は、従業員数や賃金を事業場ごとに分けます。
業務改善助成金は事業場単位で申請するため、本社の情報だけを準備しても、対象可否を判断できません。
従業員別の賃金一覧を作成する
相談時に最も重要となるのが、従業員別の賃金情報です。
項目 記載内容
従業員 氏名または管理番号
勤務地 店舗・工場・事務所
雇用形態 正社員・パート等
雇入れ日 雇用期間の確認
週所定労働時間 20時間以上か確認
賃金形態 時給・日給・月給
基本給 現在の金額
各種手当 手当名と金額
時間換算額 最低賃金の計算方法で算出
賃上げ後の金額 計画または実績
引上げ額 時間当たりの増加額
引上げ率 引上げ前と比較した割合
雇用保険 加入状況
相談段階では、従業員名を伏せて、Aさん、Bさんなどの表記でも構いません。
ただし、申請時には賃金台帳、労働条件通知書、雇用契約書などと一致させる必要があります。
賃金の時間額が正しいか不安な場合は、自己判断せず、栃木働き方改革推進支援センターや社会保険労務士へ確認しましょう。
賃上げの実施日と支給日を整理する
賃上げをすでに実施している場合は、次の日付を確認します。
・賃上げを適用した日
・給与の締日
・引上げ後の最初の給与支給日
・就業規則の改定日
・改定後の就業規則の施行日
・従業員へ周知した日
これから賃上げする場合は、予定日を記載します。
確認項目 日付
交付申請予定日 2026年○月○日
賃上げ実施予定日 2026年○月○日
就業規則施行日 2026年○月○日
最初の給与支給日 2026年○月○日
設備の発注予定日 2026年○月○日
設備の納品予定日 2026年○月○日
設備代金の支払予定日 2026年○月○日
日付を一覧にすると、制度上の順番に問題がないか確認しやすくなります。
特に、交付決定前の設備契約と、地域別最低賃金の発効日を過ぎてからの賃上げには注意が必要です。
設備投資の内容と改善効果を整理する
設備投資型の制度を相談する場合は、見積書だけでなく、現在の業務と導入効果をまとめます。
相談時に準備する内容は次のとおりです。
導入する設備の名称
・メーカーと型式
・導入する事業場
・見積金額
・見積書の有効期限
・発注予定日
・納品予定日
・現在の作業方法
・現在の作業人数
・現在の作業時間
・導入後の作業方法
・導入後の作業人数
・導入後の作業時間
・削減した時間の活用方法
例えば、次のように整理します。
項目 内容
現在の課題 商品の包装を2人で手作業している
現在の作業量 1日300個
現在の作業時間 2人で合計6時間
導入設備 自動包装機
導入後の作業時間 1人で3時間
削減効果 1日3人時、月66人時を削減
時間の活用 検品、新商品開発、出荷業務へ配置する
設備のカタログだけでは、自社で生産性が向上することを説明できません。現場で作業時間や処理件数を測定し、導入前後を比較しましょう。
賃上げ後の収支と資金繰りを試算する
補助金を利用しても、賃上げ後の人件費は継続的に発生します。
相談前に、次の金額を試算しましょう。
・年間の賃金増加額
・会社負担分の社会保険料
・設備投資の総額
・補助対象となる見込額
・補助金・助成金の見込額
・最終的な自己負担額
・補助金の入金までに必要な資金
・設備導入による年間削減額
・導入後の保守費・利用料
・賃上げ後の営業利益
・借入れを行う場合の年間返済額
例えば、補助対象設備が400万円、補助予定額が200万円でも、設備会社への支払い時には400万円が必要になる場合があります。
補助金が入金されるまでの期間に、給与、仕入代金、借入返済などを支払えるか、月別の資金繰り表で確認しましょう。
また、賃上げ原資を確保する方法も整理します。
・商品・サービスの値上げ
・不採算取引の見直し
・原材料や外注費の削減
・設備導入による作業時間の削減
・残業時間の削減
・生産量・販売量の増加
・高付加価値商品への移行
・受注単価の見直し
「補助金を受け取れるから賃上げする」のではなく、補助金終了後も賃金を支払える収益構造をつくる必要があります。
相談したい質問を具体的にする
「この補助金を使えますか」と聞くだけでは、正確な回答を得にくくなります。
次のように、事実と質問を組み合わせて相談しましょう。
◆当社の事業場内最低賃金は1,120円です。2026年9月15日に60円引き上げ、1,180円にする予定です。対象従業員は雇入れ後6か月以上、週40時間勤務の2人です。業務改善助成金の50円コースの対象になりますか。
◆2026年4月に時間額を1,200円から1,260円へ引き上げ、5月に引上げ後の給与を支払いました。対象者は週30時間勤務のパート従業員です。賃上げ加速・定着支援金の対象として申請できますか。
◆県の賃上げ環境整備促進補助金で自動釣銭機を導入したいと考えています。現在の締め作業は1日60分で、導入後は20分になる見込みです。見積額は150万円です。この設備と設置費は補助対象になりますか。
相談内容を具体化すると、追加で確認すべき資料も明確になります。
相談記録を残す
電話や面談で相談した場合は、次の内容を記録します。
・相談日
・相談先
・担当者名
・伝えた事実
・質問内容
・回答内容
・追加で必要な資料
・次に行う手続き
・回答の前提条件
制度の対象可否に関する重要な回答は、可能であればメールや所定の事前相談様式を利用し、記録が残る形で確認しましょう。
相談後に賃金、対象従業員、設備、金額、納期などが変更された場合は、以前の回答をそのまま適用できるとは限りません。変更内容を伝えて再度確認する必要があります。
相談後に実行スケジュールを作成する
対象となる制度が決まったら、申請期限から逆算して予定を組みます。
実施項目 担当者 期限
従業員別賃金一覧の作成 経理担当者 ○月○日
就業規則の改定 労務担当者 ○月○日
設備の見積書取得 現場責任者 ○月○日
生産性向上効果の測定 現場責任者 ○月○日
資金繰りの確認 経営者 ○月○日
事前相談 申請担当者 ○月○日
交付申請 申請担当者 ○月○日
交付決定後の発注 経営者 交付決定後
賃上げの実施 給与担当者 ○月○日
実績報告 申請担当者 ○月○日
申請担当者だけで進めるのではなく、経営者、経理担当者、労務担当者、現場責任者、設備会社で予定を共有しましょう。
特に設備会社には、補助金の交付決定前に契約や納品ができないことと、事業完了期限までに納品しなければならないことを伝えておく必要があります。
申請前の相談では、次の資料がそろっていると確認がスムーズです。
・会社概要
・事業場別の従業員一覧
・雇用契約書・労働条件通知書
・賃金台帳
・就業規則・賃金規程
・従業員別の時間換算額
・賃上げ前後の金額と実施日
・設備の見積書・カタログ
・現在の業務フロー
・設備導入前後の作業時間
・直近の決算書
・資金繰り表
・利用中・申請予定の補助金一覧
・相談したい質問の一覧
すべての資料がそろっていなくても相談は可能です。しかし、現在の賃金額と賃上げ時期が分からなければ、制度の対象可否を判断できません。
まずは従業員別の賃金と設備投資の内容を整理し、契約や賃上げを実施する前に、適切な窓口へ相談しましょう。
Komaki Business Partnersでは、栃木県内の中小企業・小規模事業者を対象に、利用できる賃上げ支援制度の整理、事業場内最低賃金の確認、設備投資効果の見える化、事業計画や資金繰りの検討などを支援しています。
「どの制度が自社に合うか分からない」「設備投資の効果を計画へ落とし込めない」「賃上げ後も利益を確保できるか不安」といった場合は、申請や設備契約を進める前にご相談ください。
