戦略理論で読み解く栃木県の成長産業と地元企業の強みを活かす方法
2026/07/22
栃木県では、自動車・航空宇宙・医療福祉機器に加え、半導体・ロボット・宇宙産業が新たな重点支援分野に位置付けられています。しかし、自社の技術をどの市場へ提案し、何から準備すべきか分からない中小企業も少なくありません。本記事では、県の最新戦略を基に、成長産業の特徴、自社の強みを見極める方法、参入手順、相談先・支援策を具体的に解説します。設備投資を始める前に確認すべき条件も紹介します。
目次
栃木県の成長産業とは|2026~2030年の重点分野
栃木県の成長産業とは|2026~2030年の重点分野
栃木県の成長産業とは、将来の需要拡大や技術革新が見込まれ、県が企業集積、人材育成、研究開発、販路開拓などを重点的に支援する産業分野です。
ただし、「成長産業」という言葉に、法律上統一された定義があるわけではありません。また、県が重点分野に指定していることと、その分野へ参入した企業の売上や利益が必ず増えることは別です。
本章では、栃木県が公表している産業政策を基準に、次の分野を成長産業として整理します。
分類 主な産業・技術
戦略3産業 自動車、航空宇宙、医療福祉機器
新たな重点支援成長分野 半導体、ロボット、宇宙
成長を支える技術 AI・IoT、光学、環境・新素材、デジタル技術
関連する重点産業 食品、観光、物流、海外展開に取り組む産業など
栃木県は「とちぎ産業成長戦略2026-2030」において、自動車、航空宇宙、医療福祉機器の戦略3産業を引き続き強化するとともに、半導体、ロボット、宇宙を「重点支援成長分野」として育成・集積する方針を示しています。
さらに、DX、GX、女性に魅力ある雇用・産業の創出を分野横断的なプロジェクトに位置づけています。
出典:栃木県「とちぎ産業成長戦略2026-2030(概要版)」
成長産業に該当するのは、完成車、航空機、医療機器、半導体などを直接製造する企業だけではありません。
次のような企業も、成長産業のサプライチェーンへ参入できる可能性があります。
・金属・樹脂等の部品加工会社
・金型、治具、工具の製造会社
・電子部品・制御装置の製造会社
・検査、測定、品質保証を行う会社
・生産設備や自動化装置を設計する会社
・ソフトウェアやシステムを開発する会社
・保守、修理、校正等を行う会社
・梱包、輸送、倉庫等を担う会社
・材料や部品を供給する卸売会社
・設計、研究開発、技術者派遣等を行う会社
例えば、半導体産業へ参入する方法は、半導体そのものを製造することだけではありません。製造装置の部品、搬送装置、温度制御、洗浄、配管、検査、工場保全など、周辺分野にも取引機会があります。
自社がどの完成品を製造できるかではなく、成長産業の企業が抱えるどの課題を、自社の技術やサービスで解決できるかを考えることが重要です。
栃木県の成長産業が注目される理由
栃木県の成長産業が注目される理由は、将来性が期待される分野を県が選定しているからだけではありません。
県内には、輸送用機械、航空宇宙、医薬品、医療機器などに関連する製造企業や技術、人材が集積しており、新しい産業へ展開するための基盤があります。
製造業が栃木県経済の中心を占めている
栃木県企業立地ガイドでは、県内の製造品出荷額等は約9.4兆円、県内総生産に占める製造業の割合は40.0%で全国第2位と紹介されています。
出典:栃木県企業立地ガイド「とちぎの主要産業」
製造業の割合が高い地域では、一つの大手企業だけで製品を完成させるのではなく、材料、部品、加工、設備、物流などを担う複数の企業が取引関係を形成しています。
そのため、完成品メーカーの市場が変化すると、県内の中小企業にも次のような影響が及びます。
・既存部品の受注が減少する
・新しい材料や加工方法が必要になる
・品質・環境基準への対応を求められる
・ソフトウェアや電子制御の比重が高まる
・生産工程の自動化が進む
・取引先から設備投資や研究開発を求められる
・従来とは異なる企業との連携が必要になる
成長産業への対応は、新たな売上を獲得するためだけのものではありません。既存顧客や既存市場の変化による受注減少へ備える意味もあります。
既存産業の技術を別分野へ展開できる可能性がある
栃木県内の製造業が持つ加工、組立、品質管理、生産技術等は、複数の産業で活用できる場合があります。
既存の技術・経験 展開を検討できる分野
精密切削・研削 航空宇宙、医療機器、半導体製造装置
板金・溶接 ロボット、搬送装置、航空宇宙、工場設備
樹脂成形 自動車、医療福祉機器、電子機器
電子回路・制御 自動車、ロボット、半導体装置、宇宙機器
画像処理・センサー 検査装置、ロボット、医療、宇宙データ活用
品質保証・検査 航空宇宙、医療機器、半導体関連
生産設備の設計 自動化、ロボット導入、半導体関連設備
表面処理・熱処理 自動車、航空宇宙、精密機器
ソフトウェア開発 製造DX、ロボット制御、医療、宇宙利用
ただし、同じ加工技術を持っているだけで、異業種へそのまま参入できるとは限りません。
産業によって、必要な品質水準、認証、記録、納期、ロット数、価格、設備、情報管理が異なるためです。
例えば、自動車部品を製造できる会社であっても、航空宇宙分野で求められる品質管理や工程記録に対応できるとは限りません。医療機器分野では、製品の用途によって法規制や品質マネジメントへの対応も必要です。
既存技術を「何に使えるか」だけでなく、「参入先が求める条件を満たせるか」まで確認する必要があります。
自動車産業を取り巻く変化への対応が必要である
自動車産業は、栃木県の戦略3産業の一つです。県内には完成車や自動車部品に関連する企業が集積しています。
一方、自動車分野では、電動化、電子制御、ソフトウェア活用、環境対応などが進み、必要とされる部品や技術が変化しています。
従来の内燃機関に関係する部品を主力とする企業では、現在の受注が安定していても、将来の需要変化へ備える必要があります。
検討できる対応には、次のようなものがあります。
・現在の自動車関連技術を高度化する
・電動車向け部品・設備へ展開する
・自動車で培った量産技術を他産業へ転用する
・特定顧客への売上依存度を下げる
・試作・開発段階から顧客へ提案する
・部品加工だけでなく設計や組立まで受注する
・品質保証や生産管理を強みに変える
成長産業への展開は、自動車産業から全面的に撤退するという意味ではありません。
現在の顧客と技術を維持しながら、航空宇宙、医療福祉機器、半導体、ロボットなど、別の市場へ取引先を広げる方法もあります。
人手不足が省力化・自動化の需要を生み出してい
県内企業では、少子高齢化や人材不足への対応も課題になります。
人員を増やしにくい状況では、ロボット、自動化設備、AI、IoTなどを利用し、限られた人材で生産やサービスを維持する必要があります。
自動化の対象は、製造工程だけではありません。
・部品の搬送
・外観検査
・梱包
・在庫管理
・受発注
・生産計画
・設備の監視
・作業記録
・問い合わせ対応
・保守・点検
このため、ロボットメーカーだけでなく、現場の課題を確認し、機械、センサー、ソフトウェア等を組み合わせる企業にも事業機会があります。
ただし、ロボットやAIを導入すること自体を目的にすると、投資額に見合う効果を得られない可能性があります。
最初に、対象作業、現在の工数、人件費、不良率、停止時間などを確認し、導入によって何をどの程度改善するのかを明確にする必要があります。
政策支援を活用できる可能性がある
栃木県では、戦略3産業や将来技術に関する企業ネットワーク、技術交流、研究開発、販路開拓等の支援を実施しています。
県の「世界に誇るものづくり県とちぎ」への躍進プロジェクトでは、戦略3産業に加え、AI・IoT・ロボット、光学、環境・新素材といった未来技術を取り込み、企業の競争力強化を進める方針が示されています。
出典:栃木県「世界に誇るものづくり県とちぎへの躍進プロジェクト」
支援策を利用すると、次のような機会を得られる場合があります。
・業界や技術動向を学ぶ
・大手企業のニーズを把握する
・県内外の企業と接点を持つ
・大学・研究機関と連携する
・試験・分析設備を利用する
・展示会や商談会へ参加する
・研究開発や設備投資の支援を受ける
・専門家へ相談する
ただし、支援機関へ登録する、交流会へ参加する、補助金を受けるといった行動だけでは受注につながりません。
参加前に、次の内容を説明できる状態にする必要があります。
・自社が提供できる技術やサービス
・解決できる顧客の課題
・対応できる材質・寸法・精度
・生産できる数量
・品質管理体制
・納期
・価格の考え方
・類似製品や類似業務の実績
・共同開発できる範囲
・秘密情報の管理方法
成長産業かどうかは自社との適合性で判断する
市場全体が成長していても、自社が利益を得られるとは限りません。
参入判断では、市場規模だけでなく、自社の技術、顧客、設備、人材、資金との適合性を確認します。
確認項目 主な確認内容
顧客 誰が購入・発注するのか
課題 顧客が何に困っているのか
提供価値 自社が何を改善できるのか
競合 既存の取引先や代替手段は何か
品質 必要な精度、認証、検査、記録は何か
設備 新たな設備投資が必要か
人材 設計、営業、品質保証等を担当できるか
期間 受注や量産まで何年かかるか
収益 開発費・設備費を回収できるか
リスク 顧客依存、技術流出、不採算化等に耐えられるか
「市場が伸びそうだから参入する」という判断では不十分です。
自社がその市場で選ばれる理由と、投資を回収するまでの道筋を説明できることが、成長産業へ取り組む前提になります。
栃木県の成長産業|戦略3産業と新たな重点3分野
栃木県の成長産業|戦略3産業と新たな重点3分野
栃木県の成長産業を理解する際は、従来から集積を進めてきた戦略3産業と、2026~2030年の戦略で重点支援成長分野に位置づけられた3分野を分けて整理すると分かりやすくなります。
区分 分野
戦略3産業 自動車、航空宇宙、医療福祉機器
新たな重点3分野 半導体、ロボット、宇宙
それぞれの分野では、市場、商習慣、必要な認証、開発期間が異なります。
同じ製造業でも、参入方法を一律に考えることはできません。
自動車産業は既存集積を生かしながら構造変化へ対応する
自動車産業は、栃木県を代表する産業集積の一つです。
完成車メーカーだけでなく、部品、材料、金型、生産設備、物流など、多くの企業がサプライチェーンを構成しています。
県内企業が検討できる主な事業機会には、次のようなものがあります。
・電動車関連部品
・電子制御・センサー
・車載ソフトウェア
・軽量化部材
・バッテリー関連部品・設備
・生産ラインの自動化
・検査・測定装置
・金型・治具
・試作・開発支援
・リサイクル・環境対応
一方、自動車産業では、品質、コスト、納期に対する要求が厳しく、量産開始後も継続的な改善を求められる場合があります。
新規参入では、受注金額だけでなく、専用設備、金型、検査、人員、在庫などを含めた採算を確認する必要があります。
また、特定の完成車メーカーや一次取引先への依存度が高くなると、発注方針の変更による影響を受けやすくなります。
自動車関連の受注を増やす場合でも、顧客別・製品別の売上と利益を管理し、依存度を確認しましょう。
航空宇宙産業では品質保証と長期的な事業計画が重要になる
航空宇宙産業では、安全性や信頼性を確保するため、高度な加工技術だけでなく、工程管理、記録、トレーサビリティ等が重視されます。
参入が考えられる分野は次のとおりです。
・機体・エンジン関連部品
・精密加工
・複合材料
・表面処理・熱処理
・治具・工具
・検査・測定
・設計・解析
・生産設備
・修理・保守
・品質保証支援
航空宇宙分野では、試作や認定から量産までに時間がかかる場合があります。また、少量生産でも厳格な品質管理が必要になり、検査や書類作成の負担が大きくなる可能性があります。
高い単価だけを見て参入を判断すると、認証取得、設備、教育、品質管理等の費用を回収できないことがあります。
参入前に、受注開始までの期間、必要な認証、予定数量、利益率、専任人材の確保などを確認することが重要です。
医療福祉機器産業では利用者の課題と規制の確認が必要になる
医療福祉機器産業には、診断、治療、検査、介護、リハビリ、見守りなど、幅広い製品やサービスが含まれます。
県内企業が持つ精密加工、樹脂成形、電子制御、ソフトウェア等を活用できる可能性があります。
主な事業機会は次のとおりです。
・医療機器の部品
・検査・分析装置
・手術・治療関連機器
・介護・福祉用具
・リハビリ機器
・見守りシステム
・センサー
・医療・介護ソフトウェア
・製造設備・治具
・保守・校正
ただし、医療福祉機器は、製品の用途やリスクによって必要な法的手続きが異なります。
医療従事者や利用者の要望を聞いて試作品を作るだけでは、販売できる製品になるとは限りません。
次の内容を早期に確認する必要があります。
・医療機器に該当するか
・製造販売を担う企業はどこか
・必要な許可・承認・認証は何か
・安全性をどのように確認するか
・品質管理をどのように行うか
・医療・介護現場の業務へ適合するか
・誰が購入費を負担するか
・保守や不具合対応をどのように行うか
技術から製品を考えるのではなく、医療・介護現場が抱える課題を確認し、その課題を解決する方法として技術を選ぶことが重要です。
半導体分野は製造装置・部品・保守を含めて捉える
半導体分野へ参入する方法は、半導体を直接製造することだけではありません。
半導体の製造には、多くの装置、部品、材料、工場設備、保守サービスが必要です。
県内中小企業が検討できる分野には、次のようなものがあります。
・半導体製造装置の部品
・真空・温度・流体制御
・精密加工
・搬送装置
・洗浄装置
・検査・計測
・センサー
・電源・制御装置
・工場設備
・装置の保守・修理
・梱包・物流
一方、半導体関連では、高い精度、清浄度、安定供給、情報管理などを求められる場合があります。
市場が拡大していても、設備投資額が大きい、顧客の認定に時間がかかる、需要の変動が大きいといったリスクがあります。
「半導体関連」という名称だけで判断せず、自社がサプライチェーンのどの位置を狙うのかを明確にしましょう。
ロボット分野は機械販売より課題解決力が重要になる
ロボット分野には、産業用ロボットだけでなく、搬送、検査、物流、介護、サービスなどに利用されるロボットや自動化システムが含まれます。
県内企業が参入できる可能性がある分野は次のとおりです。
・ロボット本体の部品
・ハンド・治具
・搬送装置
・センサー
・画像処理
・制御ソフトウェア
・システムインテグレーション
・安全対策
・導入支援
・保守・教育
ロボット導入では、既製品を購入するだけで課題が解決するとは限りません。
対象となる作業、製品の形状、作業速度、設置面積、周辺設備、安全性などを確認し、現場に合わせてシステムを構築する必要があります。
したがって、中小企業には、現場の課題を聞き取り、機械、制御、ソフトウェアを組み合わせる役割にも事業機会があります。
宇宙分野は部品製造からデータ利用まで対象が広い
宇宙産業には、ロケットや人工衛星の製造だけでなく、地上設備、通信、観測データの利用なども含まれます。
参入を検討できる分野は次のとおりです。
・ロケット・人工衛星の部品
・電子機器
・センサー
・軽量・耐熱材料
・精密加工
・試験・解析
・地上設備
・通信関連
・衛星データの解析
・防災、農業、物流等へのデータ活用
宇宙機器では、軽量性、耐久性、信頼性等が重視されます。少量生産や研究開発段階の案件も多く、受注までに時間がかかる場合があります。
一方、衛星データを農業、防災、インフラ管理等へ活用する事業では、製造業以外の企業にも参入の余地があります。
ただし、実証実験だけで終了し、継続的な売上へつながらない可能性もあります。
誰が利用し、どのような費用を支払い、継続して利用するのかまで事業モデルを検討する必要があります。
6分野の違いを比較する
分野 主な事業機会 主な参入障壁
自動車 電動化、電子制御、軽量化、自動化 品質・コスト・納期、量産投資、顧客依存
航空宇宙 精密部品、材料、検査、設計 認証、品質記録、長い開発期間
医療福祉機器 部品、完成品、ソフトウェア、介護機器 法規制、安全性、現場評価、販売体制
半導体 装置部品、制御、洗浄、検査、保守 精度、清浄度、設備投資、需要変動
ロボット 部品、制御、SI、導入・保守 現場対応力、安全性、費用対効果
宇宙 部品、材料、試験、通信、データ利用 高信頼性、少量生産、長期開発、顧客開拓
成長を支える技術は複数産業へ横断的に使われる
栃木県の産業政策では、AI・IoT・ロボット、光学、環境・新素材等も重要な技術として位置づけられています。
これらは、一つの独立した産業としてだけでなく、複数の成長産業を支える技術として捉えることができます。
例えば、画像処理技術は、自動車部品の外観検査、医療画像、ロボット制御、半導体検査、衛星データ解析などに利用できます。
環境・新素材技術も、次のように複数分野へ展開できる可能性があります。
・自動車の軽量化
・航空機の燃費改善
・医療機器の安全性向上
・半導体装置の耐久性向上
・宇宙機器の耐熱・軽量化
・製造工程の省エネルギー化
自社の技術を一つの業界だけに結びつけず、どの機能や課題に対応できるかを整理すると、複数産業へ展開しやすくなります。
食品など6分野以外の産業も成長戦略の対象になる
栃木県の産業成長戦略は、戦略3産業と重点支援成長分野だけを対象としているわけではありません。
食品産業の振興、スタートアップ支援、海外展開、DX、GX、人材確保なども含まれています。
地域未来投資促進法に基づく栃木県の基本計画でも、戦略3産業、未来技術、食品、DX、海外販路開拓、物流、観光など、地域特性を生かす幅広い事業分野が示されています。
出典:栃木県「地域未来投資促進法に基づく栃木県基本計画」
そのため、6分野に直接該当しない企業でも、自社に成長機会がないとは限りません。
食品、観光、物流、サービス業などでも、商品開発、生産性向上、デジタル化、海外販売、人手不足への対応によって成長を目指せます。
重要なのは、政策上の名称へ自社を無理に当てはめることではありません。
自社の顧客、技術、設備、人材を基準に、どの市場で競争優位を築けるかを判断することです。
成長産業への参入方法を4つに分ける
県内企業が成長産業へ取り組む方法は、次の4つに整理できます。
参入方法内容主なリスク
既存技術を既存顧客へ提案現在の取引先へ新製品・改善を提案する顧客依存が続く
新技術を既存顧客へ提案自動化、デジタル化等で提供価値を高める開発・設備費が必要になる
既存技術を新市場へ展開加工技術等を別産業へ転用する品質・商習慣が異なる
新技術で新市場へ参入新製品や新サービスを開発する投資と不確実性が最も大きい
一般的には、既存技術を活用できる分野から検討した方が、技術開発や設備投資の負担を抑えやすくなります。
ただし、現在の技術が将来も競争力を持つとは限りません。顧客ニーズや競合技術を確認し、必要に応じて大学、研究機関、他企業等との共同開発も検討します。
成長産業への参入を決める前に、少なくとも次の問いへ答えられるようにしましょう。
・参入したい理由は何か
・誰が顧客になるのか
・顧客の課題は何か
・自社のどの強みを使うのか
・競合と何が違うのか
・必要な認証や設備は何か
・開発・営業に何年かかるのか
・必要な投資はいくらか
・受注後に利益を確保できるか
・既存事業へ悪影響が出ないか
・撤退・見直しの基準をどうするか
栃木県の成長産業は、県内企業に新たな取引や事業転換の機会をもたらす可能性があります。
一方、重点分野へ参入すること自体を目的にすると、認証、設備、人材、営業等の負担が先行し、不採算になる可能性があります。
市場の将来性だけでなく、自社の強み、顧客ニーズ、参入障壁、投資回収を確認し、どの分野へ、どの方法で参入するかを決めることが重要です。
次章では、自動車、航空宇宙、医療福祉機器、半導体、ロボット、宇宙の各分野について、市場機会、求められる技術、参入時の注意点を詳しく解説します。
栃木県の成長産業が持つ特徴と市場機会
栃木県の成長産業が持つ特徴と市場機会
栃木県の成長産業では、完成品メーカーだけでなく、部品、材料、装置、ソフトウェア、検査、保守、物流などを担う中小企業にも市場機会があります。
ただし、成長産業への参入は、既存技術を紹介すればすぐに受注できるほど単純ではありません。産業ごとに、顧客、発注方法、品質基準、認証、開発期間、必要な設備が異なります。
まず、6分野の市場機会を、顧客の課題と県内企業が提供できる価値に分けて整理します。
分野 顧客が抱える主な課題 県内企業が提供できる主な価値
自動車 電動化、軽量化、原価低減、品質向上 部品加工、電子制御、生産設備、自動化
航空宇宙 軽量化、高信頼性、供給能力の確保 精密加工、特殊工程、検査、治具
医療福祉機器 医療・介護現場の負担、安全性、使いやすさ 部品、完成品、センサー、ソフトウェア
半導体 装置需要、安定供給、高精度化、保守 装置部品、搬送、制御、洗浄、保全
ロボット 人手不足、省力化、危険作業の削減 機械設計、制御、画像処理、システム構築
宇宙 小型・軽量化、高信頼性、データ利用 部品、材料、試験、解析、データサービス
市場機会を見つける際は、「何を作れるか」だけでなく、「誰がどの課題へ対価を支払うか」を明確にする必要があります。
例えば、金属加工会社が「高精度加工に対応できます」と説明しても、それだけでは自動車、航空宇宙、半導体のどの顧客に適しているのか分かりません。
次のように、顧客の用途まで具体化することが重要です。
・自動車向け試作部品を短納期で製造できる
・航空宇宙向け難削材の加工履歴を管理できる
・医療機器向けの小ロット部品を安定供給できる
・半導体製造装置向けの精密部品を洗浄・梱包まで対応できる
・ロボット用治具を現場確認から設計・製作できる
・宇宙機器向け部品の試作と検査記録に対応できる
成長産業へ参入するには、自社技術を業界用語へ置き換えるだけでなく、顧客の使用条件、品質要求、購入理由へ結びつける必要があります。
栃木県の成長産業|戦略3産業の特徴と市場機会
栃木県は、自動車、航空宇宙、医療福祉機器を戦略3産業として位置づけ、企業、大学、産業支援機関等のネットワーク形成、人材育成、研究開発、販路開拓などを支援しています。
2026年度も、とちぎ産業振興協議会を通じた企業交流、人材育成、展示会出展等の事業が実施されています。
出典:栃木県「世界に誇るものづくり県強靱化プロジェクト」
戦略3産業には、すでに県内に関連企業や技術が集積しているという共通点があります。
一方、それぞれの市場構造や参入条件は異なります。
比較項目 自動車 航空宇宙 医療福祉機器
主な顧客 完成車・部品・設備メーカー 機体・エンジン・装備品メーカー 医療機器メーカー、医療・介護機関
生産形態 量産中心、一部試作 少量多品種、長期継続 少量から量産まで幅広い
重視される要素 品質、コスト、納期、供給力 安全性、信頼性、記録、認証 安全性、使いやすさ、法規制
参入までの期間 比較的短い案件から長期開発まで 認定・開発に長期間を要しやすい 製品区分や販路によって異なる
主なリスク 価格競争、専用投資、顧客依存 認証費用、開発長期化、需要変動 規制対応、開発費、販売先不足
自動車産業では電動化と生産工程の変化を捉える
栃木県は、自動車産業を県の基幹産業とし、大手企業、関連企業、優れた技術を持つ中小企業が集積していると説明しています。
出典:栃木県「とちぎ自動車産業振興協議会」
自動車産業は、完成車を頂点に、多数の部品、材料、金型、設備、物流等の企業が関わる裾野の広い産業です。
県内中小企業が取引機会を検討できる分野には、次のようなものがあります。
・電動車向け部品
・モーター・インバーター関連部品
・バッテリー周辺部品
・車載電子機器
・センサー・通信機器
・軽量化部材
・熱管理部品
・金型・治具
・試作部品
・組立・検査装置
・生産ラインの自動化
・設備保守
・リサイクル・再資源化
電動化が進むと、従来のエンジンや排気系等に使われていた部品の一部で需要が変化する可能性があります。一方、モーター、電池、電子制御、熱管理など、新たな部品や製造設備が必要になります。
自動車関連企業は、自社製品が車両のどこに使われ、技術変化によって需要がどのように変わるかを確認する必要があります。
自動車分野では完成品以外の市場機会も確認する
自動車産業への参入というと、車両へ搭載される部品の受注を想定しがちです。
しかし、生産工程を支える市場もあります。
市場機会 提供できる製品・サービス
生産性向上 自動化設備、搬送装置、治具、工程改善
品質向上 検査装置、測定、画像処理、トレーサビリティ
人手不足対応 ロボット、協働機器、省人化システム
脱炭素 省エネ設備、エネルギー管理、廃材削減
設備維持 修理、改造、予防保全、部品再製作
開発期間短縮 試作、設計支援、解析、短納期加工
完成車へ直接組み込まれる部品は、品質保証や量産能力に対する要求が高くなります。
一方、生産設備、治具、保守等では、県内企業の機動力や現場対応力が選ばれる理由になる場合があります。
例えば、顧客工場へ短時間で訪問できる、既存設備に合わせて改造できる、故障部品を図面がない状態から再製作できるといった能力は、地域企業が持つ強みです。
自動車産業では売上より粗利益と投資回収を確認する
自動車関連の量産案件では、大きな売上を期待できる一方、次の負担が発生する可能性があります。
・専用設備の導入
・金型・治具の製作
・測定器の購入
・人員の採用・教育
・在庫の保有
・材料価格の変動
・継続的な原価低減要請
・不良発生時の選別・補償
・量産終了時の設備処理
受注の可否を判断する際は、年間売上だけでなく、製品別の限界利益、設備投資額、回収期間を確認します。
◆投資回収期間=初期投資額÷年間に得られる見込みキャッシュフロー
例えば、年間売上が5,000万円でも、材料費、外注費、追加人件費、設備償却等を差し引いた利益が小さければ、投資を回収できない可能性があります。
見積もりでは、量産開始前の試作費、金型費、検査費、物流費、不具合対応費まで含めて採算を確認しましょう。
航空宇宙産業では技術力に加えて証拠を残す力が求められる
栃木県は、航空宇宙産業について、県内の事業所数や製造品出荷額等が全国上位を占め、国内を代表する企業や関連企業が立地していると説明しています。
出典:栃木県「とちぎ航空宇宙産業振興協議会」
航空宇宙産業では、次のような市場機会が考えられます。
・機体構造部品
・エンジン関連部品
・装備品
・精密切削・研削
・難削材加工
・板金・溶接
・複合材料
・表面処理・熱処理
・治具・工具
・検査・測定
・設計・解析
・修理・保守
ただし、「高精度な部品を作れる」だけでは、航空宇宙産業の取引条件を満たせない場合があります。
航空宇宙分野では、完成した製品の検査だけでなく、誰が、どの材料を使い、どの設備と手順で加工し、どのような検査をしたかを追跡できることが重要です。
必要になる管理の例は次のとおりです。
・材料証明書の管理
・製造番号・ロットの管理
・作業手順書
・設備・測定器の校正
・作業者の資格管理
・工程変更の承認
・不適合品の管理
・検査記録の保存
・外注先の管理
・図面・技術情報の管理
自社では正しく加工できていても、その工程を記録で説明できなければ、顧客の監査や認定を通過できない可能性があります。
航空宇宙産業では認証取得を目的にしない
航空宇宙産業では、取引条件としてJIS Q 9100などの品質マネジメント規格への対応を求められる場合があります。
ただし、認証を取得すれば自動的に受注できるわけではありません。
認証取得前に、次の内容を確認する必要があります。
・想定する顧客
・顧客が必要とする加工・技術
・発注予定の数量
・予定単価と利益
・必要な設備
・認証取得・維持費用
・品質管理を担う人材
・認定までに必要な期間
・受注できなかった場合の設備用途
特定の顧客や案件がない状態で、認証取得だけを先行させると、維持費と管理負担だけが残る可能性があります。
最初は、認証を保有する企業から工程の一部を受託する、試作や治具から取引を始めるなど、参入段階を分ける方法もあります。
航空宇宙産業では長期的な資金計画が必要になる
航空宇宙分野では、商談、試作、監査、認定、量産までに時間を要することがあります。
その間にも、営業費、試作費、認証費、人件費、設備費が発生します。
短期間で売上を確保する必要がある企業が、航空宇宙分野だけへ経営資源を集中すると、資金繰りが悪化する可能性があります。
既存事業の収益を維持しながら、次の段階へ進めることが重要です。
①市場と顧客ニーズを調査する
②自社技術との適合性を確認する
③商談会等で具体的な要求を聞く
④試作・小口案件へ対応する
⑤品質管理体制を整える
⑥必要に応じて認証を取得する
⑦継続受注と量産へ展開する
各段階で、売上見込み、費用、進捗を確認し、次の投資を判断しましょう。
医療福祉機器産業では部品供給と製品開発を分けて考える
医療福祉機器産業への参入方法は、大きく次の3つに分けられます。
参入方法 主な内容 主な注意点
部品・加工の受託 医療機器メーカーへ部品等を供給する 顧客の品質基準への対応
共同開発 メーカーや医療機関と製品を開発する 役割、知的財産、費用負担
自社製品の開発 自社で企画し販売する 規制、販売、保守、責任
部品供給では、最終製品の製造販売を担う企業が規制対応を行い、受託企業は指定された品質や工程を守る形が一般的です。
一方、自社で医療機器を企画・販売する場合は、製品の該当性、区分、許可・承認・認証、品質管理等について専門的な確認が必要になります。
医療機器に該当しない福祉用具や健康関連製品でも、安全性、表示、製造物責任、個人情報等への対応は必要です。
医療福祉機器では現場ニーズを具体的な要求へ変換する
医療・介護現場からは、次のような要望が出る場合があります。
・作業時間を短縮したい
・身体的な負担を軽減したい
・操作を簡単にしたい
・誤操作を防ぎたい
・感染リスクを下げたい
・患者や利用者の安全性を高めたい
・記録を自動化したい
・持ち運びやすくしたい
ただし、「軽くしてほしい」「使いやすくしてほしい」という要望だけでは、製品仕様を決められません。
例えば、軽量化であれば、次の内容まで具体化します。
・現在の重量
・目標重量
・使用する人
・使用時間・回数
・必要な強度
・洗浄・消毒方法
・使用場所
・転倒・落下等のリスク
・購入可能な価格
医療従事者や介護職員の要望をそのまま製品化するのではなく、現場観察、試作品、評価を繰り返して、本当に解決すべき課題を確認します。
医療福祉機器では販売経路を開発前に確認する
優れた製品を開発しても、購入者、販売者、価格が明確でなければ事業化できません。
医療福祉機器の販売経路には、次のようなものがあります。
・医療機器メーカーへの部品供給
・販売業者・ディーラー経由
・医療機関への販売
・介護施設への販売
・福祉用具貸与・販売事業者経由
・自治体・公共機関への販売
・一般消費者への直接販売
開発前に、使用者、購入決定者、支払者を分けて確認しましょう。
例えば、使用者が医療従事者でも、購入を決めるのは病院の管理部門であり、販売にはディーラーが関与する場合があります。
製品の使用価値だけでなく、購入手続き、予算、保守、交換部品まで含めた販売計画が必要です。
栃木県では、県内企業と医療機器メーカー等との連携や販路拡大を支援するため、展示会への共同出展などを実施しています。
出典:栃木県「医療機器産業連携創出事業」
ただし、展示会への出展は商談の入口です。出展後の訪問、試作提案、見積もり、評価対応まで担当者と期限を決める必要があります。
2-2 栃木県の成長産業|半導体・ロボット・宇宙の市場機会
栃木県の成長産業|半導体・ロボット・宇宙の市場機会
栃木県は「とちぎ産業成長戦略2026-2030」において、半導体、ロボット、宇宙を重点支援成長分野に位置づけ、中小企業の新規参入や産業集積を促進する方針を示しています。
出典:栃木県「とちぎ産業成長戦略2026-2030」
この3分野は、県内に一定の技術基盤がある一方、戦略3産業と比べて新たな企業参入やネットワーク形成を進める段階にあります。
そのため、県内企業には市場機会がありますが、既存顧客や確立された受注経路がない状態から参入する企業も少なくありません。
市場調査、顧客探索、試作、共同開発を段階的に進める必要があります。
半導体産業は幅広い周辺企業で構成される
半導体産業は、半導体チップを設計・製造する企業だけで構成されているわけではありません。
主なサプライチェーンは次のように整理できます。
分野 主な製品・サービス
設計 回路設計、組込みソフトウェア、解析
材料 ウェハー、薬品、ガス、金属・樹脂材料
製造装置 成膜、露光、洗浄、搬送、検査装置
装置部品 精密部品、真空部品、配管、バルブ
制御 センサー、電源、モーター、制御盤
工場設備 空調、排気、純水、電力、環境管理
保守 修理、点検、校正、交換部品
後工程 組立、実装、検査、梱包
県内の金属加工、樹脂加工、表面処理、装置設計、制御等の企業は、完成した半導体ではなく、製造装置や工場設備のサプライチェーンへ参入できる可能性があります。
例えば、既存の自動車・航空宇宙向け加工技術を、半導体製造装置の部品へ展開する方法が考えられます。
ただし、同じ図面どおりに加工できても、洗浄、梱包、異物管理、安定供給等の要求が異なる場合があります。
半導体分野では用途と顧客階層を明確にする
「半導体関連企業と取引したい」という目標だけでは、営業先を選べません。
次のように、対象を具体化する必要があります。
・半導体メーカーへ直接納入する
・製造装置メーカーへ部品を供給する
・装置メーカーの一次取引先へ加工品を納入する
・半導体工場の設備保全を受託する
・検査・搬送装置を共同開発する
・半導体関連工場の建設・設備需要へ対応する
直接取引を目指す場合と、既存の一次取引先から工程を受託する場合では、必要な営業力、品質保証、供給能力が異なります。
初めて参入する企業は、自社の規模と能力に合った取引階層を選びましょう。
半導体産業では需要変動と設備投資リスクを考慮する
半導体関連の需要は、用途、製品世代、設備投資の時期等によって変動する可能性があります。
受注増加を見込んで高額設備を導入しても、顧客の投資計画や製品仕様が変われば、予定した売上を確保できない場合があります。
設備投資前には、次の内容を確認します。
・発注予定期間
・最低・最大数量
・単価
・専用設備か汎用設備か
・設備のほかの用途
・顧客認定の条件
・量産開始時期
・需要減少時の損失
・設備資金と運転資金
・投資回収期間
発注予定や口頭の見込みだけを前提に、返済負担の大きい設備投資を行わないことが重要です。
最初は外注設備や公設試験研究機関を活用し、受注可能性を確認してから投資する方法も検討しましょう。
ロボット産業では現場課題を把握する企業に機会がある
ロボット分野では、ロボット本体を製造する企業だけでなく、現場へ導入するための設計、周辺装置、ソフトウェア、保守等を担う企業が必要です。
主な市場機会は次のとおりです。
・ロボット部品
・ロボットハンド
・治具
・搬送装置
・センサー
・カメラ・画像処理
・制御盤
・ソフトウェア
・安全柵・安全装置
・システムインテグレーション
・導入教育
・保守・点検
特に中小企業へのロボット導入では、製品や作業が標準化されていない、設置場所が狭い、予算が限られているといった問題があります。
既製品を販売するだけでなく、現場を確認し、前後工程を含めて設計できる企業に市場機会があります。
ロボット導入では自動化する工程を選ぶ
すべての作業を自動化すればよいわけではありません。
自動化に適している可能性がある作業には、次の特徴があります。
・同じ動作を繰り返す
・作業量が多い
・人への負担が大きい
・危険を伴う
・品質のばらつきが発生する
・人手不足で工程が止まりやすい
・夜間・休日も稼働させたい
・作業手順を標準化できる
一方、製品の種類や形状が毎回変わる、作業判断が熟練者へ依存している、前後工程が整理されていない場合は、自動化が難しくなる可能性があります。
ロボットを選ぶ前に、対象工程を次のように数値化します。
指標 確認内容
作業時間 1回・1日・1か月当たりの時間
作業人数 現在必要な人数
生産数量 現在と将来の処理量
不良率 手作業によるばらつき
停止時間 故障、段取り、待ち時間
人件費 対象工程にかかる費用
導入費 本体、周辺設備、工事、教育
維持費 保守、部品、電力、ソフトウェア
◆導入効果=削減できる人件費・不良損失・停止損失-設備の減価償却費・保守費・追加運営費
省人化できる人数だけでなく、生産量、品質、安全性、採用難の緩和なども含めて効果を判断します。
ロボット産業への参入では自社の担当範囲を決める
ロボットシステムは、機械、電気、制御、安全、ソフトウェアなど、複数の技術から構成されます。
一社ですべてに対応できない場合は、連携先を明確にします。
自社の強み 担当できる可能性がある範囲
金属加工 架台、ハンド、治具、部品
機械設計 周辺装置、搬送、レイアウト
電気工事 配線、制御盤、設備接続
ソフトウェア 制御、画像処理、データ連携
生産技術 工程分析、仕様作成、立上げ
保守 点検、修理、予防保全
ロボット本体を販売できなくても、得意分野を担当し、システムインテグレーター等と連携することで参入できる可能性があります。
栃木県では、2026年度にロボット・半導体産業の基盤強化に関する事業を実施しています。
出典:栃木県「とちぎロボット・半導体産業基盤強化事業」
県の事業へ参加する場合も、情報収集で終わらせず、連携したい企業、自社が担当できる工程、試作したい内容を事前に整理しましょう。
宇宙産業は機器製造と宇宙利用に分けて考える
宇宙産業への参入方法は、大きく「宇宙機器を作る事業」と「宇宙から得られるデータや通信を利用する事業」に分けられます。
区分 主な事業
宇宙機器 ロケット、人工衛星、搭載機器、地上設備
部品・材料 精密部品、電子部品、軽量・耐熱材料
試験・開発 振動、温度、真空等の試験、設計・解析
通信・運用 衛星通信、地上局、衛星運用
データ利用 農業、防災、測量、物流、環境監視
製造業では、航空宇宙分野で培った精密加工、品質保証、材料技術等を活用できる可能性があります。
IT企業やサービス業では、衛星画像や位置情報を利用し、地上の課題を解決する事業を検討できます。
例えば、衛星データの利用分野には次のようなものがあります。
・農地・作物の状況把握
・災害時の被害確認
・道路・橋梁等のインフラ管理
・森林・河川の監視
・物流・車両の位置管理
・建設・測量
・観光・地理情報サービス
「宇宙」という言葉だけに注目せず、地上の誰がどの課題を解決できるかを確認することが重要です。
宇宙機器分野では小ロットと高信頼性への対応が必要になる
宇宙機器では、少量生産であっても高い信頼性が求められる場合があります。
主な要求には、次のようなものがあります。
・小型・軽量
・振動・衝撃への耐性
・温度変化への耐性
・真空環境への対応
・放射線への対応
・長期間の安定動作
・材料・部品の履歴管理
・試験結果の記録
試作案件は技術力を高める機会になりますが、試作だけで終了すると、継続的な売上にならない場合があります。
次の段階へ進む条件を事前に確認しましょう。
・試作後に量産・追加発注があるか
・開発成果をほかの顧客へ展開できるか
・知的財産は誰に帰属するか
・試験・不具合対応費を誰が負担するか
・開発期間中の資金を確保できるか
・設備をほかの事業にも使用できるか
開発実績が営業上の信用や技術蓄積につながる場合でも、投入する人件費と将来の収益可能性を確認する必要があります。
衛星データ事業では実証から収益化まで設計する
衛星データを利用したサービスでは、自治体、農業者、建設会社等と実証実験を行う場合があります。
ただし、実証で効果を確認できても、利用者が継続的に料金を支払うとは限りません。
事業化では、次の内容を決めます。
・誰が利用するか
・誰が料金を支払うか
・どの課題を解決するか
・既存方法と比べて何が改善するか
・どの程度の頻度で利用するか
・データ取得・解析にいくらかかるか
・導入教育や保守が必要か
・単発利用か継続契約か
・売上と粗利益を確保できるか
実証実験の件数ではなく、有料契約数、継続率、顧客当たり粗利益などを事業化の指標に設定しましょう。
重点3分野は一つだけを選ぶ必要はない
半導体、ロボット、宇宙は、独立した市場である一方、技術面では相互に関係しています。
例えば、次のような組み合わせがあります。
・半導体製造装置へロボット搬送を組み込む
・宇宙機器へ半導体・センサーを搭載する
・ロボットへ画像処理・AIを実装する
・衛星データをAIで解析する
・半導体工場の設備を自動監視する
・宇宙分野の高信頼性技術をほかの産業へ展開する
自社を一つの産業へ固定する必要はありません。
自社の技術を機能別に整理し、複数市場へ提案することで、特定産業や特定顧客への依存を抑えられる可能性があります。
成長産業の市場機会を売上へ変える条件を確認する
成長産業の情報を集めるだけでは、売上は発生しません。
市場機会を受注へつなげるには、次の条件を満たす必要があります。
・狙う産業と顧客を具体化している
・顧客の課題を把握している
・自社が提供できる価値を説明できる
・品質・認証等の参入条件を確認している
・必要な設備と人材を準備できる
・試作から量産までの資金を確保できる
・価格と粗利益を試算している
・商談後の行動計画がある
・撤退・見直し基準を決めている
・経営者だけでなく社内の担当者を決めている
「成長分野だから売れる」「県が支援しているから受注できる」という考え方では不十分です。
自社の強みと顧客ニーズが一致し、参入に必要な投資を回収できる場合に、成長産業は自社の成長機会になります。
次章では、栃木県企業が自社の強みを分析し、成長産業で選ばれる理由を明確にする方法を、VRIO分析、バリューチェーン分析、競争戦略等を用いて解説します。
栃木県の成長産業で自社の強みを活かす戦略
栃木県の成長産業で自社の強みを活かす戦略
栃木県の成長産業へ参入する際、最初に設備を購入したり、認証を取得したりする必要はありません。
先に確認すべきなのは、自社が持つ技術、人材、顧客関係、設備、品質管理、対応力などのうち、参入先の顧客から評価されるものは何かという点です。
中小企業が考える「自社の強み」と、顧客が取引先を選ぶ理由は、必ずしも一致しません。
例えば、経営者が「高い技術力」を強みだと考えていても、顧客が重視しているのが短納期、少量対応、検査記録、設計提案であれば、その技術力だけでは受注につながりません。
反対に、社内では当たり前になっている次のような能力が、成長産業では強みになる場合があります。
・図面が不十分な状態から仕様を整理できる
・試作品を短期間で製作できる
・小ロットや多品種に対応できる
・加工から検査、組立まで一括対応できる
・不具合発生時に原因を特定して改善できる
・顧客の生産現場へ訪問して提案できる
・材料や工程の履歴を記録できる
・長期間にわたり安定供給できる
・地域の協力企業と連携して複数工程へ対応できる
・大手企業では対応しにくい個別案件を引き受けられる
成長産業で競争力を持つには、「何ができる会社か」だけでなく、「どの顧客の、どの課題を、競合より優れた方法で解決できる会社か」を明確にすることが重要です。
そのために活用できるのが、VRIO分析、バリューチェーン分析、差別化戦略、集中戦略などの戦略理論です。
分析・戦略 確認する内容
VRIO分析 自社の経営資源が競争優位につながるか
バリューチェーン分析 どの業務で顧客価値を生み出しているか
SWOT分析 自社の強み・弱みと市場の機会・脅威
差別化戦略 顧客が自社を選ぶ理由をどうつくるか
集中戦略 顧客、用途、地域、工程等をどこまで絞るか
コスト戦略 低価格ではなく、利益を確保できる効率をどうつくるか
分析の目的は、表を埋めることではありません。
分析結果を、狙う市場、営業先、設備投資、人材育成、価格設定などの具体的な意思決定へつなげる必要があります。
栃木県の成長産業で強みを見つけるVRIO・バリューチェーン分析
自社の強みを分析するときは、経営者の印象や過去の成功体験だけで判断しないことが重要です。
少なくとも、次の資料と事実を確認します。
・顧客別・製品別の売上高
・顧客別・製品別の粗利益
・受注理由
・失注理由
・リピート率
・納期遵守率
・不良率
・クレーム件数
・見積回答までの時間
・試作から量産へ移行した件数
・保有設備と稼働率
・従業員の技能・資格
・特許、ノウハウ、加工条件
・外注先・協力企業との関係
・顧客から評価された内容
自社の強みは、売上が大きい事業だけにあるとは限りません。
売上規模は小さくても、利益率が高い、競合が少ない、顧客から継続的に相談される、別分野へ応用できるといった業務には、成長産業へ展開できる強みが含まれている可能性があります。
自社の経営資源を有形・無形に分けて整理する
強みの候補を見つけるには、自社が保有する経営資源を一覧にします。
経営資源 主な内容
人材 技能、資格、経験、提案力、顧客対応力
技術 加工、設計、組立、検査、制御、解析
設備 機械、測定器、試験設備、ITシステム
情報 加工条件、原価、品質記録、顧客ニーズ
知的財産 特許、商標、図面、ノウハウ
顧客基盤 取引実績、信用、紹介、継続契約
供給体制 生産能力、短納期、小ロット、在庫対応
組織 品質管理、改善活動、部門連携、意思決定
外部関係 仕入先、外注先、大学、支援機関との関係
地域性 顧客との距離、地域での信用、交通利便性
特に中小企業では、決算書へ直接表れない無形の経営資源が競争力になっている場合があります。
例えば、熟練技術者の判断、取引先との信頼、短納期を実現する工程調整、協力会社との連携などです。
ただし、無形の強みが特定の経営者や従業員だけに依存している場合、その人が退職すると失われる可能性があります。
強みを見つけるだけでなく、組織として再現・継承できる状態になっているかも確認しましょう。
VRIO分析で競争優位につながるか確認する
VRIO分析とは、自社が持つ経営資源を、価値、希少性、模倣困難性、組織の4つの観点から評価する方法です。
項目 意味 確認する質問
Value:価値 顧客課題の解決や収益向上につながるか 顧客はその能力へ対価を支払うか
Rarity:希少性 対応できる競合が少ないか 同じ対応ができる企業は何社あるか
Imitability:模倣困難性 他社が簡単に再現できないか 設備を買うだけでまねできるか
Organization:組織 継続的に活用できる体制があるか 営業・製造・品質が連携できるか
4項目をすべて満たす経営資源は、持続的な競争優位につながる可能性があります。
一方、価値はあっても希少性がなければ、多くの競合と比較され、価格競争へ陥りやすくなります。
VRIOの評価 想定される状態
価値がない 顧客に選ばれにくい
価値はあるが希少ではない 競争上の同等状態になりやすい
価値と希少性がある 一時的な優位を得られる可能性がある
模倣も難しい 優位を維持しやすくなる
組織的に活用できる 継続的な売上・利益につなげやすい
「高い技術力」という表現を具体化する
VRIO分析では、「技術力が高い」「品質がよい」「対応が早い」といった抽象的な言葉を避けます。
例えば、「高い技術力」は次のように具体化できます。
・難削材を指定精度で加工できる
・一般的な設備では加工できない寸法へ対応できる
・試作品を最短3営業日で納品できる
・加工から表面処理、検査まで一括管理できる
・顧客図面の問題点を製造前に指摘できる
・不良原因を測定データから分析できる
・材料ロットと加工履歴を製品単位で追跡できる
・多品種少量でも段取り時間を抑えられる
自社の強みを具体化する際は、次の形で整理すると営業へ利用しやすくなります。
◆自社の強み=対象顧客+解決する課題+提供する技術・体制+得られる効果+根拠
例えば、次のように表現します。
◆航空宇宙・半導体装置向けの少量部品について、難削材の精密加工から検査記録の作成まで一括対応し、発注先の管理負担と調達期間を削減できる。
この表現には、顧客、用途、提供内容、顧客の利益が含まれています。
さらに、保有設備、加工実績、精度、不良率、納期実績等を示せれば、強みの信頼性を高められます。
強みの価値は顧客によって変わる
同じ能力でも、顧客や市場が変われば評価は異なります。
自社の能力 評価されやすい顧客 評価されにくい顧客
小ロット対応 試作・開発案件 大量生産を求める顧客
短納期対応 設備修理、緊急部品 長期計画で大量発注する顧客
個別設計 自動化、医療福祉機器 標準品を安く求める顧客
厳格な品質記録 航空宇宙、医療、半導体 記録を必要としない低価格市場
地域密着対応 県内工場の保守・改善 全国一律仕様の大量購買
熟練技能 難加工、試作品 単純作業を価格で選ぶ市場
したがって、強みを先に決め、その後で無理に市場へ当てはめるのではなく、顧客が重視する条件と照合する必要があります。
「誰にとって価値がある強みなのか」を必ず明確にしましょう。
希少性は競合比較で判断する
自社だけが高いと考えていても、競合企業も同様の技術や設備を持っていれば、希少性はありません。
競合比較では、次の項目を確認します。
・対応できる材質
・加工できる寸法・精度
・ロット数
・納期
・価格
・設計対応
・検査体制
・認証
・一括対応できる工程
・生産能力
・営業地域
・顧客業界
・保守・アフターサービス
競合情報を調べる方法には、次のようなものがあります。
・競合企業のWebサイト
・展示会の出展企業一覧
・業界団体の会員情報
・設備メーカーからの情報
・顧客への聞き取り
・商談時の失注理由
・公的機関の企業データベース
・特許・認証情報
・求人情報
競合比較の目的は、他社より優れていると主張することではありません。
自社が正面から競争すべき市場と、競争を避けるべき市場を判断することです。
模倣困難性は設備の珍しさだけで決まらない
高額な設備や珍しい機械は、一定の参入障壁になります。
しかし、競合が同じ設備を購入すれば、設備だけの優位性は失われる可能性があります。
模倣されにくい強みには、複数の経営資源が組み合わされています。
・熟練技能と加工データ
・設計力と現場対応力
・特殊設備と品質保証体制
・顧客との長期的な信頼
・複数企業による供給ネットワーク
・独自の工程設計
・過去の失敗から蓄積したノウハウ
・営業、技術、製造の連携
・短納期を実現する生産管理
例えば、同じ工作機械を保有していても、加工条件、工具選定、治具設計、検査方法まで蓄積している企業は、競合が短期間で同じ品質と生産性を実現しにくくなります。
組織として強みを活用できるか確認する
価値があり、珍しく、まねされにくい技術を持っていても、営業担当者が説明できなければ受注につながりません。
また、一人の熟練者しか対応できなければ、受注量を増やせない可能性があります。
組織面では、次の内容を確認します。
・強みを経営者以外も説明できるか
・営業資料に実績や数値が記載されているか
・見積もりの基準が整理されているか
・技術や加工条件が文書化されているか
・複数の従業員が対応できるか
・品質記録を継続して残せるか
・顧客の要望を製造部門へ正確に伝えられるか
・問い合わせへ迅速に回答できるか
・受注後の生産能力を確保できるか
・採算を製品別に確認できるか
組織化できていない強みは、個人の技能や経験にとどまります。
手順書、教育、データ共有、標準化などを進め、会社の経営資源へ変える必要があります。
強みの根拠を数値と事実で示す
顧客は、自社の自己評価だけでは取引を判断できません。
強みを説明する際は、客観的な根拠を示します。
強み 根拠として使える情報
短納期 平均納期、最短納期、納期遵守率
高品質 不良率、クレーム件数、認証、検査体制
高精度 加工公差、測定設備、検査記録
提案力 改善件数、採用された提案件数
開発力 試作件数、量産化件数、共同開発実績
安定供給 継続取引年数、設備稼働率、代替体制
一括対応 対応工程、協力企業、管理方法
専門性 資格、経験年数、特許、受賞、論文
顧客名や製品名を公開できない場合は、秘密保持に配慮しながら、業界、用途、材質、課題、成果などを匿名化して示します。
「大手企業との取引実績あり」とだけ記載するより、どのような課題へ対応し、何を改善したかを説明した方が、自社の能力が伝わります。
バリューチェーン分析で価値を生む工程を見つける
バリューチェーン分析とは、顧客からの問い合わせから、設計、調達、製造、検査、納品、保守までの業務を分解し、どの工程で価値やコストが生じているかを確認する方法です。
製造業では、次のように整理できます。
工程 主な業務 生み出せる顧客価値
営業・相談 課題把握、仕様整理 顧客の検討負担を減らす
設計・試作 設計、解析、試作品 開発期間を短縮する
調達 材料・外注先の確保 一括調達と安定供給
製造 加工、成形、組立 品質、価格、納期
検査 測定、試験、記録 安全性と信頼性
納品 梱包、物流、在庫 必要な時期に供給する
保守 修理、改造、交換 設備停止時間を短縮する
改善 原因分析、工程提案 コストと不良を削減する
中小企業は、製造工程だけを自社の価値だと考えがちです。
しかし、顧客は加工そのものではなく、調達時間の短縮、不良の削減、管理業務の軽減、設備停止の回避などに価値を感じている場合があります。
例えば、同じ部品を製造する会社でも、次の企業では提供価値が異なります。
企業 提供内容 顧客が得られる価値
A社 図面どおりに加工する 加工品を入手できる
B社 材料調達から検査まで対応する 発注先を集約できる
C社 設計改善も提案する コストや不良を減らせる
D社 緊急時に現場で採寸・製作する 設備停止時間を短縮できる
設備や加工精度が同等でも、前後の工程まで対応することで差別化できる可能性があります。
SWOT分析はVRIOと市場分析をつなぐために使う
VRIO分析とバリューチェーン分析で確認した内部要因を、成長産業の市場環境と組み合わせるためにSWOT分析を利用できます。
区分 主な内容
強み 技術、人材、品質、納期、顧客関係
弱み 営業不足、人材不足、設備老朽化、資金不足
機会 市場拡大、政策支援、顧客課題、技術変化
脅威 競合参入、価格競争、需要変動、規制変更
SWOT分析では、項目を並べるだけでなく、組み合わせて戦略を考えます。
組み合わせ 主な考え方
強み×機会 強みを使って成長市場へ参入する
強み×脅威 強みを使って市場変化へ対応する
弱み×機会 外部連携や支援策で不足を補う
弱み×脅威 投資を抑える、撤退・縮小を検討する
例えば、精密加工を強みとする一方で営業人材が不足している企業が、半導体製造装置分野への参入機会を見つけた場合、展示会へ出展するだけでは不十分です。
装置業界に詳しい人材、商社、コーディネーター等と連携し、営業面の弱みを補う必要があります。
栃木県の成長産業で差別化・集中戦略を実行する方法
栃木県の成長産業で自社の強みを活かす戦略
自社の強みを確認した後は、どの顧客、用途、製品、工程を狙うかを決めます。
成長産業だからといって、幅広い企業へ同じ営業資料を送り、「何か仕事があればお願いします」と依頼しても、受注につながりにくいでしょう。
中小企業は、人材、資金、設備、営業時間が限られています。
限られた経営資源を成果へつなげるには、顧客が自社を選ぶ理由をつくる差別化戦略と、対象市場を絞る集中戦略が重要です。
2026年版中小企業白書では、成長投資、研究開発、人材育成、高付加価値化、差別化による価格設定などが、中小企業の稼ぐ力に関わる取り組みとして示されています。
出典:中小企業庁「2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要」
差別化戦略は「他社と違うこと」だけではない
差別化とは、他社と異なる製品を作ることだけではありません。
顧客が評価し、取引先を変更する理由になる違いをつくることです。
差別化できる要素は次のように分けられます。
差別化の要素 具体例
製品 精度、耐久性、軽量化、特殊材料
技術 難加工、設計、解析、制御
品質 検査、記録、トレーサビリティ
納期 試作、短納期、緊急対応
数量 小ロット、多品種、変動対応
対応範囲 材料調達、加工、組立、検査
提案 コスト低減、工程改善、設計変更
サービス 保守、修理、教育、導入支援
地域性 現場訪問、即日対応、地域ネットワーク
情報 データ共有、進捗確認、技術資料
差別化には、顧客が得られる効果が必要です。
例えば、「5軸加工機を保有している」という説明は、設備情報にすぎません。
次のように顧客価値へ変換します。
複数工程を5軸加工へ集約し、段取り替えによる誤差とリードタイムを減らせる。
この説明であれば、顧客は設備ではなく、品質や納期への効果を理解できます。
低価格だけの競争を避ける
価格は重要な取引条件ですが、低価格だけを競争力にすると、原材料費、人件費、エネルギー価格が上昇した際に利益を確保できません。
また、成長産業では、品質保証、開発、認証、設備等の追加負担が発生する場合があります。
価格競争を避けるには、次のような価値を価格へ反映させます。
・設計・試作期間の短縮
・発注先の集約
・不良率の低下
・検査業務の削減
・設備停止時間の短縮
・在庫量の削減
・管理書類の作成
・安定供給
・緊急対応
・保守・改造
2025年版中小企業白書の概要では、製品・商品・サービスの差別化や市場環境を意識した経営に取り組む事業者ほど価格転嫁が進み、競争力の強化につながっていることが示されています。
出典:中小企業庁「2025年版中小企業白書・小規模企業白書の概要」
原価へ一定の利益を加えるだけでなく、顧客が削減できる費用や得られる効果も確認し、価格の根拠を説明できるようにしましょう。
集中戦略で狙う市場を具体化する
集中戦略とは、対象とする顧客、地域、製品、用途、工程等を絞り、限られた経営資源を重点的に投入する方法です。
市場を絞る軸には、次のものがあります。
絞り込む軸 具体例
産業 自動車、航空宇宙、医療、半導体
顧客 完成品メーカー、装置メーカー、一次取引先
用途 試作、量産、設備保全、検査
技術 難削材、微細加工、画像処理、制御
数量 単品、小ロット、多品種、量産
地域 栃木県、北関東、首都圏
課題 人手不足、不良、納期、設備停止
取引段階 設計、試作、製造、検査、保守
例えば、「半導体産業へ参入する」という目標は広すぎます。
次のように絞り込むと、営業先と準備事項が明確になります。
北関東の半導体製造装置メーカーを対象に、少量・短納期のステンレス精密部品を、材料調達から洗浄・検査まで一括提供する。
この場合、必要になるのは、半導体そのものの製造技術ではありません。
装置メーカーの候補、部品仕様、洗浄・梱包条件、生産能力、品質記録等を確認することになります。
狭い市場を選ぶことは成長を諦めることではない
市場を絞ると、売上機会が減るように感じるかもしれません。
しかし、参入初期から複数の産業、顧客、製品へ同時に対応すると、営業資料、試作品、設備、人材が分散し、どの市場でも評価されない可能性があります。
最初は対象を絞り、取引実績とノウハウを蓄積した後、隣接市場へ展開する方が現実的です。
段階 主な取り組み
第1段階 一つの顧客課題へ対応する
第2段階 同じ顧客の別製品へ展開する
第3段階 同じ業界の別顧客へ展開する
第4段階 同じ技術を隣接産業へ展開する
第5段階 設計・保守等へ提供範囲を広げる
例えば、自動車向け治具で実績を得た企業が、その設計・製作能力をロボットハンド、半導体装置用治具、医療機器の組立治具へ展開する方法が考えられます。
一つの市場で得た実績を、別市場で通用する証拠へ変えることが重要です。
顧客が取引先を変更する理由を確認する
新規参入企業が優れた技術を持っていても、顧客には既存の取引先があります。
顧客が現在の取引先へ不満を感じていなければ、新たな企業を評価し、監査し、登録する負担を負う理由がありません。
したがって、顧客が取引先を追加・変更する場面を把握する必要があります。
・既存取引先の供給能力が不足している
・納期遅延が発生している
・品質問題が続いている
・廃業・事業承継の問題がある
・特定企業への依存を下げたい
・新製品で新しい技術が必要になった
・コストを見直したい
・試作や小ロットへ対応できない
・緊急時の代替先を確保したい
・地域に近い取引先を探している
新規営業では、自社の会社概要を説明するだけでなく、顧客が新しい取引先を必要とする理由を確認しましょう。
市場評価表で参入候補を比較する
複数の成長産業へ展開できる可能性がある場合は、経営者の興味だけで一つを選ばず、評価項目を決めて比較します。
評価項目 確認内容
顧客ニーズ 具体的な課題・引き合いがあるか
自社との適合 既存技術や設備を活用できるか
差別化 競合より選ばれる理由があるか
参入障壁 認証、規制、設備、品質要求
市場到達性 顧客へ接触できるか
収益性 売上、粗利益、継続性
投資額 設備、開発、人材、認証費
参入期間 初受注までに必要な期間
組織能力 担当者と生産能力を確保できるか
リスク 顧客依存、需要変動、技術流出
各項目を5段階などで評価し、総合点だけでなく、致命的な条件がないかを確認します。
例えば、市場性と技術適合性が高くても、必要な設備投資を調達できない、品質責任者を配置できない場合は、すぐに参入できません。
不足する経営資源を、採用、教育、共同開発、外注、支援機関等によって補えるか検討します。
市場規模より自社が獲得できる売上を確認する
成長産業の市場規模が大きくても、自社が獲得できる売上は限られます。
参入計画では、次の順番で売上を試算します。
①対象となる顧客数を確認する
②接触できる顧客数を見積もる
③商談へ進む割合を設定する
④試作・見積もりへ進む割合を設定する
⑤受注率を設定する
⑥1社当たりの売上と粗利益を試算する
⑦継続受注率を設定する
例えば、対象企業が100社あっても、実際に接触できる企業が20社、商談へ進む企業が5社、受注が1社であれば、売上計画は1社当たりの予定受注額を基準に作ります。
◆見込み売上=対象顧客数×接触率×商談化率×受注率×平均受注額
計算上の売上だけでなく、試作費、営業費、設備費、人件費を差し引いた粗利益・営業利益も確認しましょう。
顧客への聞き取りで仮説を検証する
机上の分析だけでは、顧客が本当に困っていることや、取引条件を把握できません。
想定顧客、既存取引先、商社、装置メーカー、業界経験者等へ聞き取りを行います。
主な質問は次のとおりです。
・現在どのような課題がありますか
・調達先を選ぶ際に何を重視しますか
・現在の取引先に不足している点はありますか
・今後必要になる技術や部品は何ですか
・新規取引先に求める認証・設備は何ですか
・試作から量産までどの程度かかりますか
・発注数量と価格帯はどの程度ですか
・取引開始までに監査や評価がありますか
・当社の技術はどの用途へ使えそうですか
・採用できない理由があるとすれば何ですか
「当社の製品を買いますか」と聞くだけでは、相手が肯定的な回答をする場合があります。
現在の調達方法、困っている具体的な場面、予算、意思決定者など、過去と現在の事実を聞くことが重要です。
試作・小規模実証から参入する
新市場では、顧客と自社の双方が取引リスクを抱えます。
最初から大規模な量産や完成品開発を目指すのではなく、試作、小ロット、工程の一部、実証実験等から始める方法があります。
小さく始める方法 確認できる内容
試作品 技術適合性、品質、顧客評価
小ロット受注 原価、納期、生産能力
工程の一部受託 顧客の品質・管理要求
共同開発 役割分担、技術課題、需要
現場実証 導入効果、操作性、安全性
テスト販売 購入者、価格、販売経路
試作段階でも、無償対応を続けないことが重要です。
有償・無償の範囲、成果物、知的財産、追加修正、量産移行条件を事前に決めましょう。
強みを営業資料へ変換する
分析した強みは、顧客が短時間で理解できる営業資料へまとめます。
営業資料には、少なくとも次の内容を記載します。
・対応できる業界・用途
・解決できる顧客課題
・主な技術・設備
・対応できる材質、寸法、精度
・ロット数
・納期
・品質管理体制
・認証
・実績・事例
・一括対応できる工程
・問い合わせ先
設備一覧だけで終わらせず、「どのような仕事を依頼できる会社か」を最初に示します。
抽象的な表現 顧客へ伝わる表現
高品質です 全数検査とロット別記録に対応します
短納期です 試作品は条件により最短3営業日で対応します
一貫生産です 材料調達、加工、表面処理、検査まで一括管理します
提案力があります 工程集約によるコスト・納期改善を提案します
柔軟に対応します 単品、図面なし、設備修理用部品にも対応します
実際に対応できない納期や精度を記載すると、信用を失います。数値には、材質、形状、数量等の前提条件を付けましょう。
営業活動をKPIで管理する
成長産業への参入は、最初の商談から受注まで時間がかかる場合があります。
売上だけを成果指標にすると、受注前の進捗を確認できません。
段階 主なKPI
市場調査 調査した企業数、聞き取り件数
顧客 接触問い合わせ、訪問、展示会面談数
商談 課題を把握できた商談数
技術評価 図面受領、工場監査、試作依頼数
見積もり 見積提出数、見積回答日数
試作 試作件数、合格率、修正回数
受注 新規顧客数、受注額、粗利益
継続 リピート率、量産移行率
投資回収 累積利益、投資回収期間
商談件数が増えても、図面受領や見積もりへ進まなければ、顧客や提案内容が合っていない可能性があります。
見積もりが多くても受注率が低い場合は、価格だけでなく、品質、納期、実績、認証等の不足を確認します。
差別化戦略を定期的に見直す
成長産業では、技術、競合、顧客ニーズが変化します。
現在の強みが、将来も競争優位になるとは限りません。
少なくとも半年または1年ごとに、次の内容を見直しましょう。
・顧客からの相談内容
・受注・失注理由
・製品別・顧客別の粗利益
・競合の設備・技術
・新しい規制・認証
・顧客の生産・投資計画
・自社設備の稼働率
・従業員の技能
・外注先・協力企業
・新たに必要な技術
強みを守るだけでなく、顧客ニーズの変化に合わせて、研究開発、人材育成、設備投資、外部連携を行う必要があります。
成長産業で選ばれる企業になるには、流行する分野へ参入することではなく、自社の経営資源を顧客価値へ変え、競合との違いを継続してつくることが重要です。
次章では、分析した強みと差別化戦略を基に、栃木県企業が成長産業へ参入する手順を、市場調査、顧客開拓、試作、設備投資、人材・外部連携の流れに沿って解説します。
栃木県の成長産業へ参入する方法
栃木県の成長産業へ参入する方法
栃木県の成長産業へ参入するには、自社の技術を売り込むだけでなく、顧客が抱える課題を把握し、要求仕様、品質、価格、供給体制まで含めて対応する必要があります。
優れた加工技術や開発力があっても、顧客の調達条件を満たしていなければ受注にはつながりません。反対に、現在の技術が完成品へ直接使われなくても、治具、検査、保守、ソフトウェア、周辺サービスなどへ用途を変えることで参入できる場合があります。
参入方法は、完成品メーカーとの直接取引に限られません。
参入方法 主な内容
直接参入 完成品メーカーや事業会社へ部品・製品・サービスを供給する
間接参入 一次・二次サプライヤー、商社、システム会社等を通じて供給する
共同開発 大学、研究機関、他社等と技術や製品を開発する
用途転換 既存技術を別の産業や工程へ応用する
周辺領域への参入 治具、検査、保守、物流、教育、データ分析等を提供する
自社製品化 受託加工等で培った技術を基に、自社製品やサービスを開発する
スタートアップ等との連携 新しい技術と自社の生産・品質管理能力を組み合わせる
最初から大口の量産受注を目指す必要はありません。
市場調査、顧客ヒアリング、試作、評価、小規模受注を通じて、技術面と採算面の両方を確認します。各段階で継続・修正・中止を判断する仕組みを設ければ、過大な設備投資や開発費の発生を防ぎやすくなります。
栃木県の2026年度事業では、未来技術に関する支援を「知る」「試す」「つなぐ」「育てる」の段階に分け、参入相談、技術マッチング、実証、人材育成などを行う方針が示されています。
出典:栃木県「令和8(2026)年度とちぎ未来技術フォーラム事業計画」
栃木県の成長産業へ参入する手順|市場調査から受注まで
栃木県の成長産業へ参入する際は、展示会への出展や設備の購入から始めるのではなく、参入目的と対象市場を明確にします。
一般的な流れは次のとおりです。
・参入目的と目標を決める
・対象とする産業・用途・顧客を絞る
・市場構造と参入経路を調査する
・顧客の要求仕様、認証、法規制を確認する
・顧客ヒアリングを行う
・自社の提案価値と不足能力を整理する
・試作・実証の条件を決める
・顧客評価と改善を繰り返す
・取引先登録、監査、見積もりへ対応する
・小規模受注から量産・継続取引へ移行する
各段階で成果物と判断基準を設定します。
段階 主な成果物 継続を判断する基準
目的設定 参入目的、売上・利益目標、期限 既存事業との相乗効果があるか
市場調査 対象市場、用途、顧客候補一覧 解決可能な顧客課題があるか
要求確認 仕様、認証、法規制、品質条件 自社または連携先で対応できるか
顧客検証 ヒアリング記録、課題 仮説顧客が費用を負担する課題か
試作・実証 試作品、評価結果、改善事項 技術・品質・費用の目標を満たすか
取引準備 見積書、品質資料、供給計画 継続供給と採算を両立できるか
初回受注 製品・サービス、納入実績 再受注や横展開の可能性があるか
事業化 量産計画、投資計画、KPI 必要利益と投資回収を見込めるか
参入目的を売上以外も含めて決める
「成長が期待できるから」という理由だけでは、対象市場や必要な投資を判断できません。
最初に、成長産業へ参入する目的を具体化します。
・既存事業の売上減少を補う
・特定顧客への依存度を下げる
・既存設備の稼働率を高める
・高付加価値案件を増やす
・自社技術の新しい用途を開発する
・若手人材を採用・育成する
・自社製品やサービスを開発する
・県外・海外へ販路を広げる
・脱炭素化や省人化の需要を取り込む
・将来の事業承継に向けて事業価値を高める
目的によって、適切な参入方法は異なります。
既存設備の稼働率向上が目的であれば、短期間で受注できる部品加工や試作案件が候補になります。自社製品化が目的であれば、市場調査、知的財産、販売体制まで含む中長期的な計画が必要です。
目標には、売上高だけでなく期限と採算を設定しましょう。
目標項目 設定例
顧客開拓 12か月以内に有望顧客5社と面談する
試作 18か月以内に有償試作を2件実施する
受注 24か月以内に初回受注を獲得する
売上 3年後に対象分野の売上比率を10%にする
収益 開発費と追加固定費を含めて黒字化する
顧客分散 最大顧客への売上依存度を引き下げる
技術 必要な加工、検査、設計能力を社内へ蓄積する
人材 対象分野を担当できる技術者と営業担当者を育成する
対象市場を産業名だけで決めない
「自動車」「半導体」「医療福祉機器」といった産業名だけでは、顧客や必要技術を特定できません。
同じ産業内でも、用途や工程によって要求される品質、数量、価格、納期は異なります。
例えば、半導体分野には次のような市場があります。
・製造装置の部品
・搬送・位置決め機構
・真空・温度制御関連
・洗浄、表面処理
・画像検査
・工場の自動化
・装置保守
・消耗品
・工場設備・省エネルギー
・データ収集・解析
自社が対応できる顧客課題まで細分化しましょう。
◆対象市場=産業×顧客の種類×用途・工程×提供方法×対象地域
例えば、「半導体産業へ参入する」ではなく、「半導体製造装置メーカー向けに、少量・短納期の精密加工部品を供給する」と定めれば、調査すべき顧客、競合、設備、品質条件が明確になります。
市場規模よりも顧客の購買条件を調べる
市場規模が拡大していても、自社が受注できるとは限りません。
中小企業が参入判断を行う際は、次の情報を優先して確認します。
・誰が製品・サービスを購入するか
・誰が仕様を決めるか
・誰が取引先を選定するか
・現在は何をどこから購入しているか
・既存の供給先にどのような不満があるか
・新規取引先へ切り替える条件は何か
・必要な品質、価格、納期、供給量はいくらか
・取引先登録や工場監査が必要か
・認証や業界規格が必要か
・試作から量産までどの程度の期間がかかるか
・価格決定権を誰が持つか
・市場へ直接参入できるか、商社等を介するか
Webサイトや統計だけでなく、展示会、業界団体、商談会、取引先、専門家へのヒアリングを組み合わせます。
対象企業を一覧化する場合は、次の情報を整理しましょう。
調査項目 主な内容
企業情報 所在地、規模、事業内容、主要製品
調達対象 部品、材料、装置、ソフトウェア、サービス
自社との接点 既存取引先、金融機関、商社、支援機関等
推定課題 人手不足、短納期、品質、コスト、脱炭素等
参入経路 直接取引、一次サプライヤー、共同開発等
要求条件 認証、監査、供給量、試作、情報管理
優先度 市場性、自社適合度、接触可能性、採算性
次の行動 紹介依頼、面談、展示会、提案書送付等
バリューチェーンから参入位置を選ぶ
完成品メーカーとの直接取引が難しい場合でも、別の工程や取引階層から参入できる可能性があります。
成長産業のバリューチェーンには、次のような役割があります。
・研究開発
・設計
・材料供給
・部品加工
・表面処理
・組立
・検査
・搬送・物流
・システム構築
・販売
・保守・修理
・回収・再資源化
・教育・人材育成
・データ分析
自社の強みが顧客の完成品へ直接組み込まれなくても、製造装置、治具、検査工程、保守等で価値を提供できる場合があります。
例えば、高精度な測定能力を持つ会社は、部品の製造だけでなく、測定受託、検査治具の設計、品質データの作成支援などへ展開できます。
直接参入にこだわらず、自社が価値を提供しやすく、競争相手が少ない位置を探しましょう。
業種ごとの要求条件を早期に確認する
参入後に認証や法規制への対応不足が判明すると、開発や設備投資が無駄になる可能性があります。
分野 主に確認する内容
自動車 品質保証、変更管理、トレーサビリティ、安定供給、原価低減
航空宇宙 高度な品質管理、特殊工程、文書管理、長期的な供給責任
医療福祉機器 製品区分、許認可、品質管理、安全性、臨床・使用環境
半導体 精度、清浄度、材料、洗浄、微量汚染、短納期、供給継続
ロボット 安全性、システム統合、現場適合、保守、費用対効果
宇宙 信頼性、軽量化、耐環境性、試験、少量生産、文書管理
必要条件は、製品、取引先、担当工程によって異なります。
認証を取得すれば自動的に受注できるわけではありません。顧客が本当に求めている認証か、取得前に確認することが重要です。
顧客ヒアリングで課題の事実を確認する
顧客ヒアリングでは、「自社製品を買ってもらえるか」と尋ねるだけでは十分な情報を得られません。
顧客の意見よりも、現在起きている事実を確認します。
・現在どの工程で問題が起きているか
・問題はどの程度の頻度で発生しているか
・不良、停止、残業等による損失はいくらか
・現在はどのように対処しているか
・既存の解決方法に何が不足しているか
・誰が問題解決を決裁するか
・予算はどの部門が持っているか
・導入判断に必要なデータは何か
・いつまでに解決する必要があるか
・新しい取引先を採用できない理由は何か
・試作や実証を行う意思があるか
・有償で評価する可能性があるか
「良い製品なら検討する」という回答だけでは、市場性を確認できません。
顧客が実際に費用や人員を使って対策している課題、経営上の損失が発生している課題を優先します。
また、使用者、技術担当者、購買担当者、経営者では評価基準が異なります。
関係者 主な関心
使用者 操作性、安全性、作業負担
技術担当者 性能、仕様、既存設備との接続
品質担当者 不良、検査、記録、変更管理
購買担当者 価格、納期、供給力、取引条件
経営者 投資効果、事業継続、競争力
情報システム担当者 セキュリティ、データ連携、保守
法務・知財担当者 契約、責任範囲、知的財産
一人の意見だけで判断せず、導入へ影響する関係者を把握しましょう。
自社の提案価値を顧客の成果で表す
「高品質」「高い技術力」「柔軟な対応」といった表現だけでは、他社との違いが伝わりません。
自社の技術を、顧客が得られる成果へ置き換えます。
技術中心の表現顧客価値を示す表現
高精度加工ができる組立調整を減らし、製造時間を短縮できる
小ロットに対応できる開発初期の仕様変更へ柔軟に対応できる
画像認識技術がある目視検査を自動化し、検査記録を保存できる
表面処理技術がある耐久性を高め、交換頻度を減らせる
地域密着である緊急時に現場確認と短納期対応ができる
設計から加工まで対応する発注先を一本化し、調整業務を減らせる
提案書には、可能な限り数値を記載します。
・対応できる寸法・材質・精度
・最小・最大ロット
・標準納期
・不良率
・設備能力
・検査方法
・過去の改善率
・導入前後の工数
・保守対応時間
・年間削減額の試算
秘密保持の必要がある実績は、顧客名を伏せて、業種、課題、対応内容、成果を説明します。
顧客へ開示する情報を段階的に増やす
技術提案では、図面、加工条件、原価、顧客情報などの秘密情報を扱う場合があります。
最初から詳細情報をすべて開示せず、商談の進行に応じて情報を分けます。
段階 主に開示する情報
初期接触 会社概要、対応技術、一般的な実績
課題確認 対応可能範囲、概算費用、想定効果
秘密保持契約後 詳細仕様、図面、技術資料、評価データ
試作契約後 製造条件、役割分担、知的財産、試験方法
量産交渉 原価、供給能力、品質保証、事業継続計画
秘密保持契約では、秘密情報の範囲、利用目的、開示できる関係者、保管方法、返却・廃棄、契約終了後の義務などを確認します。
自社の秘密情報だけでなく、相手から受け取った図面やデータを社内でどのように管理するかも決めましょう。
試作・実証の条件を契約前に決める
試作やPoCは、技術的に作れるかを確認するだけではありません。
顧客の環境で効果が得られるか、量産や本導入へ移行できるかを判断する工程です。
少なくとも次の事項を明確にします。
・解決する課題
・試作品や実証の範囲
・成功条件
・評価方法
・実施場所
・双方の担当者
・提供する設備・データ
・費用負担
・納期
・仕様変更の手続き
・成果物の所有権
・発明や改良技術の知的財産
・不具合が起きた場合の責任
・実証後の撤去・原状回復
・量産・本導入へ進む条件
「まずは無料で試してほしい」という依頼を無条件に受けると、試作を繰り返しても事業化できない可能性があります。
試作費には、材料費や加工費だけでなく、設計、打ち合わせ、治具、試験、報告書、輸送、現地対応等を含めます。
無料または低価格で行う場合も、得られるデータ、実績公開、次の商談、量産時の条件などを明確にしましょう。
取引先登録と監査へ準備する
技術評価に合格しても、直ちに取引を開始できるとは限りません。
顧客によっては、次の確認が行われます。
・会社の財務状況
・品質管理体制
・製造工程
・検査設備
・不良発生時の対応
・トレーサビリティ
・変更管理
・情報セキュリティ
・災害・事故時の事業継続
・環境・人権・労働安全への対応
・外注先の管理
・輸出管理・経済安全保障
・反社会的勢力の排除
・賠償責任保険等への加入
監査の直前に書類を整えるだけでは、日常業務と記録が一致しない可能性があります。
手順書、記録、責任者、是正措置の流れを整え、実際の業務として運用しましょう。
初回受注を次の受注へつなげる
初回受注では、売上額よりも実績と学習を重視する場合があります。
納品後は、次の内容を確認します。
・顧客の評価
・要求仕様を満たしたか
・不具合や追加対応がなかったか
・見積原価と実際原価の差
・自社の負担が想定を超えていないか
・顧客の次の開発・調達予定
・別部門・別工場へ展開できるか
・同じ課題を持つ他社へ提案できるか
・公開可能な導入事例にできるか
・継続受注に必要な改善は何か
成長産業への参入成果は、売上だけでは測れません。
分野 主なKPI
顧客開拓 候補企業数、紹介件数、面談数
案件化 課題確認件数、提案件数、見積件数
開発 試作件数、評価合格率、仕様変更回数
受注 初回受注数、受注率、平均単価
継続 再受注率、顧客継続率、横展開件数
収益 粗利益、開発費、営業費、投資回収
品質 不良率、返品、手直し、納期遵守率
人材 担当者数、教育時間、技能習得状況
技術 特許、ノウハウ、標準化した工程
顧客分散 対象分野の顧客数、特定顧客依存度
面談数が増えても試作へ進まない場合は、対象顧客や提案内容を見直します。試作は多いものの受注できない場合は、価格、品質、量産能力、意思決定者への接触を確認します。
撤退・中止の基準も事前に決める
すべての参入計画を継続する必要はありません。
次のような状況では、対象市場、用途、参入方法の変更や計画の中止を検討します。
・顧客課題を確認できない
・無償試作だけが続く
・必要な認証や設備投資が過大である
・目標価格では利益を確保できない
・顧客が一社に限られ、ほかへ展開できない
・必要人材を確保できない
・外部連携によっても技術的な不足を補えない
・試作評価を繰り返しても改善できない
・既存事業へ重大な負担が生じる
・開発期間が長期化し、資金が不足する
・市場環境や顧客方針が変わった
撤退は失敗とは限りません。
得られた技術、顧客情報、評価データを別の用途へ転用できる場合があります。複数の参入候補を比較し、可能性の高い案件へ人材と資金を集中しましょう。
栃木県の成長産業への参入に必要な設備・人材・外部連携
栃木県の成長産業への参入に必要な設備・人材・外部連携
栃木県の成長産業へ参入するために必要な経営資源は、設備だけではありません。
営業、設計、品質保証、知的財産、資金管理、外部連携などを含む体制が必要です。
最初に、顧客の要求と自社の現状との差を整理します。
経営資源 主な確認事項
技術 加工、設計、材料、ソフトウェア、評価能力
設備 生産能力、精度、検査、保守、更新時期
人材 営業、技術、品質、製造、管理の担当者
品質 手順、記録、変更管理、トレーサビリティ
知的財産 特許、ノウハウ、図面、データの管理
販売 顧客接点、提案資料、商社・代理店
財務 開発費、運転資金、設備資金、回収期間
外部連携 大学、試験研究機関、他社、専門家
経営管理 責任者、予算、KPI、継続判断
リスク管理 法規制、情報管理、供給停止、事故対応
不足する経営資源は、すべて自社で保有する必要はありません。
次の方法を比較します。
対応方法主な特徴
自社で構築するノウハウを蓄積しやすいが、時間と固定費がかかる
採用する必要な経験を得られるが、採用・定着に課題がある
購入する設備等を継続利用できるが、稼働率が低いと負担になる
外注する初期投資を抑えられるが、納期・品質・秘密管理が課題になる
共同利用する高額設備を利用しやすいが、利用条件や予約の確認が必要になる
他社と連携する相互の強みを活かせるが、役割と利益配分の調整が必要になる
大学等と共同研究する専門知識を活用できるが、事業化まで時間がかかる場合がある
M&A・事業提携を行う経営資源をまとめて得られる可能性があるが、費用と統合負担がある
顧客需要を確認してから設備投資を行う
新しい設備を導入すれば参入できるとは限りません。
設備投資前に、少なくとも次の内容を確認します。
・具体的な顧客候補がいるか
・顧客の要求仕様を満たす設備か
・試作と量産のどちらへ使うか
・想定受注量はいくらか
・必要な稼働率を確保できるか
・既存設備で代替できないか
・外注や共同利用の方が適切ではないか
・設置場所、電源、空調等を確保できるか
・操作・保守できる人材がいるか
・検査設備も必要ではないか
・材料費や人件費を含めて利益が出るか
・顧客仕様が変わった場合に転用できるか
・設備故障時の代替手段があるか
・投資回収までの資金繰りを維持できるか
投資採算は、設備本体の価格だけで判断しません。
◆総投資額=設備本体+設置工事+治具・工具+検査設備+教育+保守+認証+立上げ損失+運転資金
例えば、加工設備を導入しても、測定・洗浄・梱包の能力が不足していれば、顧客の要求を満たせない場合があります。
設備ごとの稼働率、限界利益、維持費を試算し、受注が計画の半分にとどまった場合でも資金繰りを維持できるか確認しましょう。
試作段階では外部設備を活用する
需要が確定していない段階では、外注、レンタル、共同利用設備などを活用する方法があります。
栃木県産業技術センターでは、技術相談、依頼試験、施設・機器の利用、研究開発、人材育成などの支援を行っています。利用可能な設備、料金、予約、対象者、試験結果の取扱い等は事前に確認してください。
出典:栃木県産業技術センター
外部設備を利用することで、次の内容を確認できます。
・想定する加工や試験が可能か
・必要な精度を実現できるか
・顧客が求める評価データを取得できるか
・社内へ設備を導入する必要があるか
・操作できる人材を育成できるか
・試作費と量産費の差はいくらか
・外注を継続した場合の納期と採算はどうか
試作段階では外部設備を使い、受注見込みが高まってから自社設備を導入するなど、段階的に投資しましょう。
営業・技術・品質を組み合わせた参入チームをつくる
成長産業への参入を技術者一人へ任せると、通常業務と並行できず、活動が止まる可能性があります。
少なくとも次の役割を決めます。
役割 主な業務
経営責任者 参入方針、予算、継続・撤退の判断
プロジェクト責任者 全体進行、部門間調整、KPI管理
営業担当 顧客探索、ヒアリング、提案、商談
技術担当 仕様確認、設計、試作、技術課題の解決
製造担当 工程設計、生産能力、原価、納期管理
品質担当 検査、記録、監査、変更・不良対応
財務担当 投資判断、資金調達、採算・資金繰り管理
法務・知財担当 契約、秘密保持、知的財産、法規制
外部連携担当 大学、支援機関、連携企業との調整
小規模企業では一人が複数の役割を兼ねる場合があります。その場合でも、誰が何を決めるかを明確にします。
特に品質保証や契約確認を開発の最終段階まで後回しにすると、顧客要求へ対応できず、試作をやり直す可能性があります。営業、技術、製造、品質が初期段階から情報を共有しましょう。
必要人材を職種名ではなく業務で定義する
「AI人材」「半導体人材」といった名称だけでは、採用・育成すべき能力が分かりません。
必要な業務を分解します。
・顧客の技術課題を聞き取る
・仕様書や図面を読解する
・原価と見積もりを作成する
・試作工程を設計する
・製造条件を設定する
・測定・検査を行う
・品質記録を作成する
・データを収集・分析する
・法規制や認証へ対応する
・外注先を管理する
・顧客監査へ対応する
・不具合の原因を分析する
・製造工程を標準化する
・顧客へ技術説明を行う
そのうえで、社内育成、採用、外部専門家のどれで補うかを決めます。
一人の専門人材へ依存すると、退職や異動によって参入活動が止まる可能性があります。業務手順、加工条件、顧客との合意事項、失敗事例を文書化し、複数人が対応できる体制を整えましょう。
栃木県の2026年度事業計画でも、三次元CAD、マシニングセンタ、航空宇宙分野の図面・加工・精密測定などに関する人材育成が予定されています。研修の内容、対象者、開催時期は年度ごとに確認が必要です。
出典:栃木県「令和8(2026)年度とちぎ未来技術フォーラム事業計画」
不足する技術は外部連携で補う
自社だけで製品やサービスを完成させられない場合は、外部の技術や販路を組み合わせます。
連携先 主な役割
大学・高等専門学校 基礎研究、解析、専門人材、共同研究
公設試験研究機関 技術相談、試験、測定、設備利用
同業・異業種企業 加工、設計、材料、ソフトウェア等の補完
大手企業・事業会社 顧客課題、実証環境、販売・量産
スタートアップ 新技術、ソフトウェア、事業モデル
商社 顧客紹介、調達、輸出入、契約・物流
システムインテグレーター ロボット、設備、IT等の統合
金融機関 資金調達、取引先紹介、事業計画支援
弁護士・弁理士 契約、知的財産、規制、紛争予防
コンサルタント等 市場調査、品質、認証、事業化支援
栃木県の2026年度事業では、成長産業参入コーディネーターや専門家派遣、企業間マッチング、産学官金連携、企業と産業技術センターによる共同研究などが計画されています。
出典:栃木県「令和8(2026)年度とちぎ未来技術フォーラム事業計画」
ただし、紹介やマッチングを受ければ、自動的に共同開発や受注へ進むわけではありません。
相談前に、次の内容を一枚程度に整理しましょう。
・自社の技術と設備
・解決したい顧客課題
・対象市場・用途
・現在の開発段階
・不足している技術・人材
・希望する連携先
・自社が提供できるもの
・連携先へ期待するもの
・想定スケジュール
・予算
・秘密保持の必要性
・事業化後の販売方法
「良い連携先を紹介してほしい」だけでなく、自社が何を提供し、何を補ってほしいのかを明確にすることが重要です。
共同開発では役割と成果の帰属を決める
共同開発では、技術的な成功だけでなく、成果の利用条件が問題になることがあります。
開始前に、次の事項を確認します。
・開発目的
・各社の担当範囲
・費用負担
・設備・材料の提供
・意思決定方法
・開発スケジュール
・評価方法
・既存技術の所有者
・新たに生まれた発明・ノウハウの帰属
・特許出願の費用と手続き
・成果を利用できる分野・地域
・第三者への販売・許諾
・秘密情報の管理
・成果公表の条件
・開発中止時の取扱い
・製品事故・不具合の責任
・量産・販売時の利益配分
共同開発前から各社が保有していた技術と、共同開発で新たに生まれた技術を分けて記録します。
補助金を利用した共同事業でも、知的財産や事業化後の利益配分が自動的に決まるわけではありません。契約内容を弁護士や弁理士等へ確認しましょう。
複数企業の連携では代表者と意思決定方法を明確にする
複数の中小企業が連携すれば、設計、加工、表面処理、検査、組立まで一括で提案できる可能性があります。
一方、責任者が不明確だと、見積もり、品質、不具合対応が進みません。
連携体では、次の内容を決めます。
項目 主な確認事項
顧客窓口 どの企業が顧客と契約・連絡するか
見積もり 各社原価を誰が集計し、価格を決めるか
品質保証 最終品質を誰が保証するか
変更管理 図面や仕様の変更を誰が承認するか
納期管理 全体工程を誰が管理するか
不具合対応 原因調査、再製作、補償をどう分担するか
知的財産 既存技術と共同成果をどう扱うか
利益配分 売上・利益・追加費用をどう分けるか
情報管理 顧客情報や図面をどこまで共有するか
撤退 一社が離脱した場合にどう対応するか
各社の設備一覧をまとめるだけでなく、顧客へ一つの価値として提案できる体制をつくる必要があります。
開発資金と運転資金を分けて管理する
成長産業への参入では、受注前に費用が発生し、売上の計上や入金まで時間がかかる場合があります。
必要資金を段階別に整理します。
段階 主な資金
市場調査 調査、展示会、出張、専門家費用
技術開発 人件費、材料、外注、共同研究
試作・実証 試作品、治具、試験、現地対応
認証・取引準備 認証、監査、規程、検査設備
量産準備 生産設備、金型、材料、教育
販路開拓 広告、展示会、営業、サンプル
受注後 材料、外注、在庫、売掛金等の運転資金
維持・成長 保守、更新、追加人員、改良開発
助成金や補助金を利用できる場合でも、一般的には対象経費、事業期間、申請時期等の条件があります。交付決定前の契約・発注が対象外になる場合や、支払い後に補助金が交付される場合もあります。
補助金の採択を前提に、自己資金で負担できない事業を開始しないよう注意しましょう。
◆必要資金=自己負担額+補助金入金までの立替資金+対象外経費+運転資金+予備費
制度の有無や条件は年度によって変わるため、申請前に最新の公募要領を確認する必要があります。
90日単位で参入活動を管理する
成長産業への参入は成果が出るまで時間がかかるため、日常業務に埋もれやすい取り組みです。
最初の90日間では、例えば次の活動を行います。
時期 主な取り組み
1~30日 参入目的、対象市場、責任者、予算を決める
31~60日 顧客候補、要求仕様、競合、参入経路を調査する
61~90日 顧客ヒアリング、外部相談、提案内容の修正を行う
その後は、試作、顧客評価、取引準備、初回受注へ進みます。
定例会議では、活動量だけでなく、次の判断を行いましょう。
・対象市場を継続するか
・顧客候補を変更するか
・提案価値を修正するか
・自社開発と外部連携のどちらを選ぶか
・試作費を追加するか
・設備投資へ進むか
・採用・育成が必要か
・価格と採算を見直すか
・計画を中止・延期するか
経営者が期待だけを示し、担当者へ活動を任せるだけでは、長期的な参入は難しくなります。
経営者は、予算、優先順位、部門間の調整、投資判断、撤退判断を担う必要があります。
参入時の主なリスクと対応策を整理する
主なリスク 対応策
市場規模だけで参入を決める 顧客ヒアリングで具体的な購買条件を確認する
顧客一社へ依存する 複数顧客・複数用途への展開可能性を調べる
設備を先に購入する 外注・共同利用で試作し、需要を確認する
無償試作が続く 実証範囲、費用、次段階の条件を契約する
技術者へ負担が集中する 営業・品質・財務を含むチームを設ける
認証取得が目的になる 顧客が求める認証か事前に確認する
連携先との役割が曖昧になる 契約で責任、費用、知財、利益配分を決める
原価を回収できない 開発・試作・量産の費用を分けて見積もる
情報が漏えいする 開示範囲、アクセス権、秘密保持を管理する
既存事業が弱体化する 人員・資金の上限を決め、定期的に評価する
補助金へ依存する 不採択でも実行可能な規模へ調整する
受注後に供給できない 生産能力、外注先、代替設備、運転資金を確認する
栃木県の成長産業へ参入するためには、市場の成長性と自社技術の高さだけでなく、顧客課題、要求仕様、採算、供給体制を結び付ける必要があります。
市場調査と顧客ヒアリングによって需要を確認し、試作・実証で技術と費用を検証したうえで、設備、人材、品質管理へ段階的に投資しましょう。
自社だけで不足する経営資源は、大学、公設試験研究機関、連携企業、商社、金融機関、専門家等を活用して補えます。ただし、外部へ任せる場合も、参入目的、顧客価値、採算、最終的な責任は自社で管理することが重要です。
次章では、栃木県の成長産業への参入や技術開発、販路開拓、人材育成に活用できる相談先、支援機関、補助金・助成制度について、利用時の注意点とともに解説します。
栃木県の成長産業で活用できる支援機関・補助金
栃木県の成長産業で活用できる支援機関・補助金
栃木県の成長産業へ参入する際は、市場調査、技術開発、試作、設備投資、認証取得、販路開拓、人材育成など、複数の課題へ対応する必要があります。
これらをすべて自社だけで進める必要はありません。
栃木県内には、経営相談、技術相談、試験・測定、共同研究、企業間マッチング、海外展開、資金調達などを支援する機関があります。また、技術開発、設備導入、実証、展示会出展、認証取得等の費用を対象とする補助金・助成金が実施される場合もあります。
ただし、相談先や支援制度によって、対象企業、支援内容、費用、募集期間が異なります。
課題 主な相談先
参入分野を決めたい 栃木県、栃木県産業振興センター、よろず支援拠点
自社の強みを整理したい 中小企業診断士、成長産業参入支援専門家
技術的な課題を相談したい 栃木県産業技術センター、大学、高等専門学校
試験・測定を行いたい 栃木県産業技術センター、民間試験機関
共同開発先を探したい 栃木県、産業振興センター、大学、金融機関
顧客や連携先を探したい 産業振興協議会、商社、金融機関、展示会等
生産性を高めたい よろず支援拠点生産性向上支援センター、専門家
補助金を確認したい 栃木県、産業振興センター、商工会・商工会議所
資金を調達したい 金融機関、日本政策金融公庫、信用保証協会
海外へ展開したい ジェトロ栃木、金融機関、商社
契約・知財を確認したい 弁護士、弁理士、知財総合支援窓口
認証を取得したい 認証機関、専門コンサルタント、産業振興センター
支援制度を利用すること自体を目的にしてはいけません。
自社の課題と目標を整理し、必要な支援だけを組み合わせることが重要です。
栃木県の成長産業に関する相談先・支援機関
栃木県の成長産業に関する相談先は、経営、技術、販路、資金などの分野によって異なります。
「成長産業へ参入したい」と相談するだけでなく、現在の状況と相談したい内容を整理してから連絡すると、具体的な支援につながりやすくなります。
栃木県工業振興課へ相談する
栃木県産業労働観光部工業振興課ものづくり企業支援室では、県内ものづくり企業を対象として、技術・製品開発、新分野進出、生産性向上、脱炭素化、人材育成、企業間連携などに関する施策を実施しています。
主な相談内容として、次のようなものが考えられます。
・自動車、航空宇宙、医療福祉機器産業への参入
・半導体、ロボット、宇宙等の新たな重点分野への参入
・技術・製品開発
・成長産業参入支援専門家の活用
・企業間・産学官連携
・実証事業
・生産設備の導入
・脱炭素化
・セミナー、研究会、展示会
・補助金・助成制度
・国の研究開発支援制度に関する相談
栃木県は、戦略3産業と未来技術の振興に向けて、企業、大学、産業支援機関等によるネットワークの構築や各種支援事業を行っています。
出典:栃木県「世界に誇るものづくり県強靱化プロジェクト」
個別制度の募集ページには、対象者、対象事業、申請方法、問い合わせ先が掲載されます。
年度の初めだけでなく、追加募集や新しい事業が実施される場合もあるため、栃木県のWebサイトを定期的に確認しましょう。
出典:栃木県「工業振興課ものづくり企業支援室の事業」
とちぎ産業振興協議会へ参加する
栃木県では、自動車、航空宇宙、医療福祉機器の戦略3産業について、産業振興協議会を設けています。
・とちぎ自動車産業振興協議会
・とちぎ航空宇宙産業振興協議会
・とちぎ医療福祉機器産業振興協議会
協議会では、年度によって次のような事業が実施されます。
・業界動向や技術動向に関するセミナー
・技術者向け研修
・企業見学会
・展示会への共同出展
・大手企業や関係機関との交流
・企業間マッチング
・人材確保・育成
・技術・製品の提案機会
・研究会・ワークショップ
・会員企業間の情報交換
例えば、2026年度の事業では、戦略3産業に携わる企業を対象とした人材育成、企業見学会、販路開拓等が計画されています。
出典:栃木県「とちぎ航空宇宙産業振興協議会」
協議会へ加入しただけで受注できるわけではありません。
自社の技術資料、対応可能な仕様、設備、品質体制、過去の実績を整理し、セミナーや交流会で得た接点を個別の面談や提案へつなげる必要があります。
とちぎ未来技術フォーラムを活用する
とちぎ未来技術フォーラムは、AI・IoT・ロボット、光学、環境・新素材等の未来技術について、企業、大学、支援機関等の連携を促進する枠組みです。
2026年度の事業計画では、次の4つの方針が示されています。
方針 主な内容
知る 技術動向、事例、導入・活用方法を理解する
試す 実証等によって投資効果や実現可能性を確認する
つなぐ 企業、大学、研究機関等との連携を進める
育てる 技術を活用できる組織と人材を育成する
また、半導体・ロボット分野への参入事例や技術を学ぶセミナー、専門技術ワークショップ、技術マッチング、共同研究なども計画されています。
出典:栃木県「とちぎ未来技術フォーラム」
自社が未来技術を開発する場合だけでなく、AIやロボットを自社工場へ導入したい場合、スタートアップ等と連携したい場合にも活用できる可能性があります。
成長産業参入支援専門家派遣を確認する
栃木県では、成長産業への新規参入や販路拡大を目指す県内ものづくり企業に対し、専門家を派遣する事業が実施される場合があります。
2026年度の成長産業参入支援専門家派遣では、主に次の支援が案内されました。
・技術的な強みの見極め
・成長産業へ参入するための事業戦略策定
・業態転換の検討
・自社技術を売り込む方法の指導
・販路拡大に向けた伴走支援
同年度は、原則5回以内、企業側の費用負担なしとして募集されました。募集は終了していますが、同様の事業が次年度以降も実施されるとは限らないため、最新情報を確認してください。
出典:栃木県「令和8(2026)年度成長産業参入支援専門家派遣」
専門家派遣では、短期間ですべての課題を解決することは困難です。
相談前に次の内容を整理しましょう。
・参入したい産業・用途
・参入を検討する理由
・自社の技術・設備
・主要顧客と売上構成
・現在の営業方法
・これまでに行った市場調査
・顧客候補
・不足している技術・人材
・設備投資の予定
・3年程度の売上・利益目標
・専門家へ相談したい事項
栃木県産業振興センターへ相談する
公益財団法人栃木県産業振興センターでは、県内中小企業等を対象に、経営、技術開発、販路開拓、知的財産、専門家派遣、助成金などの支援を行っています。
成長産業への参入では、次のような相談先として活用できます。
・経営課題の整理
・技術開発・新製品開発
・企業間マッチング
・専門家の紹介・派遣
・展示会・商談会
・助成制度
・知的財産
・創業・新事業
・取引上の問題
・研究開発室・インキュベート施設
・関係支援機関との連携
栃木県産業振興センターには複数の相談窓口や支援事業があるため、最初に相談目的を伝え、適切な担当部署を確認しましょう。
出典:栃木県産業振興センター
栃木県産業技術センターへ技術相談を行う
栃木県産業技術センターでは、県内企業の技術的な課題に対して、技術相談、依頼試験、施設・機器利用、研究開発、人材育成などの支援を行っています。
成長産業への参入では、次のような場面で活用できます。
・自社で測定できない項目を評価したい
・試作品の性能を確認したい
・材料や不具合の原因を分析したい
・新しい加工方法を検討したい
・顧客へ提出する評価データを取得したい
・高額な試験・測定機器を利用したい
・大学・他社等との共同研究を検討したい
・技術者向け研修を受けたい
・補助金申請前に技術的な実現可能性を確認したい
出典:栃木県産業技術センター
相談時には、図面、材料、現在の加工条件、不具合の発生状況、顧客要求、目標値などを準備します。
「測ってほしい」とだけ依頼するのではなく、何を判断するための試験なのかを伝えることが重要です。
依頼試験や機器利用には料金が発生する場合があります。予約、試料の準備、結果の証明方法、外部公開の可否なども確認しましょう。
栃木県よろず支援拠点へ経営全体を相談する
栃木県よろず支援拠点は、中小企業・小規模事業者等の経営相談に対応する公的な支援機関です。
中小企業診断士のほか、IT、デザイン、労務、法務、税務等の専門家が、売上拡大や経営改善などの相談へ対応しています。
出典:栃木県よろず支援拠点
成長産業への参入では、次の内容を相談できます。
・経営戦略
・新事業計画
・市場調査
・顧客設定
・商品・サービス設計
・営業・マーケティング
・Webサイト・提案資料
・補助金活用
・資金繰り
・人材・組織
・IT活用
・生産性向上
・法務・知的財産に関する課題整理
技術的な測定や認証審査を直接行う機関ではありませんが、技術開発を事業として成立させるための市場性、収益性、資金計画などを整理する際に活用できます。
よろず支援拠点生産性向上支援センターを活用する
2026年4月には、栃木県よろず支援拠点内に生産性向上支援センターが開設されました。
専門家が企業の現場を訪問し、省力化や生産性向上について複数回の伴走支援を行う制度です。
出典:栃木県よろず支援拠点「生産性向上支援センター」
例えば、次のような課題が対象になります。
・工程間の待ち時間が長い
・手作業や転記が多い
・残業が減らない
・不良や手直しが多い
・作業が特定の従業員へ集中している
・設備を導入すべき工程が分からない
・ロボットやシステムの費用対効果を確認したい
・省力化投資後の業務設計を行いたい
成長産業へ参入する前に既存工場の生産性を高めれば、新規案件を受注するための生産能力を確保しやすくなります。
設備導入の相談だけでなく、工程分析、レイアウト、作業標準、在庫、情報の流れなどを含めて検討しましょう。
商工会・商工会議所へ相談する
所在地を管轄する商工会・商工会議所では、経営計画、金融、補助金、販路開拓、専門家派遣等について相談できます。
主な支援内容は地域や団体によって異なりますが、次のような相談が考えられます。
・経営分析
・事業計画の作成
・補助金・助成金
・融資制度
・専門家派遣
・展示会・商談会
・販路開拓
・創業・新事業
・人材育成
・事業承継
・各種支援機関の紹介
市町が独自の補助制度を設けている場合もあります。
県や国の制度だけでなく、本社や事業所が所在する市町の設備投資、雇用、展示会、知的財産、創業等の支援制度も確認しましょう。
金融機関へ資金と顧客紹介を相談する
金融機関は融資だけでなく、取引先紹介、ビジネスマッチング、補助金情報、事業計画の確認などを行う場合があります。
成長産業への参入に関しては、次の資金を分けて相談しましょう。
・市場調査費
・研究開発費
・試作費
・認証取得費
・設備投資資金
・補助金交付までのつなぎ資金
・原材料・外注費等の運転資金
・採用・人材育成費
・展示会・営業費
・売上入金までの資金
補助金へ採択されても、自己負担分や対象外経費を準備できなければ事業を実施できません。
新規事業は計画どおりに売上が立たない可能性もあるため、売上が計画の50%、入金が数か月遅れた場合などの資金繰りも試算しましょう。
ジェトロ栃木へ海外展開を相談する
成長産業の顧客は国内だけとは限りません。
海外展示会、輸出、海外企業との連携などを検討する場合は、ジェトロ栃木へ相談できます。
ジェトロでは、貿易投資相談、海外市場に関する情報提供、海外展開の専門家支援、商談機会の提供などを行っています。
出典:ジェトロ栃木
海外展開では、顧客開拓だけでなく、次の事項を確認する必要があります。
・輸出規制
・関税
・契約・決済条件
・為替変動
・製品規格・認証
・知的財産
・技術流出
・現地での保守
・物流・梱包
・製造物責任
・輸出管理
・代金回収
・販売代理店の選定
国内で利用している仕様や契約書を、そのまま海外取引へ使えるとは限りません。対象国と製品に応じて専門家へ確認しましょう。
相談先は課題に応じて組み合わせる
一つの支援機関が、経営、技術、契約、資金、販路のすべてを担当できるとは限りません。
例えば、次のように役割を分けます。
課題 主な相談先
参入戦略・収益計画 中小企業診断士、よろず支援拠点
技術開発・測定 産業技術センター、大学
顧客・連携先探索 県、産業振興センター、金融機関、商社
設備資金 金融機関、日本政策金融公庫
補助金 県、産業振興センター、商工団体
契約 弁護士
特許・商標 弁理士、知財総合支援窓口
認証・品質 認証機関、品質管理の専門家
海外展開 ジェトロ栃木、商社、金融機関
相談先同士が自動的に情報を共有するとは限りません。
自社で相談記録を残し、助言内容、担当者、期限、次の行動を管理しましょう。
栃木県の成長産業で活用できる補助金・助成制度
栃木県の成長産業で活用できる補助金・助成制度
栃木県の成長産業への参入では、技術開発、実証、設備導入、販路開拓、認証取得などに補助金・助成金を利用できる場合があります。
ただし、制度は年度ごとに新設、変更、終了されます。
以下は2026年度に実施・公表された主な制度を基にした整理です。募集が終了している制度も含まれるため、実際に申請する際は最新の公募情報を確認してください。
事業段階 活用を検討する支援
市場調査・戦略策定 専門家派遣、よろず支援、商工団体
基礎研究・技術開発 未来チャレンジファンド、Go-Tech事業等
試作・実証 未来技術実装、革新技術導入実証等
共同開発 イノベーションエコシステム関連支援
設備導入 県の生産性向上支援、ものづくり補助金等
供給体制 強化特定重要物資関連の県補助金等
販路開拓 展示会出展、商談会、販路開拓助成
認証取得 未来チャレンジファンド等
海外展開 ジェトロ、海外展示会・外国出願関連支援
人材育成 県の講座、協議会・フォーラムの研修
とちぎ未来チャレンジファンド活用助成事業を確認する
とちぎ未来チャレンジファンド活用助成事業は、県内中小企業者等が行う技術の高度化、新製品開発、生産性向上、販路開拓、認証取得等を支援する制度です。
2026年度には、次の助成事業が案内されています。
助成事業 主な対象 2026年度の助成上限・助成率
技術高度化・製品開発等 技術改善、新製品・新技術の開発等 上限500万円・3分の2以内
生産性向上 生産性向上に必要な取り組み 上限300万円・3分の2以内
販路開拓・認証取得 展示会、販路開拓、認証取得等 上限150万円・3分の2以内
出典:栃木県産業振興センター「とちぎ未来チャレンジファンド活用助成事業」
2026年度第2次募集は、8月17日から9月30日までと案内されています。
出典:栃木県産業振興センター「令和8年度とちぎ未来チャレンジファンド活用助成事業第2次募集」
制度を選ぶ際は、単に設備を購入したいのか、新製品を開発するのか、販路を開拓するのかを区別します。
例えば、設備を導入する場合でも、新製品開発に必要な設備なのか、既存製品の生産性向上に使う設備なのかによって、適切な申請区分や対象経費が異なる可能性があります。
未来技術実装支援事業費補助金を確認する
栃木県では、AI、IoT、ロボット等の未来技術を活用した実証やデータ利活用に関する取り組みを支援する制度が実施される場合があります。
2026年度の未来技術実装支援事業費補助金は最大750万円として募集されましたが、同年度の募集は終了しています。
出典:栃木県「工業振興課ものづくり企業支援室の事業」
活用を検討する場合は、システムや機器の導入だけでなく、次の内容を整理する必要があります。
・解決する経営・社会課題
・使用する技術
・実証する内容
・取得するデータ
・成功条件
・導入前後の比較方法
・実証後の事業化
・県内への波及効果
・技術提供者との役割分担
・継続運用に必要な費用と人材
単なる機器更新やソフトウェア購入では、制度目的に合わない可能性があります。
「何を導入するか」よりも、「どの課題を、どの技術で、どの程度改善し、その成果をどう事業化するか」を明確にしましょう。
ものづくり産業生産性向上支援補助金を確認する
2026年度のものづくり産業生産性向上支援補助金では、県内中小企業者等が行う効率的な生産方法の導入、生産技術の高度化、原材料供給の効率化等に必要な生産設備導入を支援しました。
2026年度の支援内容は、補助上限1,000万円、補助率2分の1以内とされています。同年度は既に交付決定が公表されているため、新規申請ができる状態ではありません。
出典:栃木県「令和8年度ものづくり産業生産性向上支援補助金」
交付決定事例には、航空宇宙関連の検査設備、EV部品の量産設備、半導体関連部品の研磨設備、画像検査、生産自動化などが含まれています。
採択事例を確認すると、制度が重視する課題や計画の具体性を理解できます。
ただし、採択企業と同じ設備を導入すれば採択されるわけではありません。自社の経営課題、導入効果、付加価値、生産性、実現可能性を説明する必要があります。
特定重要物資関連の補助金を確認する
栃木県では、経済安全保障上の特定重要物資等に関連する部品や材料の生産、技術開発、供給体制強化を支援する補助金が実施されています。
2026年度の特定重要物資関連サプライチェーン強靱化支援補助金では、補助上限1,000万円、補助率2分の1以内として、関連する生産設備導入等が支援されました。
出典:栃木県「令和8年度特定重要物資関連サプライチェーン強靱化支援補助金」
対象となり得る物資には、半導体、蓄電池、工作機械・産業用ロボット、航空機部品、先端電子部品、永久磁石、重要鉱物、宇宙機器産業関連物資などがあります。
ただし、対象産業の顧客と取引しているだけで、必ず対象になるとは限りません。
次の内容を説明できるようにしましょう。
・対象となる物資・部品との関係
・サプライチェーン内での自社の役割
・現在の供給上の課題
・設備導入や技術開発による改善
・生産能力や供給安定性の向上
・県内産業への効果
・顧客からの要請や需要の根拠
・原材料・外注先の調達体制
・事業終了後の継続方法
イノベーションエコシステム関連支援を確認する
栃木県では、県内中堅・中小企業等が、大学、試験研究機関、他企業等と連携して行う新技術、新製品、新サービスの開発を支援する事業が実施されています。
2026年度の事業計画では、中小企業等について補助上限2,000万円、補助率2分の1以内のイノベーションエコシステム推進補助金が示されました。
出典:栃木県「令和8年度とちぎ未来技術フォーラム事業計画」
連携事業では、複数の組織が集まるだけでは不十分です。
・各者の強み
・担当する研究・開発
・費用負担
・開発責任者
・意思決定方法
・知的財産の帰属
・成果の利用方法
・事業化後の販売
・収益の分配
・開発中止時の取扱い
これらを事前に明確にする必要があります。
補助期間内に試作品を完成させるだけでなく、その後、誰が製造し、誰が販売し、どの顧客から売上を得るのかまで計画しましょう。
ものづくり補助金を確認する
国の「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」は、中小企業等による革新的な新製品・新サービスの開発や生産性向上等を支援する制度です。
成長産業への参入では、例えば次の取り組みに利用できる可能性があります。
新製品の開発
新しい加工方法の導入
高精度設備の導入
検査工程の自動化
ロボット・IoTの導入
新サービスの構築
海外需要を獲得するための取り組み
ただし、単なる設備更新、既存設備との置換、老朽化対応だけでは、制度目的に合わない場合があります。
公募回によって申請枠、上限額、補助率、賃上げ要件、事業実施期限等が変わるため、最新の公募要領を確認してください。
出典:ものづくり補助金総合サイト
申請では、設備の性能だけでなく、次の内容を一貫して説明する必要があります。
・顧客課題
・市場の成長性
・自社の強み
・新製品・サービスの新規性
・競合との差
・設備が必要な理由
・売上・利益計画
・付加価値額や生産性の向上
・実施体制
・資金調達
・実施スケジュール
・事業化後の販路
Go-Tech事業を確認する
成長型中小企業等研究開発支援事業、いわゆるGo-Tech事業は、中小企業者等が大学、公設試験研究機関等と連携して行う研究開発や、その事業化を支援する国の制度です。
2026年度も公募が実施され、採択結果が公表されています。
出典:中小企業庁「令和8年度成長型中小企業等研究開発支援事業」
次のような取り組みで活用を検討できます。
・高度な加工技術の開発
・新素材・表面処理技術
・検査・測定技術
・医療機器関連技術
・半導体関連技術
・航空宇宙関連技術
・AI・ロボット等を活用した製造技術
・大学等の研究成果を活用した製品開発
一般的な設備投資補助金と異なり、研究開発体制、技術的な課題、共同研究先、事業化計画などを詳細に整理する必要があります。
申請準備に時間がかかるため、公募開始後に連携先を探すのではなく、事前に研究テーマ、役割、知的財産、顧客ニーズを整理しましょう。
補助金の対象経費を事前に確認する
同じ名称の経費でも、制度によって対象・対象外が異なります。
主な確認事項は次のとおりです。
・機械装置費
・システム構築費
・材料費
・外注費
・委託費
・専門家費
・技術導入費
・知的財産関連費
・認証取得費
・展示会出展費
・広告費
・旅費
・人件費
・建物・改修費
・クラウド利用費
・運搬・設置費
・消費税
・中古設備
・リース・レンタル費
・汎用性の高いパソコンや車両
例えば、設備本体は対象でも、設置工事、保守契約、消費税、既存設備の撤去費が対象外になる場合があります。
見積書を取得する前に、公募要領の対象経費と対象外経費を確認しましょう。
交付決定前に契約・発注・支払いを行わない
多くの補助制度では、交付決定前に契約、発注、納品、支払いを行った経費は補助対象になりません。
「採択された」という連絡と「交付決定」は異なる場合があります。
一般的な流れは次のとおりです。
①公募要領を確認する
②事業計画を作成する
③申請する
④審査を受ける
⑤採択・交付候補者として選定される
⑥交付申請を行う
⑦交付決定を受ける
⑧契約・発注・事業を開始する
⑨支払いを行う
⑩実績報告を行う
⑪確定検査を受ける
⑫補助金を請求・受領する
制度によって手順は異なりますが、申請前や交付決定前の発注が認められると自己判断してはいけません。
納期の長い設備を導入する場合は、交付決定予定日、設備納期、支払日、補助事業完了期限を逆算しましょう。
補助金は原則として後払いになる
補助金は、事業費を先に支払い、実績報告や検査を経た後に交付されることが一般的です。
例えば、2,000万円の設備を導入し、補助率が2分の1の場合でも、最初から1,000万円だけを準備すればよいとは限りません。
一時的には設備代金の全額に加え、消費税や対象外経費も準備する必要があります。
◆最大立替額=補助対象経費の支払額+対象外経費+消費税-支払時点までに受け取れる資金
補助金が入金されるまでの期間も考慮し、自己資金、融資、つなぎ資金を金融機関へ相談しましょう。
採択と交付額を保証されたものと考えない
補助金へ申請しても、必ず採択されるわけではありません。
採択されても、次の理由で申請額どおりに交付されない可能性があります。
・対象外経費が含まれている
・発注・支払い手続きに不備がある
・事業内容を無断で変更した
・実施期限に間に合わなかった
・必要な証拠書類がない
・見積書や選定理由が不十分である
・支払い方法が要件を満たしていない
・実績報告の内容が申請内容と異なる
・取得した設備を目的外に使用した
・賃上げ等の要件を達成できなかった
補助金を受け取れない場合でも支払える事業規模にすることが重要です。
申請書は設備の説明だけで終わらせない
申請書で中心となるのは、購入する設備の機能ではなく、事業としての必要性と成果です。
次の流れを一貫させましょう。
◆経営課題→市場・顧客ニーズ→自社の強み→実施する事業→必要な設備・経費→実施体制→売上・利益等の成果
例えば、「最新の加工機を導入する」という説明だけでは、なぜその設備が必要なのか分かりません。
次のように具体化します。
・現在は加工できない形状や精度がある
・顧客から具体的な引き合いがある
・外注では納期と原価の条件を満たせない
・設備導入により新しい加工を内製化する
・生産時間や不良率を改善する
・半導体や航空宇宙分野の新規顧客へ提案する
・3年間で売上と付加価値を増加させる
顧客名を開示できない場合でも、商談記録、見積依頼、仕様書、アンケート、統計等を使い、需要の根拠を示しましょう。
補助事業の採算を通常事業と分けて確認する
補助金を受けられると、設備購入時の自己負担は減少します。
しかし、導入後には次の費用が継続して発生します。
・減価償却費
・人件費
・電気代
・保守費
・ソフトウェア利用料
・金利
・材料費
・工具・消耗品
・検査費
・修繕費
・教育費
・営業費
補助金を差し引いた投資額だけでなく、導入後の収益性を確認します。
◆年間投資効果=増加する限界利益+削減できる費用-追加固定費-追加運営費
売上が増えても、材料費、外注費、人件費、保守費等が増加し、利益が残らない場合があります。
計画受注量、50%の受注量、受注ゼロの3通り程度で収支と資金繰りを試算しましょう。
複数の補助金を同じ経費へ重複利用しない
国、県、市町等の制度を組み合わせられる場合でも、同じ設備や経費へ複数の補助金を重複して充当することは、一般的に認められません。
確認する主な事項は次のとおりです。
・同じ経費への重複申請が可能か
・別の経費であれば併用できるか
・同じ事業目的での併用が可能か
・国費を財源とする制度同士ではないか
・申請中の制度を申告する必要があるか
・採択後に一方を辞退できるか
判断が難しい場合は、両方の事務局へ事前に確認し、回答を記録しておきましょう。
申請前にGビズID等を準備する
国の補助金では、電子申請にGビズIDプライムが必要になる場合があります。
アカウントの取得や登録情報の変更に時間がかかる可能性があるため、公募開始後ではなく早めに準備します。
また、申請時には次の資料が必要になる場合があります。
・履歴事項全部証明書
・決算書
・確定申告書
・納税証明書
・従業員数の確認資料
・賃金台帳
・見積書
・設備仕様書・カタログ
・株主・役員情報
・事業計画書
・資金調達計画
・認定支援機関等の確認書
・連携先との契約・同意書
・顧客ニーズを示す資料
必要書類は制度ごとに異なるため、過去の申請資料をそのまま流用せず、最新の様式を使用してください。
補助金の採択後も成果を管理する
補助金は、設備を導入して終了するものではありません。
導入後は、申請時に設定した目標と実績を比較します。
分野 主な確認指標
売上 新規事業売上、新規顧客数、受注額
利益粗 利益、営業利益、限界利益
生産性 生産量、作業時間、1人当たり付加価値
品質 不良率、返品、手直し、顧客評価
納期 製造期間、納期遵守率、緊急対応件数
設備 稼働率、停止時間、保守・修繕費
市場 商談数、試作数、量産移行率
人材 担当者数、技能習得、教育時間
技術 新技術、特許、標準化した工程
投資 投資回収期間、資金繰り、借入返済
申請時の計画を達成できていない場合は、顧客、価格、営業方法、工程、品質、設備稼働率等のどこに問題があるかを確認します。
採択されたことを成果とせず、売上、利益、顧客、技術、人材へつながったかを検証しましょう。
相談前に準備する資料を整理する
支援機関へ相談する際は、すべての資料がそろっていなくても問題ありません。
ただし、次の情報があると、具体的な支援や制度を提案してもらいやすくなります。
・会社概要
・直近3期分の決算書
・月次試算表
・商品・サービス別の売上と利益
・主要顧客と売上構成
・自社の技術・設備一覧
・取得している認証
・組織図・従業員数
・参入したい産業・用途
・顧客候補
・現在の引き合い・商談
・開発・導入したい技術や設備
・概算事業費
・実施スケジュール
・自己資金・借入予定
・3~5年間の売上・利益計画
・不足している人材・技術
・相談したい内容
資料を提出する場合は、顧客名、図面、加工条件、研究データ等の秘密情報が含まれていないか確認します。
支援制度を活用する手順をまとめる
栃木県の成長産業へ参入する際の支援活用は、次のように進めます。
①自社の経営課題と参入目的を整理する
②対象とする産業、用途、顧客を絞る
③自社の強みと不足する経営資源を確認する
④栃木県、産業振興センター、よろず支援拠点等へ相談する
⑤技術課題は産業技術センター、大学等へ相談する
⑥顧客ヒアリングや試作によって需要を確認する
⑦必要な設備、人材、外部連携を決める
⑧事業段階に合う補助金・助成金を探す
⑨公募要領と対象経費を確認する
⑩売上・利益・資金繰りを含む事業計画を作成する
⑪金融機関へ自己負担分と立替資金を相談する
⑫採択・交付決定後に事業を実施する
⑬証拠書類と支払い記録を管理する
⑭実績報告を行う
⑮事業化後の成果をKPIで検証する
栃木県の成長産業へ参入するには、補助金の公募を待ってから計画を作るのではなく、先に顧客課題、自社の強み、実施内容、収益性を整理することが重要です。
補助金は、実行すべき事業の負担を軽減する手段です。採択されるための計画ではなく、補助金がなくても自社が取り組む価値のある事業を基本にしましょう。
Komaki Business Partnersでは、栃木県内の中小企業を対象に、成長産業への参入に向けた経営分析、自社の強みの可視化、市場・顧客の整理、新事業計画、設備投資計画、収益・資金繰りの試算、補助金活用、販路開拓、KPI管理などを支援しています。
「自社の技術がどの成長産業で活かせるか分からない」「設備を導入する前に採算を確認したい」「補助金の申請に必要な事業計画を整理したい」「展示会へ出展しても商談につながらない」といった場合は、設備の発注や申請を行う前にご相談ください。
なお、補助金・助成金の制度内容、募集期間、対象経費等は変更される場合があります。実際に利用する際は、最新の公募要領を確認し、必要に応じて事務局、金融機関、税理士、弁護士、弁理士等へ相談してください。
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